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第7話
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ジャブリックの依頼により、トーソルドの知らぬ間に騎士団の俸給はすべてもれなくロイリー騎士爵家に届けられることになった。
「おお、ジャブリック様流石ですな」
マイルスがニヤリとしたが、アニエラは心配そうに眉を下げる。
「でも全部私たちが頂いたらトーソルド様はどうやってご飯をいただくことができるの?」
「なんとお優しいのでしょうアニエラ様は!よろしいのですよ、愚かな者は行き倒れようが何だろうが」
「ええ?そんなわけにはいきませんわ。名ばかりとは言え、一応旦那様ですもの。あちらの方に食べさせて頂いているのかしら?お食事代くらいお届けして差し上げたらいかが?」
俸給の全額をこちらで握ることになったのだ。少しくらい恵んでやっても痛くも痒くもないと思ったアニエラだが、それを聞いたマイルスは涙を浮かべて跪いた。
「な、なんという慈悲深さでしょう!聖女のようなお方だ」
何をしても褒められるアニエラには不満はない。何しろ結婚まで殆ど会うこともなかった相手なのだ。
顔を合わせずに済むならそれも気楽で良いと、マイルスに屋敷の管理を学びながら毎日を楽しく過ごすことにした。
「割り切ればこんなに快適なことはないわね」
翌月の俸給が配られる日。
トーソルドはいつものように経理部へ俸給を受け取りに向かった。
「トーソルド・ロイリーです」
名乗るも、経理係は首を傾げた。
「おや?ロイリー騎士爵の俸給は屋敷にお届けすることと団長から指示が来て、もう支払い済ですが」
「なっ、何を勝手なことを!」
「勝手ではありません、ちょっと待ってくださいよ!」
経理係は引き出しを漁り、一枚の書状をトーソルドに渡してきた。
「なんだよこれ!」
支払先変更届と書かれたそれには、確かに騎士団長ダリル・ホガースとサインがされている。
「これは誰かが、そうだ!アニエラだ!アニエラが団長の名を騙ったに違いないぞ、頼む調べてくれ」
経理係は、はあ?と呆れた顔でトーソルドを見た。
「何を馬鹿なことを!調べる必要はありませんよ、これはホガース団長とほらここ」
指さされたところにはトーソルドの上司リーバン・トイムのサインも書かれている。
「う、嘘だ」
「嘘じゃありませんよ。これは本来なら本人か、分隊長が申請するものです。騎士団長からの申立など異例なことだから、団長のサインだけではさすがに強引だと決裁ができなくて、結局トイム分隊長のサインを私がもらいに行ったんですからね」
「おお、ジャブリック様流石ですな」
マイルスがニヤリとしたが、アニエラは心配そうに眉を下げる。
「でも全部私たちが頂いたらトーソルド様はどうやってご飯をいただくことができるの?」
「なんとお優しいのでしょうアニエラ様は!よろしいのですよ、愚かな者は行き倒れようが何だろうが」
「ええ?そんなわけにはいきませんわ。名ばかりとは言え、一応旦那様ですもの。あちらの方に食べさせて頂いているのかしら?お食事代くらいお届けして差し上げたらいかが?」
俸給の全額をこちらで握ることになったのだ。少しくらい恵んでやっても痛くも痒くもないと思ったアニエラだが、それを聞いたマイルスは涙を浮かべて跪いた。
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顔を合わせずに済むならそれも気楽で良いと、マイルスに屋敷の管理を学びながら毎日を楽しく過ごすことにした。
「割り切ればこんなに快適なことはないわね」
翌月の俸給が配られる日。
トーソルドはいつものように経理部へ俸給を受け取りに向かった。
「トーソルド・ロイリーです」
名乗るも、経理係は首を傾げた。
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「なっ、何を勝手なことを!」
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「なんだよこれ!」
支払先変更届と書かれたそれには、確かに騎士団長ダリル・ホガースとサインがされている。
「これは誰かが、そうだ!アニエラだ!アニエラが団長の名を騙ったに違いないぞ、頼む調べてくれ」
経理係は、はあ?と呆れた顔でトーソルドを見た。
「何を馬鹿なことを!調べる必要はありませんよ、これはホガース団長とほらここ」
指さされたところにはトーソルドの上司リーバン・トイムのサインも書かれている。
「う、嘘だ」
「嘘じゃありませんよ。これは本来なら本人か、分隊長が申請するものです。騎士団長からの申立など異例なことだから、団長のサインだけではさすがに強引だと決裁ができなくて、結局トイム分隊長のサインを私がもらいに行ったんですからね」
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