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第4章
第80話 結婚式
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結婚式前の忙しく貴重な二週間、密度の濃い家族だけの時間を過ごしたソイスト侯爵家は、屋敷に戻ると猛烈な勢いで働き、無事にナイジェルス王子、いやロリンド公爵を拝したナイジェルスの新しい屋敷で宴が行われた。
「本当に美しくてよ、トリー。私の自慢の娘、愛しているわ」
リラがそっと抱きしめると、ユートリーは涙を堪えた。
「ナイジェルス殿下と喧嘩したらすぐに戻ってきていいからな!」
ナイジェルスの前にありながらそんなことを言うマーカスに、笑ってしまったユートリーの涙は引っ込み、リラに抓られたマーカスが身を捩る。
「喧嘩なんかしませんよ、お義父上!」
「まさか父上、今頃になって殿下にトリーを渡したくなくなったんじゃないですよね?」
「それは困る!」
ナイジェルスの言葉に、みんなで笑い声を上げた。
結婚式を前に、ナイジェルスは予定通り臣籍降下して領地と公爵位を賜り、新たな領地と王都に屋敷を構えた。
今日の結婚式は王都のタウンハウスを使い、国王夫妻とゴールダイン王子もやって来るたいそう豪華なものだ。
「ところで義兄上様!もう殿下はやめてほしいな義兄上様。ふふっ」
当然ながらとても機嫌がいい。いつもはジャンと呼んでいるサルジャンを、何度も義兄上と面白がって呼ぶのだ。
「じゃあなんて呼ぶんですか、ナイジェルス殿下?」
「うむ、ナイでどうだ?何しろ私は義弟なのだ」
「いや、さすがに昨日まで王子殿下とお呼びしていたのに、今日すぐナイとは呼べませんよ」
「義兄上は固いなあ。私が許しているのだし、ソイスト家の皆とは今までよりもっとずっと仲を深めたいのだ」
肩を組み、耳元でナイジェルスに囁かれたサルジャンは仕方なさそうに提案した。
「じゃあナイ様でいかがですか」
「うん、いいと思うぞ。お義父上、お義母上、ぜひこれから私のことはナイ様と呼んでください」
ユートリーとリラが我慢しきれなくなってプッと吹き出した。
「か、畏まりましたわ殿下」
「だからあ、お義母上!ナイさまですよ」
「な、ナイさま」
「はい、よく出来ました!」
ナイジェルスは王族では無くなってから、急に砕けた口調でソイスト一家に馴染もうとあの手この手をくり出している。
「さあ、そろそろですよ」
ナイジェルスが城から連れてきた侍従の一人フォールが迎えに来ると、さっきまでの軽口を閉じてユートリーをエスコートする。教会での式は済ませているので披露宴のためのエスコートだ。
美しいナイジェルスとユートリーが、大広間に集まった賓客の中を静々と歩くとため息が漏れた。
ここに至るまで、いくつかの謀略を乗り越えたふたりだと、既に貴族たちも知っている。
トローザーと長く寵愛を受けていたキャロラの末路は、未だ詳しく明かされてはいないが、だからこそまったく姿を見せなくなったことで皆の想像を掻き立てた。
しかしそれを口にして、王子であった公爵の幸せに水を差すような愚か者は幸いにも一人もいなかった。
「美しい花嫁だったわね、さすがユートリー様だわ」
誰かの声が聞こえた。
「ナイジェルス殿下も、あ、いやロリンド公爵閣下も美麗でしたわね」
「素敵なおふたりを見ていたら、こちらまで幸せな気持ちになりましたわ」
馬車に乗り込み、バラけていく招待客をバルコニーから見送りながら、ユートリーはナイジェルスに肩を抱かれていた。
「お父様たちも行ってしまったわ」
「ああ、だけどいつでも会えるから、そんなに寂しそうな顔をしないでトリー。これからは私とずぅっと一緒だ」
ユートリーは、夢を見ていた。
前世の、毒を飲まされたことも知らず、体の自由を奪われ、苦しむ夢を。
寝苦しさに目覚め、ナイジェルスの腕の中にいることを知るとほっと安堵の息を吐く。
「夢だったのね」
時戻りをしたことも、何度も夢ではないかと思ったものだ。しかし、ミイヤに毒を盛られたことも、ナイジェルスが襲撃を受けたことも現実に起きた。
─予知夢だった?
