【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる

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第1章

第14話 疑惑

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「兄様、確証がない話なのです。だからこれは・・・」

 サルジャンの腕に触れたユートリーの手が震えている。

「うむ、それでも聞かせてくれ」

 大きな温かな手で、安心させるようにサルジャンがユートリーの手を握って擦る。

「タラたちはしばし席を外してくれ。エルジェもだぞ」

 漏れなく人払いをすると、ユートリーの隣にピタッと身を寄せて耳を差し出した。

「香りが・・・」

「自信はありません。私自身、信じられないし、信じたくありません。兄様、私のことを頭がおかしくなったと思われるかもしれませんし、そんなことを言うなとお怒りになるかもしれません」
「大丈夫だから話してみろ。予断を持たず、ちゃんと公平公正に検証してやる」

 真剣なサルジャンの瞳に促され、ユートリーは思い切って口を開いた。

「花のような甘い香りがふんわりと漂って、それが・・・」



 話を聞き終えたサルジャンは放心していた。
 まさか、そんなはずがあるわけがないと。しかしユートリーが嘘をつくことはないとも信じている。
 毒を入れられたという水の分析がそろそろ届くはずだから、それを確認すればユートリーが本当のことを言っているのか、それともユートリーがナイジェルス殿下の事件に衝撃を受けて混乱してしまっただけかがわかるだろう。

 混乱しているだけならどれほどいいか。
だってそんなことをする理由がないのだ。
血の繋がった本当の家族より家族らしいと、それがソイスト家の自慢だったのだ。

「トリー、少し時間をくれ。きちんと調べるから、私を信じて待っていてくれ」
「ええ。信じています兄様を。どうか私の勘違いだと証明してください」

 ユートリーは、話せば荒唐無稽と叱られるのではないかと怯えていた。兄がすべてを信じたとは限らないが、調べてみると言ったことにほっとして、思わず涙をこぼす。

「トリー、大丈夫だ。おまえの心配や不安や戸惑いはすべて理解しているから。ちゃんと白黒つけてやるから安心して待っていてくれ」


 そうは言ったが、サルジャンは受けた衝撃の大きさにどくんどくんと脈打つ鼓動と不快な気持ちを感じながら、ユートリーの部屋を後にした。

「父上に相談しなければ・・・。信じてくださるだろうか」

 ─家族の中でもっとも彼女を可愛がってきたトリーが、それを口にするには相当な葛藤があったはずだ。
それなりの根拠がなければ、決して言わなかっただろう─

 混乱が見せた幻だと思いたい、思いたい、思いたい。サルジャンは苦しさにぎゅっと強く瞼を閉じ、廊下の壁に寄りかかって座り込んだ。





「サルジャン様!」

 一向に戻らないサルジャンを探しに来たジュランが驚いて駆け寄り、廊下にぺったりと座り込むサルジャンを抱き上げて立たせてやる。

「大丈夫ですか?」
「・・・ん。どうだろう。考えねばならないことが多すぎてパンクしたらしい」
「じゃあ部屋で整理しましょう、手伝いますよ。カールが例の結果も持ってきましたから」

 サルジャンが目を見開いて、ジュランを見た。

「なんだって?結果は聞いたか?」
「いや、まだです。サルジャン様に直接話すと待っています」

 鑑定を依頼したカール・ロイナンはサルジャンとジュランの学友なので、心配のない良い話ならジュランにさらりと伝えたことだろう。
 しかしサルジャンを待つということは、直接話さねばならないような、良くない状況だということだ。少なくともグレー以上は間違いない。

「そうか。ではやはり真実・・・」

 項垂れたサルジャンの背中を慰めるようにジュランが擦ってやる。

「何があったんです?ユートリー様から何を?」
「うん、まずは父上と話さねばならない。ジュラン、父上に至急の面会を伝えてきてくれ。私はカールを連れて、父上の所に行く」
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