73 / 80
第4章
第73話 断罪3
しおりを挟む
「やだ、やめて!わたしは悪くないわ。だって、で、殿下がど、毒をって」
震えながら頭を抱えてミイヤはずっとブツブツと呟いているが、決して顔をあげようとはしない。
「バカっ!何を言い出すんだ、嘘を言うなやめろっ」
ミイヤに飛びかかろうとしたトローザーは、ナイジェルスの護衛たちに拘束されて、叫び声を上げ続けている。まるで自分の声でミイヤの声を掻き消そうとでもするように。
じっと睨んでいた国王が立ち上がり、王笏でガツッと床を叩いた。
「いい加減にしろ!もうおまえたちがやったことはすべてわかっている」
それは体の芯から凍りつきそうな冷たい低い声で、トローザーを固めるのに十分なもので。
「余の権限により断罪を行う。正当性を証明するため直ちに法務大臣を呼べ」
流石のトローザーも、ミイヤと同じように震え始めた。
「お呼びと伺い罷り越しました」
召喚に応じたのは裁判官でもある法務大臣メーテラ伯爵が参上の挨拶を述べて顔を上げ、ナイジェルスにその視線が吸い付いた。大臣がほっとした顔を浮かべたのを見てから、国王はいよいよそれを始めた。
「まずナイジェルスの件からだ。法務大臣、ナイジェルスは本日ソイスト侯爵家の助けを得て無事に帰還したが、ナイジェルスを襲った逆賊共を返り討ちにした際に、その持ち物を証拠に持ち帰っていた。公正を期すために大臣も確認するように」
侍従がナイジェルスが持ち帰ったターナル伯爵家のちぎれた紋章を、メーテラ法務大臣に渡すと、それがどの家門の物か理解した大臣は沈痛な表情を浮かべた。
「間違いないな」
「はい、これは間違いなくターナル伯爵家の紋章でございますが、どちらで入手されたのでしょう?」
血液のついたそれは服から剥ぎ取られたものと見られ、ナイジェルスが襲撃されたことを知る者なら状況を察することができたが、メーテラは念のために訊ねた。
ターナル伯爵家がナイジェルス第二王子を害そうとしたとすると、それはターナル伯爵夫人の姉、キャロラ妃が絡むと誰にでも想像ができる。
「襲撃犯の服から切り取ったものだ」
ナイジェルスの答えを疑うことなくメーテラは頷き、国王が次の指示を与える。
「キャロラを呼べ。キャロラがこちらに来たら、ゴールダイン!おまえが指揮をして宮を調べてこい」
「なっ!父上、母上に何をなさるんですか!宮を調べるなど」
「黙れっ!いいと言うまでその口を開くな!これ以上許しを得ずに話すつもりなら舌を切るぞ」
ひっ!とトローザーが声を上げかけて、グッと口を噤んだ。
「ご機嫌よう陛下、お呼びと伺いました」
そう言って謁見の間に現れたキャロラ妃は、一歩足を踏み入れて悪い予感に襲われた。しかし戻ることもできず、部屋の入口で立ち止まったのだが。
「キャロラはそちらに」
国王が入口近くに立とうとしたキャロラを中に招き入れると渋々応じたが、やたらと汗を拭き取っている。
ゴールダイン王子がそっと席を外した。
気づいたトローザーだが、キャロラに注意を与えることはできない。
─これが終わりの始まりか─
トローザーは項垂れた。
「キャロラ、そちらを見よ」
国王が王笏を向けた先を見て、目を見開いた。
「え、え?」
キャロラの目には、間違いなくナイジェルス王子とユートリーが映っている。
─死んだはず─
ギロリとナイジェルスがキャロラを睨みつけた。
震えながら頭を抱えてミイヤはずっとブツブツと呟いているが、決して顔をあげようとはしない。
「バカっ!何を言い出すんだ、嘘を言うなやめろっ」
ミイヤに飛びかかろうとしたトローザーは、ナイジェルスの護衛たちに拘束されて、叫び声を上げ続けている。まるで自分の声でミイヤの声を掻き消そうとでもするように。
じっと睨んでいた国王が立ち上がり、王笏でガツッと床を叩いた。
「いい加減にしろ!もうおまえたちがやったことはすべてわかっている」
それは体の芯から凍りつきそうな冷たい低い声で、トローザーを固めるのに十分なもので。
「余の権限により断罪を行う。正当性を証明するため直ちに法務大臣を呼べ」
流石のトローザーも、ミイヤと同じように震え始めた。
「お呼びと伺い罷り越しました」
召喚に応じたのは裁判官でもある法務大臣メーテラ伯爵が参上の挨拶を述べて顔を上げ、ナイジェルスにその視線が吸い付いた。大臣がほっとした顔を浮かべたのを見てから、国王はいよいよそれを始めた。
「まずナイジェルスの件からだ。法務大臣、ナイジェルスは本日ソイスト侯爵家の助けを得て無事に帰還したが、ナイジェルスを襲った逆賊共を返り討ちにした際に、その持ち物を証拠に持ち帰っていた。公正を期すために大臣も確認するように」
侍従がナイジェルスが持ち帰ったターナル伯爵家のちぎれた紋章を、メーテラ法務大臣に渡すと、それがどの家門の物か理解した大臣は沈痛な表情を浮かべた。
「間違いないな」
「はい、これは間違いなくターナル伯爵家の紋章でございますが、どちらで入手されたのでしょう?」