いや。あの死に向かう苦しさは夢などではない。理不尽に命を奪われたから、時戻りをさせてくれたのかしら─
「トリー。庭に薔薇をもっと植えさせるつもりだが、植えたい物があるなら教えてほしいんだ」
ナイジェルスが、ユートリー好みの庭園を作ろうと庭師を呼びつけていた。
「次の秋にはもっと素晴らしい庭になっているはずだ。その頃にはこどもがいたらいいな。トリーに似た娘が欲しいんだ」
「私はナイ様に似た息子が欲しいわ」
「うん、どちらも欲しいね。きっとすごく可愛いよ、楽しみでたまらないな」
ふふっと顔を寄せ、頬擦りをしたナイジェルスが笑った。
こどもはすぐに授かった。
一人目はナイジェルスに似た娘エルドラ、二人目はサルジャンそっくりな娘リルス。
三人目にユートリー待望のナイジェルスに似た息子、メレン。
ユートリーはもう十分と言ったが、ナイジェルスはまだトリーそっくりの娘を諦めていない!
マーカスやリラ、サルジャンやその妻子たちとバカンスを別荘で過ごす度にこどもが増えて、6人目にやっとユートリー瓜二つの娘ヨリアが生まれた頃、マーカスは小ぶりな別荘を大きな屋敷に新築したのだった。
想像以上の賑やかさ。
ソイスト侯爵家、そしてロリンド公爵家は今日も笑い声に満たされている。
完
∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈∈
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
お気に入りにしてくださった方、しおりを挟んでくださった方、感想くださった方、感謝申し上げます。
新作は本日8時から公開します。
「虐げられた伯爵令息は、悪役令嬢一家に溺愛される」
よろしくお願い致しますm(_ _)m
「本当に美しくてよ、トリー。私の自慢の娘、愛しているわ」
リラがそっと抱きしめると、ユートリーは涙を堪えた。
「ナイジェルス殿下と喧嘩したらすぐに戻ってきていいからな!」
ナイジェルスの前にありながらそんなことを言うマーカスに、笑ってしまったユートリーの涙は引っ込み、リラに抓られたマーカスが身を捩る。
「喧嘩なんかしませんよ、お義父上!」
「まさか父上、今頃になって殿下にトリーを渡したくなくなったんじゃないですよね?」
「それは困る!」
ナイジェルスの言葉に、みんなで笑い声を上げた。
結婚式を前に、ナイジェルスは予定通り臣籍降下して領地と公爵位を賜り、新たな領地と王都に屋敷を構えた。
今日の結婚式は王都のタウンハウスを使い、国王夫妻とゴールダイン王子もやって来るたいそう豪華なものだ。
「ところで義兄上様!もう殿下はやめてほしいな義兄上様。ふふっ」
当然ながらとても機嫌がいい。いつもはジャンと呼んでいるサルジャンを、何度も義兄上と面白がって呼ぶのだ。
「じゃあなんて呼ぶんですか、ナイジェルス殿下?」
「うむ、ナイでどうだ?何しろ私は義弟なのだ」
「いや、さすがに昨日まで王子殿下とお呼びしていたのに、今日すぐナイとは呼べませんよ」
「義兄上は固いなあ。私が許しているのだし、ソイスト家の皆とは今までよりもっとずっと仲を深めたいのだ」
肩を組み、耳元でナイジェルスに囁かれたサルジャンは仕方なさそうに提案した。
「じゃあナイ様でいかがですか」
「うん、いいと思うぞ。お義父上、お義母上、ぜひこれから私のことはナイ様と呼んでください」
ユートリーとリラが我慢しきれなくなってプッと吹き出した。
「か、畏まりましたわ殿下」
「だからあ、お義母上!ナイさまですよ」
「な、ナイさま」
「はい、よく出来ました!」
ナイジェルスは王族では無くなってから、急に砕けた口調でソイスト一家に馴染もうとあの手この手をくり出している。
「さあ、そろそろですよ」
ナイジェルスが城から連れてきた侍従の一人フォールが迎えに来ると、さっきまでの軽口を閉じてユートリーをエスコートする。教会での式は済ませているので披露宴のためのエスコートだ。
美しいナイジェルスとユートリーが、大広間に集まった賓客の中を静々と歩くとため息が漏れた。
ここに至るまで、いくつかの謀略を乗り越えたふたりだと、既に貴族たちも知っている。
トローザーと長く寵愛を受けていたキャロラの末路は、未だ詳しく明かされてはいないが、だからこそまったく姿を見せなくなったことで皆の想像を掻き立てた。
しかしそれを口にして、王子であった公爵の幸せに水を差すような愚か者は幸いにも一人もいなかった。
「美しい花嫁だったわね、さすがユートリー様だわ」
誰かの声が聞こえた。
「ナイジェルス殿下も、あ、いやロリンド公爵閣下も美麗でしたわね」
「素敵なおふたりを見ていたら、こちらまで幸せな気持ちになりましたわ」
馬車に乗り込み、バラけていく招待客をバルコニーから見送りながら、ユートリーはナイジェルスに肩を抱かれていた。
「お父様たちも行ってしまったわ」
「ああ、だけどいつでも会えるから、そんなに寂しそうな顔をしないでトリー。これからは私とずぅっと一緒だ」
ユートリーは、夢を見ていた。
前世の、毒を飲まされたことも知らず、体の自由を奪われ、苦しむ夢を。
寝苦しさに目覚め、ナイジェルスの腕の中にいることを知るとほっと安堵の息を吐く。
「夢だったのね」
時戻りをしたことも、何度も夢ではないかと思ったものだ。しかし、ミイヤに毒を盛られたことも、ナイジェルスが襲撃を受けたことも現実に起きた。
─予知夢だった?
いや。あの死に向かう苦しさは夢などではない。理不尽に命を奪われたから、時戻りをさせてくれたのかしら─
「トリー。庭に薔薇をもっと植えさせるつもりだが、植えたい物があるなら教えてほしいんだ」
ナイジェルスが、ユートリー好みの庭園を作ろうと庭師を呼びつけていた。
「次の秋にはもっと素晴らしい庭になっているはずだ。その頃にはこどもがいたらいいな。トリーに似た娘が欲しいんだ」
「私はナイ様に似た息子が欲しいわ」
「うん、どちらも欲しいね。きっとすごく可愛いよ、楽しみでたまらないな」
ふふっと顔を寄せ、頬擦りをしたナイジェルスが笑った。
こどもはすぐに授かった。
一人目はナイジェルスに似た娘エルドラ、二人目はサルジャンそっくりな娘リルス。
三人目にユートリー待望のナイジェルスに似た息子、メレン。
ユートリーはもう十分と言ったが、ナイジェルスはまだトリーそっくりの娘を諦めていない!
マーカスやリラ、サルジャンやその妻子たちとバカンスを別荘で過ごす度にこどもが増えて、6人目にやっとユートリー瓜二つの娘ヨリアが生まれた頃、マーカスは小ぶりな別荘を大きな屋敷に新築したのだった。
想像以上の賑やかさ。
ソイスト侯爵家、そしてロリンド公爵家は今日も笑い声に満たされている。
完
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最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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「虐げられた伯爵令息は、悪役令嬢一家に溺愛される」
よろしくお願い致しますm(_ _)m
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感想ありがとうございます。
屑系ホスト・・・ですね。