14 / 80
第1章
第14話 疑惑
しおりを挟む
「兄様、確証がない話なのです。だからこれは・・・」
サルジャンの腕に触れたユートリーの手が震えている。
「うむ、それでも聞かせてくれ」
大きな温かな手で、安心させるようにサルジャンがユートリーの手を握って擦る。
「タラたちはしばし席を外してくれ。エルジェもだぞ」
漏れなく人払いをすると、ユートリーの隣にピタッと身を寄せて耳を差し出した。
「香りが・・・」
「自信はありません。私自身、信じられないし、信じたくありません。兄様、私のことを頭がおかしくなったと思われるかもしれませんし、そんなことを言うなとお怒りになるかもしれません」
「大丈夫だから話してみろ。予断を持たず、ちゃんと公平公正に検証してやる」
真剣なサルジャンの瞳に促され、ユートリーは思い切って口を開いた。
「花のような甘い香りがふんわりと漂って、それが・・・」
話を聞き終えたサルジャンは放心していた。
まさか、そんなはずがあるわけがないと。しかしユートリーが嘘をつくことはないとも信じている。
毒を入れられたという水の分析がそろそろ届くはずだから、それを確認すればユートリーが本当のことを言っているのか、それともユートリーがナイジェルス殿下の事件に衝撃を受けて混乱してしまっただけかがわかるだろう。
混乱しているだけならどれほどいいか。
だってそんなことをする理由がないのだ。
血の繋がった本当の家族より家族らしいと、それがソイスト家の自慢だったのだ。
「トリー、少し時間をくれ。きちんと調べるから、私を信じて待っていてくれ」
「ええ。信じています兄様を。どうか私の勘違いだと証明してください」
ユートリーは、話せば荒唐無稽と叱られるのではないかと怯えていた。兄がすべてを信じたとは限らないが、調べてみると言ったことにほっとして、思わず涙をこぼす。
「トリー、大丈夫だ。おまえの心配や不安や戸惑いはすべて理解しているから。ちゃんと白黒つけてやるから安心して待っていてくれ」
そうは言ったが、サルジャンは受けた衝撃の大きさにどくんどくんと脈打つ鼓動と不快な気持ちを感じながら、ユートリーの部屋を後にした。
「父上に相談しなければ・・・。信じてくださるだろうか」
─家族の中でもっとも彼女を可愛がってきたトリーが、それを口にするには相当な葛藤があったはずだ。
それなりの根拠がなければ、決して言わなかっただろう─
混乱が見せた幻だと思いたい、思いたい、思いたい。サルジャンは苦しさにぎゅっと強く瞼を閉じ、廊下の壁に寄りかかって座り込んだ。
「サルジャン様!」
一向に戻らないサルジャンを探しに来たジュランが驚いて駆け寄り、廊下にぺったりと座り込むサルジャンを抱き上げて立たせてやる。
「大丈夫ですか?」
「・・・ん。どうだろう。考えねばならないことが多すぎてパンクしたらしい」
「じゃあ部屋で整理しましょう、手伝いますよ。カールが例の結果も持ってきましたから」
サルジャンが目を見開いて、ジュランを見た。
「なんだって?結果は聞いたか?」
「いや、まだです。サルジャン様に直接話すと待っています」
鑑定を依頼したカール・ロイナンはサルジャンとジュランの学友なので、心配のない良い話ならジュランにさらりと伝えたことだろう。
しかしサルジャンを待つということは、直接話さねばならないような、良くない状況だということだ。少なくともグレー以上は間違いない。
「そうか。ではやはり真実・・・」
項垂れたサルジャンの背中を慰めるようにジュランが擦ってやる。
「何があったんです?ユートリー様から何を?」
「うん、まずは父上と話さねばならない。ジュラン、父上に至急の面会を伝えてきてくれ。私はカールを連れて、父上の所に行く」
サルジャンの腕に触れたユートリーの手が震えている。
「うむ、それでも聞かせてくれ」
大きな温かな手で、安心させるようにサルジャンがユートリーの手を握って擦る。
「タラたちはしばし席を外してくれ。エルジェもだぞ」
漏れなく人払いをすると、ユートリーの隣にピタッと身を寄せて耳を差し出した。
「香りが・・・」
「自信はありません。私自身、信じられないし、信じたくありません。兄様、私のことを頭がおかしくなったと思われるかもしれませんし、そんなことを言うなとお怒りになるかもしれません」
「大丈夫だから話してみろ。予断を持たず、ちゃんと公平公正に検証してやる」
真剣なサルジャンの瞳に促され、ユートリーは思い切って口を開いた。
「花のような甘い香りがふんわりと漂って、それが・・・」
話を聞き終えたサルジャンは放心していた。