血液のついたそれは服から剥ぎ取られたものと見られ、ナイジェルスが襲撃されたことを知る者なら状況を察することができたが、メーテラは念のために訊ねた。
ターナル伯爵家がナイジェルス第二王子を害そうとしたとすると、それはターナル伯爵夫人の姉、キャロラ妃が絡むと誰にでも想像ができる。
「襲撃犯の服から切り取ったものだ」
ナイジェルスの答えを疑うことなくメーテラは頷き、国王が次の指示を与える。
「キャロラを呼べ。キャロラがこちらに来たら、ゴールダイン!おまえが指揮をして宮を調べてこい」
「なっ!父上、母上に何をなさるんですか!宮を調べるなど」
「黙れっ!いいと言うまでその口を開くな!これ以上許しを得ずに話すつもりなら舌を切るぞ」
ひっ!とトローザーが声を上げかけて、グッと口を噤んだ。
「ご機嫌よう陛下、お呼びと伺いました」
そう言って謁見の間に現れたキャロラ妃は、一歩足を踏み入れて悪い予感に襲われた。しかし戻ることもできず、部屋の入口で立ち止まったのだが。
「キャロラはそちらに」
国王が入口近くに立とうとしたキャロラを中に招き入れると渋々応じたが、やたらと汗を拭き取っている。
ゴールダイン王子がそっと席を外した。
気づいたトローザーだが、キャロラに注意を与えることはできない。
─これが終わりの始まりか─
トローザーは項垂れた。
「キャロラ、そちらを見よ」
国王が王笏を向けた先を見て、目を見開いた。
「え、え?」
キャロラの目には、間違いなくナイジェルス王子とユートリーが映っている。
─死んだはず─
ギロリとナイジェルスがキャロラを睨みつけた。
36
あなたにおすすめの小説
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
婚約者様への逆襲です。
有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。
理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。
だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。
――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」
すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。
そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。
これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。
断罪は終わりではなく、始まりだった。
“信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。
欲深い聖女のなれの果ては
あねもね
恋愛
ヴィオレーヌ・ランバルト公爵令嬢は婚約者の第二王子のアルバートと愛し合っていた。
その彼が王位第一継承者の座を得るために、探し出された聖女を伴って魔王討伐に出ると言う。
しかし王宮で準備期間中に聖女と惹かれ合い、恋仲になった様子を目撃してしまう。
これまで傍観していたヴィオレーヌは動くことを決意する。
※2022年3月31日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。
私との婚約は、選択ミスだったらしい
柚木ゆず
恋愛
※5月23日、ケヴィン編が完結いたしました。明日よりリナス編(第2のざまぁ)が始まり、そちらが完結後、エマとルシアンのお話を投稿させていただきます。
幼馴染のリナスが誰よりも愛しくなった――。リナスと結婚したいから別れてくれ――。
ランドル侯爵家のケヴィン様と婚約をしてから、僅か1週間後の事。彼が突然やってきてそう言い出し、私は呆れ果てて即婚約を解消した。
この人は私との婚約は『選択ミス』だと言っていたし、真の愛を見つけたと言っているから黙っていたけど――。
貴方の幼馴染のリナスは、ものすごく猫を被ってるの。
だから結婚後にとても苦労することになると思うけど、頑張って。
次期王妃な悪女はひたむかない
三屋城衣智子
恋愛
公爵家の娘であるウルム=シュテールは、幼い時に見初められ王太子の婚約者となる。
王妃による厳しすぎる妃教育、育もうとした王太子との関係性は最初こそ良かったものの、月日と共に狂いだす。
色々なことが積み重なってもなお、彼女はなんとかしようと努力を続けていた。
しかし、学校入学と共に王太子に忍び寄る女の子の影が。
約束だけは違えまいと思いながら過ごす中、学校の図書室である男子生徒と出会い、仲良くなる。
束の間の安息。
けれど、数多の悪意に襲われついにウルムは心が折れてしまい――。
想いはねじれながらすれ違い、交錯する。
異世界四角恋愛ストーリー。
なろうにも投稿しています。
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる