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第3章
第67話 父の気づき
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「それにトローザー殿下がミイヤに婚約をチラつかせても、トリーがいる間はそれは叶わない。だろう?」
サルジャンは疑問で返した。
「ミイヤがトローザー殿下と婚約するためにトリーが邪魔だったと?」
「うむ。だがミイヤがそこまで考えつくとは思えんから、トローザー殿下が唆したのだろう。しかし姉を殺めてまで手に入れようとしたトローザー殿下は、今や隣国の公女に夢中だ。笑える話だな」
ふうーと大きく、ため息なのかマーカスが吐き出す。
「騙されたとわかっても、かわいそうだとはこれっぽっちも思えんな」
「私もです。それにしても・・・トローザー殿下はミイヤを騙して動かし、ナイジェルス殿下とトリーを排除したあと、ミイヤをどうするつもりなんですかね?既にイスハの公女がいるのだから、第二夫人にでもしてソイスト侯爵家を自分の後ろ盾にするつもりなのか?」
とてつもなく不快そうにサルジャンの顔が歪む。
「私とゴールダイン殿下との付き合いは、そのようなことでひっくり返りはしませんが」
顔を引き攣らせるサルジャンは、怒りのせいか喉を潤すように茶を飲み干したあと、先を続けた。
「それで我が家が後ろ盾にならないと決めたら、どうするつもりだったのでしょうね」
「そこは考慮の上だろう。トローザー殿下につかなかった場合、我らはただの邪魔者だ。トリーの毒殺をミイヤの罪と暴いて、ソイスト一門を第一王子派の小貴族の一つのように貶める・・・。なあ、トリーの件はそっちが目的ではないか?
ナイジェルス殿下を屠り、ゴールダイン殿下の後ろ盾となるソイストを、ミイヤにトリーに手をかけさせることで引き摺り下ろし、イスハの公女を娶ったとしたら」
ひゅっと誰かが息を呑む音が漏れた。
国内貴族のゴールダインの婚約者より、他国とはいえ、元は先代王妹のお孫様につく貴族も多いだろう。
となればゴールダインの地位も間違いなく脅かされる・・・
「ミイヤを動かしたのがトローザー殿下とわかる証拠を、すべてもれなく抑えて保管しておかねばならん」
本当なら捨てなければいけなかったトローザーからの手紙は、部屋を探されるなど考えたこともなかったミイヤの手元に残されていた。バルーの精緻な複製をミイヤの部屋に戻して、いま原本はマーカスの手中にある。
しかし見逃したものもあるかもしれないと、一斉に動き出した。
「ミイヤが愚かだったのが、今となっては実にありがたいな」
目は鋭さを残したまま、マーカスは口元をあげて笑ってみせた。
推測に過ぎないがと、マーカスが秘密裡に国王に状況を報告したあと、キャロラ妃の茶会で国王の影たちが、トローザーとミイヤの接触を全方向からどんな会話も見逃さず、更に証拠を固める手筈を整えられた。
「まあ!キャロラ妃様のお茶会ですって!」
一際華やいだ歓声をあげたミイヤである。
まだ公にはしていないが(今後もしないが)国王陛下夫妻には極秘裏にユートリーの死を報せ、弔辞を賜ったと使用人たちには知らしめた。
「キャロラ妃は極秘事項を知る立場ではないのですね、そうでなければいくら公にされていないとはいえ、喪中のソイスト侯爵家に茶会の招待状送るなど非常識なことをなさるはずがありませんから」
招待状を届けた執事のスチューが、わざと使用人たちに聞こえるよう呟きながら去っていく。
ミイヤはまた城に行ける、トローザーに会えると夢中でスチューの呟きには気づかなかったが、侍女たちはさすがに冷めた視線で見つめている。
「何を着ていこうかしら」
喪中だというのに浮かれて部屋に戻るとクローゼットを開け、ドレスを取り出して当て始めたその姿を見た者たちから、まことしやかに噂が広まり始めていた。