まさか、そんなはずがあるわけがないと。しかしユートリーが嘘をつくことはないとも信じている。
毒を入れられたという水の分析がそろそろ届くはずだから、それを確認すればユートリーが本当のことを言っているのか、それともユートリーがナイジェルス殿下の事件に衝撃を受けて混乱してしまっただけかがわかるだろう。
混乱しているだけならどれほどいいか。
だってそんなことをする理由がないのだ。
血の繋がった本当の家族より家族らしいと、それがソイスト家の自慢だったのだ。
「トリー、少し時間をくれ。きちんと調べるから、私を信じて待っていてくれ」
「ええ。信じています兄様を。どうか私の勘違いだと証明してください」
ユートリーは、話せば荒唐無稽と叱られるのではないかと怯えていた。兄がすべてを信じたとは限らないが、調べてみると言ったことにほっとして、思わず涙をこぼす。
「トリー、大丈夫だ。おまえの心配や不安や戸惑いはすべて理解しているから。ちゃんと白黒つけてやるから安心して待っていてくれ」
そうは言ったが、サルジャンは受けた衝撃の大きさにどくんどくんと脈打つ鼓動と不快な気持ちを感じながら、ユートリーの部屋を後にした。
「父上に相談しなければ・・・。信じてくださるだろうか」
─家族の中でもっとも彼女を可愛がってきたトリーが、それを口にするには相当な葛藤があったはずだ。
それなりの根拠がなければ、決して言わなかっただろう─
混乱が見せた幻だと思いたい、思いたい、思いたい。サルジャンは苦しさにぎゅっと強く瞼を閉じ、廊下の壁に寄りかかって座り込んだ。
「サルジャン様!」
一向に戻らないサルジャンを探しに来たジュランが驚いて駆け寄り、廊下にぺったりと座り込むサルジャンを抱き上げて立たせてやる。
「大丈夫ですか?」
「・・・ん。どうだろう。考えねばならないことが多すぎてパンクしたらしい」
「じゃあ部屋で整理しましょう、手伝いますよ。カールが例の結果も持ってきましたから」
サルジャンが目を見開いて、ジュランを見た。
「なんだって?結果は聞いたか?」
「いや、まだです。サルジャン様に直接話すと待っています」
鑑定を依頼したカール・ロイナンはサルジャンとジュランの学友なので、心配のない良い話ならジュランにさらりと伝えたことだろう。
しかしサルジャンを待つということは、直接話さねばならないような、良くない状況だということだ。少なくともグレー以上は間違いない。
「そうか。ではやはり真実・・・」
項垂れたサルジャンの背中を慰めるようにジュランが擦ってやる。
「何があったんです?ユートリー様から何を?」
「うん、まずは父上と話さねばならない。ジュラン、父上に至急の面会を伝えてきてくれ。私はカールを連れて、父上の所に行く」
31
あなたにおすすめの小説
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
婚約破棄されました。
まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。
本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。
ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。
習作なので短めの話となります。
恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。
ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。
Copyright©︎2020-まるねこ
魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結】彼を幸せにする十の方法
玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。
フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。
婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。
しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。
婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。
婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる