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第3章
第68話 暴発
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キャロラ妃の茶会の日。
嫌でたまらないトローザーも、何ら変わりなく平常である様を見せるために参加することになってしまった。
もうどうでもよいのに。
調印は交わしていなくとも、メラルダ・サーブリン公爵令嬢と婚約を決めているのだ、下手な噂が立つことのほうが不利益なのに。
「なるべく令嬢たちと関わらないようになさい」
「そのつもりですよ、もちろん」
トローザーはどのテーブルにもさっと立ち寄るだけで、愛想笑いを浮かべてはすぐ移動し、やり過ごした。
そしてとうとうミイヤのテーブルに行くと、期待に目を輝かせたミイヤがトローザーを見つめる。
ふっ、とトローザーが目を逸らし、他の令嬢にしたのと同じようにミイヤに軽く挨拶を交わすと通り過ぎてしまう。
「え、殿下」
─ちっ、手紙の指示を理解していないのか?─
バルーが一度開封して元に戻した招待状を、何でもない顔でスチューがミイヤに渡したが、バルーは意図的にトローザーの手紙は同封するにとどめていた。
招待状に挟めば必ず目に触れるが、そうならないように。
注意深く封筒を覗けば気づいただろうが、封筒の内側に手紙が貼り付くよう、細く、薄い糊を塗りつけた。
そのせいで招待状に気を取られたミイヤは、封筒に残されたトローザーの手紙に気づいていなかったのだ。
「殿下!トローザー殿下、お話がございますの」
ついてきてしまうミイヤに苛立ったが、他の令嬢の手前声を荒げることもできない。
「シッ!茶会の後で聞くから、ここでは止めろ。目立つことはだめだ」
苛ついた冷たい声に驚いたミイヤが一歩下がると、トローザーはチラリと目を合わせることすらせずに背中を向けた。
トローザーに拒絶されたと感じた。それはミイヤにとっては初めてのことだった。
いつでも優しくしてくれて、話をたくさん聞いてくれて、ソイスト侯爵家の中で満たされなかった気持ちをわかってくれた人。
ユートリーがいたら婚約できないと言われたから、ふたりのためにユートリーに毒も盛ったというのに。
それなのに何故冷たくするのだろう?
これまでは頻繁に会うことが出来たが、ユートリーが亡くなってからは様々な理由で会えなくなっていた。
やっと、やっと会うことができたのに。
もう邪魔なユートリーもいなくなったというのに。
期待があった分、視線の一つも交わすことなく背中を向けているトローザーに、ミイヤは急激に湧き上がる怒りを感じた。
「でんかっ!」
貴族の令嬢とは思えないほど、大きな声で叫ぶそれは強い口調で、誰が聞いても只事ではないと勘付くものだ。
茶会にいた皆が一斉にミイヤを見ると、ぽろぽろと大粒の涙を溢しながら真っ赤な顔でトローザーを睨みつけている。
間の悪いことに、キャロラは席を離れており、トローザーの対応は遅れてしまう。
「でんかっ!ひっ、ひどいですっ、わた、わたしいっしょけんめやったのに、つ、つめたっいぃど・・して、わた、と、こんやくすっっていっだのっにっ」
皆の前でそう泣き叫ぶミイヤに、飛びかかるように顔色を変えたトローザーが駆け寄ると、自分の上着を被せて女官に休憩室に連れて行くよう命令した。
誰もが口を噤んでいたが、聞こえた言葉の意味を知りたくてうずうずして。
「ソイスト侯爵家のご令嬢、殿下と何かあったのかしら」
「ええ、あんなに泣き叫ばれるなんて驚きましたけど、それだけのことがあったということですわよね?」
「婚約するって仰っていませんでした?」
場を仕切り直そうとしたトローザーだが、令嬢たちの囁きが耳に届くと、頭が真っ白になって何をしたらいいのかわからなくなった。
「殿下、こちらをどうぞ」
侍従が代わりの上着を肩にかけてくれ、我に返る。
「騒がせてすまなかった。彼女はご家族を亡くされたばかりで混乱しているのだ。休憩室で休ませたので、もう心配はいらないから」
火消しのつもりでトローザーは言ったのだが。
「ご家族を亡くされた?まあ、ぞんじませんでしたわ。でもそれで茶会にいらっしゃるなんて、殿下とよほどのお付き合いということではございませんかしら?」
小さな囁く声と令嬢たちの視線は、トローザーのそれが逆効果だったことを示している。