「ミイヤ様がユートリー様を殺めたのではないか」と。
サルジャンは疑問で返した。
「ミイヤがトローザー殿下と婚約するためにトリーが邪魔だったと?」
「うむ。だがミイヤがそこまで考えつくとは思えんから、トローザー殿下が唆したのだろう。しかし姉を殺めてまで手に入れようとしたトローザー殿下は、今や隣国の公女に夢中だ。笑える話だな」
ふうーと大きく、ため息なのかマーカスが吐き出す。
「騙されたとわかっても、かわいそうだとはこれっぽっちも思えんな」
「私もです。それにしても・・・トローザー殿下はミイヤを騙して動かし、ナイジェルス殿下とトリーを排除したあと、ミイヤをどうするつもりなんですかね?既にイスハの公女がいるのだから、第二夫人にでもしてソイスト侯爵家を自分の後ろ盾にするつもりなのか?」
とてつもなく不快そうにサルジャンの顔が歪む。
「私とゴールダイン殿下との付き合いは、そのようなことでひっくり返りはしませんが」
顔を引き攣らせるサルジャンは、怒りのせいか喉を潤すように茶を飲み干したあと、先を続けた。
「それで我が家が後ろ盾にならないと決めたら、どうするつもりだったのでしょうね」
「そこは考慮の上だろう。トローザー殿下につかなかった場合、我らはただの邪魔者だ。トリーの毒殺をミイヤの罪と暴いて、ソイスト一門を第一王子派の小貴族の一つのように貶める・・・。なあ、トリーの件はそっちが目的ではないか?
ナイジェルス殿下を屠り、ゴールダイン殿下の後ろ盾となるソイストを、ミイヤにトリーに手をかけさせることで引き摺り下ろし、イスハの公女を娶ったとしたら」
ひゅっと誰かが息を呑む音が漏れた。
国内貴族のゴールダインの婚約者より、他国とはいえ、元は先代王妹のお孫様につく貴族も多いだろう。
となればゴールダインの地位も間違いなく脅かされる・・・
「ミイヤを動かしたのがトローザー殿下とわかる証拠を、すべてもれなく抑えて保管しておかねばならん」
本当なら捨てなければいけなかったトローザーからの手紙は、部屋を探されるなど考えたこともなかったミイヤの手元に残されていた。バルーの精緻な複製をミイヤの部屋に戻して、いま原本はマーカスの手中にある。
しかし見逃したものもあるかもしれないと、一斉に動き出した。
「ミイヤが愚かだったのが、今となっては実にありがたいな」
目は鋭さを残したまま、マーカスは口元をあげて笑ってみせた。
推測に過ぎないがと、マーカスが秘密裡に国王に状況を報告したあと、キャロラ妃の茶会で国王の影たちが、トローザーとミイヤの接触を全方向からどんな会話も見逃さず、更に証拠を固める手筈を整えられた。
「まあ!キャロラ妃様のお茶会ですって!」
一際華やいだ歓声をあげたミイヤである。
まだ公にはしていないが(今後もしないが)国王陛下夫妻には極秘裏にユートリーの死を報せ、弔辞を賜ったと使用人たちには知らしめた。
「キャロラ妃は極秘事項を知る立場ではないのですね、そうでなければいくら公にされていないとはいえ、喪中のソイスト侯爵家に茶会の招待状送るなど非常識なことをなさるはずがありませんから」
招待状を届けた執事のスチューが、わざと使用人たちに聞こえるよう呟きながら去っていく。
ミイヤはまた城に行ける、トローザーに会えると夢中でスチューの呟きには気づかなかったが、侍女たちはさすがに冷めた視線で見つめている。
「何を着ていこうかしら」
喪中だというのに浮かれて部屋に戻るとクローゼットを開け、ドレスを取り出して当て始めたその姿を見た者たちから、まことしやかに噂が広まり始めていた。
「ミイヤ様がユートリー様を殺めたのではないか」と。
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