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第1章
第6話 夢ではなかった
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ユートリーがあの声の主を見つける前に、城から帰館したマーカスがユートリーを呼んだ。
─やはり夢ではないのね、あれはすべてが現実・・・─
何を言われるかはわかっていたが、避けることはできない。
「お呼びとうかがいましたわ、お父様」
「ああ、座りなさい。落ち着いて聞くのだよ」
「何かございましたの?」
真っ青な父の動揺ぶりもあの時と同じ。
「ナイジェルス殿下の馬車が襲われたと連絡があった」
その口から苦しげに吐き出された言葉も、まったく同じであった。
ただ違うのは、ユートリーが叫び声をあげたり気絶したりはしなかったこと。
もちろん何を聞くのか知っていても、苦しく悲しみがこみ上げてくることは少しも変わらない。
「ううっ」
うめき声とともに涙を流し続けるユートリーを、マーカスは自ら部屋へ連れていき、ベッドに横たえて休むように勧めた。
「おと・・さま」
「トリー、今皆が必死にナイジェルス殿下を探している。遠く離れた所にいる私たちには祈ることしかできないんだ。わかるね」
「はい」
声を殺して布団に潜り込む娘の頭を、小さな子どもにするようにそっと撫でたマーカスは、灯りを消して部屋を出ていった。
─私は本当に時間を遡ってしまったんだわ。ナイジェルス様!無事でいらして・・・。神様、どうかナイジェルス様をお守りください─
心の何処かでは時を遡るなんて信じ切れず、夢だと思おうとしていたが。
暗い部屋の布団の中で消耗した体を横たえ、まんじりともせず神に願い続けてどれほど時間が経っただろう?
静かに、とても静かにドアの把手が動いたことに気がついた。
─誰か来た!─
隙間から部屋の中の気配を窺っているようだ。
ユートリーは極力規則正しい呼吸を心がけ、覗いている者の動向を確認している。
暗がりの中、足音を忍ばせて入ってきたのはそのシルエットから小柄な女のようだ。
ベッドに向かってくるので急いで目を閉じて待つ。
じっとしているユートリーを覗き込む気配がしたと思うと、カサカサと紙を捲るような音がした。
気づかれぬようほんの少しだけ薄目を開けて見ると、睫毛の向こうで女がベッドサイドテーブルに置かれた水差しに何かの粉を入れていたのだ。
─あれが毒ね!これは誰かしら?今夜はひとりなのね─
「ふふ、これでいいわ。せめてもの情け、ふたりともあの世に送ってやるわ」
その小さな呟きには聞き覚えがあった。
あのときの女に違いない!
起き上がって捕まえ、どこの誰なのか知りたかったが、もうひとりの女との繋がりを知るまでは泳がせておかねばならない。
片割れを捕まえても、このようなことをする者たちがそう簡単に口を割るとは思えないから証拠が必要だ。
何とか横顔を見たがやはり見覚えはない女、服装を見るからにメイドのようだ。纏めている髪の色を覚えて、また瞼を閉じた。
─ああやって、飲み水に毒を入れていたのね─
献身的にユートリーの世話をしていたタラは物言わぬ主に、喉が渇いたでしょうと、何度も何度も水差しから吸い飲みに移した水を飲ませてくれたのだが。それとは知らず毒を飲ませていたのだ。
女が部屋から出て行くのを待ってベッドから起き上がったユートリーは、暗がりの中、花瓶を手に取って花を引き抜くとテーブルに乗せた。
水だけが入った花瓶と、毒が入っているはずの水差しを持つと、暗がりの中、続き部屋に設えられた湯浴みの浴槽に向かう。
花瓶の水を空けて洗い、水差しの水を花瓶に入れ替えて水差しを水ですすぐと、きれいな水を満たして。
毒入りの花瓶は、ベッドの下に隠すようにしまい込んだ。
─やはり夢ではないのね、あれはすべてが現実・・・─
何を言われるかはわかっていたが、避けることはできない。
「お呼びとうかがいましたわ、お父様」
「ああ、座りなさい。落ち着いて聞くのだよ」
「何かございましたの?」
真っ青な父の動揺ぶりもあの時と同じ。
「ナイジェルス殿下の馬車が襲われたと連絡があった」
その口から苦しげに吐き出された言葉も、まったく同じであった。
ただ違うのは、ユートリーが叫び声をあげたり気絶したりはしなかったこと。
もちろん何を聞くのか知っていても、苦しく悲しみがこみ上げてくることは少しも変わらない。
「ううっ」
うめき声とともに涙を流し続けるユートリーを、マーカスは自ら部屋へ連れていき、ベッドに横たえて休むように勧めた。
「おと・・さま」
「トリー、今皆が必死にナイジェルス殿下を探している。遠く離れた所にいる私たちには祈ることしかできないんだ。わかるね」
「はい」
声を殺して布団に潜り込む娘の頭を、小さな子どもにするようにそっと撫でたマーカスは、灯りを消して部屋を出ていった。
─私は本当に時間を遡ってしまったんだわ。ナイジェルス様!無事でいらして・・・。神様、どうかナイジェルス様をお守りください─
心の何処かでは時を遡るなんて信じ切れず、夢だと思おうとしていたが。
暗い部屋の布団の中で消耗した体を横たえ、まんじりともせず神に願い続けてどれほど時間が経っただろう?
静かに、とても静かにドアの把手が動いたことに気がついた。
─誰か来た!─
隙間から部屋の中の気配を窺っているようだ。
ユートリーは極力規則正しい呼吸を心がけ、覗いている者の動向を確認している。
暗がりの中、足音を忍ばせて入ってきたのはそのシルエットから小柄な女のようだ。
ベッドに向かってくるので急いで目を閉じて待つ。
じっとしているユートリーを覗き込む気配がしたと思うと、カサカサと紙を捲るような音がした。
気づかれぬようほんの少しだけ薄目を開けて見ると、睫毛の向こうで女がベッドサイドテーブルに置かれた水差しに何かの粉を入れていたのだ。
─あれが毒ね!これは誰かしら?今夜はひとりなのね─
「ふふ、これでいいわ。せめてもの情け、ふたりともあの世に送ってやるわ」
その小さな呟きには聞き覚えがあった。
あのときの女に違いない!
起き上がって捕まえ、どこの誰なのか知りたかったが、もうひとりの女との繋がりを知るまでは泳がせておかねばならない。
片割れを捕まえても、このようなことをする者たちがそう簡単に口を割るとは思えないから証拠が必要だ。
何とか横顔を見たがやはり見覚えはない女、服装を見るからにメイドのようだ。纏めている髪の色を覚えて、また瞼を閉じた。
─ああやって、飲み水に毒を入れていたのね─
献身的にユートリーの世話をしていたタラは物言わぬ主に、喉が渇いたでしょうと、何度も何度も水差しから吸い飲みに移した水を飲ませてくれたのだが。それとは知らず毒を飲ませていたのだ。
女が部屋から出て行くのを待ってベッドから起き上がったユートリーは、暗がりの中、花瓶を手に取って花を引き抜くとテーブルに乗せた。
水だけが入った花瓶と、毒が入っているはずの水差しを持つと、暗がりの中、続き部屋に設えられた湯浴みの浴槽に向かう。
花瓶の水を空けて洗い、水差しの水を花瓶に入れ替えて水差しを水ですすぐと、きれいな水を満たして。
毒入りの花瓶は、ベッドの下に隠すようにしまい込んだ。
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