場を取り繕って、トローザーも逃げ出した。
嫌でたまらないトローザーも、何ら変わりなく平常である様を見せるために参加することになってしまった。
もうどうでもよいのに。
調印は交わしていなくとも、メラルダ・サーブリン公爵令嬢と婚約を決めているのだ、下手な噂が立つことのほうが不利益なのに。
「なるべく令嬢たちと関わらないようになさい」
「そのつもりですよ、もちろん」
トローザーはどのテーブルにもさっと立ち寄るだけで、愛想笑いを浮かべてはすぐ移動し、やり過ごした。
そしてとうとうミイヤのテーブルに行くと、期待に目を輝かせたミイヤがトローザーを見つめる。
ふっ、とトローザーが目を逸らし、他の令嬢にしたのと同じようにミイヤに軽く挨拶を交わすと通り過ぎてしまう。
「え、殿下」
─ちっ、手紙の指示を理解していないのか?─
バルーが一度開封して元に戻した招待状を、何でもない顔でスチューがミイヤに渡したが、バルーは意図的にトローザーの手紙は同封するにとどめていた。
招待状に挟めば必ず目に触れるが、そうならないように。
注意深く封筒を覗けば気づいただろうが、封筒の内側に手紙が貼り付くよう、細く、薄い糊を塗りつけた。
そのせいで招待状に気を取られたミイヤは、封筒に残されたトローザーの手紙に気づいていなかったのだ。
「殿下!トローザー殿下、お話がございますの」
ついてきてしまうミイヤに苛立ったが、他の令嬢の手前声を荒げることもできない。
「シッ!茶会の後で聞くから、ここでは止めろ。目立つことはだめだ」
苛ついた冷たい声に驚いたミイヤが一歩下がると、トローザーはチラリと目を合わせることすらせずに背中を向けた。
トローザーに拒絶されたと感じた。それはミイヤにとっては初めてのことだった。
いつでも優しくしてくれて、話をたくさん聞いてくれて、ソイスト侯爵家の中で満たされなかった気持ちをわかってくれた人。
ユートリーがいたら婚約できないと言われたから、ふたりのためにユートリーに毒も盛ったというのに。
それなのに何故冷たくするのだろう?
これまでは頻繁に会うことが出来たが、ユートリーが亡くなってからは様々な理由で会えなくなっていた。
やっと、やっと会うことができたのに。
もう邪魔なユートリーもいなくなったというのに。
期待があった分、視線の一つも交わすことなく背中を向けているトローザーに、ミイヤは急激に湧き上がる怒りを感じた。
「でんかっ!」
貴族の令嬢とは思えないほど、大きな声で叫ぶそれは強い口調で、誰が聞いても只事ではないと勘付くものだ。
茶会にいた皆が一斉にミイヤを見ると、ぽろぽろと大粒の涙を溢しながら真っ赤な顔でトローザーを睨みつけている。
間の悪いことに、キャロラは席を離れており、トローザーの対応は遅れてしまう。
「でんかっ!ひっ、ひどいですっ、わた、わたしいっしょけんめやったのに、つ、つめたっいぃど・・して、わた、と、こんやくすっっていっだのっにっ」
皆の前でそう泣き叫ぶミイヤに、飛びかかるように顔色を変えたトローザーが駆け寄ると、自分の上着を被せて女官に休憩室に連れて行くよう命令した。
誰もが口を噤んでいたが、聞こえた言葉の意味を知りたくてうずうずして。
「ソイスト侯爵家のご令嬢、殿下と何かあったのかしら」
「ええ、あんなに泣き叫ばれるなんて驚きましたけど、それだけのことがあったということですわよね?」
「婚約するって仰っていませんでした?」
場を仕切り直そうとしたトローザーだが、令嬢たちの囁きが耳に届くと、頭が真っ白になって何をしたらいいのかわからなくなった。
「殿下、こちらをどうぞ」
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「騒がせてすまなかった。彼女はご家族を亡くされたばかりで混乱しているのだ。休憩室で休ませたので、もう心配はいらないから」
火消しのつもりでトローザーは言ったのだが。
「ご家族を亡くされた?まあ、ぞんじませんでしたわ。でもそれで茶会にいらっしゃるなんて、殿下とよほどのお付き合いということではございませんかしら?」
小さな囁く声と令嬢たちの視線は、トローザーのそれが逆効果だったことを示している。
場を取り繕って、トローザーも逃げ出した。
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