【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる

文字の大きさ
40 / 44

40話

しおりを挟む
 ザイア・タイリユとサラ・メーリアの婚約は早いペースで整えられた。
何せふたりとも二十代。早いとは言えない結婚なのだから。

 資産家のタイリユ子爵家嫡男ザイアを狙っていた令嬢は多かった。
サラ・メーリア伯爵令嬢との婚約が発表されたあと、サラより自分のほうが若くて美しいと訪ねてくる令嬢も現れた。
 家名を聞いて挨拶に出てきたエラが用件を聞いて激怒し、令嬢の両親が謝罪に訪れるなんていうこともあった。

「まったく自惚れるにもほどがあるわ」

 ザイアが帰宅すると、待ち受けたエラに捕まり今日の出来事を聞かされた。

「なにが自分のほうがサラ様より若くてきれいよ、笑わせないでもらいたいわ。サラ様より若いのは本当でも、ぜぇーったいサラ様のほうが美しいわ!間違いなく、絶対よ」
「他の誰がサラよりその人が美しいと言ったとしても、私にとって一番美しく一番可愛らしいのはサラ・メーリアだ。撃退しておいてくれて、ありがとう母上」

 何気に惚気けている息子、そしていつの間にかサラと呼び捨てにしていることに気づいた母は、楽しげに口角をあげる。

「あんなのは滅多にないと思うけど、念のために店と行き帰りに護衛がいたほうがいいかもしれないわ」

 あっ!と声をあげたザイアが、母を軽くハグして駆けていった。

 翌日から、見慣れない男がメーメの店に潜み始めたのは言うまでもない。

「そんな護衛なんて大袈裟ですわ」

 もちろんサラは一度は断ったが、タイリユ家に突撃して来た令嬢がいたと聞かされたメーメの判断により、受け入れることになった。
 すぐに対応できるよう、厨房の端に椅子を置いてちんまり座らされている彼はチルディといい、タイリユ子爵家の騎士の一人でザイアとゲールの乳兄弟でもある。
 ザイアにとってももっとも信頼のおける護衛を、サラの側に置いたのだ。

「あの、やはり私は立っていたほうが」

 護衛ともあろう者が椅子に座っているというのは、どうにも居心地が悪い。
チルディは何度か椅子は不要と言ったのだが。

「いいえ、座っていらして。貴方がここで立っていらっしゃると、店から丸見えになってしまうのですもの。それともエプロンをつけて一緒にお菓子作ります?」

 そうサラに言われて、おとなしく座る。

 次期子爵夫人になるサラが、護衛は立っていろと言わないことがチルディには驚きだった。
そもそもそんなことを言うような人なら、伯爵令嬢でありながら菓子職人になどなるわけがないかと気づいて、ザイアの人を見る目ににんまりとしかけたが。
 ふと視線を感じ、左右に目をやるとモニカがじっとチルディを見ていた。

「なにか面白いことでもございました?」
「い、いえ。別に」
「さようでございますか。なにやら目元が緩んでいらっしゃるようでしたので」

 サラはザイアに言っていなかった。
モニカが護衛侍女だということを。
僅かな表情の変化を読まれたチルディもモニカを観察し、隙のない動きや目配りに同業だと理解すると納得し、自然と役割分担するようになる。
 モニカが常に側にいることで、初動はモニカが。それに遅れぬよう次手をチルディが対応できればよいのだと。
 それからはメーメが置いてくれる椅子に気兼ねなく座るようになった。
何か手伝うかと聞くとモニカに手を空けておけと言われ、メーメの話し相手を務めている。
 しかしごく時々現れる、質の悪い客の対応をチルディがしてくれるようになったので、モニカも安心して仕事ができるようになった。

 サラの婚約が知れ渡ると、女性客は半分に割れた。
 裏切られたと店に来なくなった者もなぜかいたが、結婚しても店を続けると聞くとたいていはサラとその理解者ザイアを素敵なカップルだと褒め、自分もザイアのようなパートナーに出逢いたいと夢見るように語る。
 その度サラは、こそばゆいような誇らしいような気持ちになって、ザイアへの想いはさらに深くなり、婚約期間が終わる頃ふたりの想いはより強いものに変わっていった。



 ある日のこと。
 サラがメーメの店の前で客に挨拶する姿を、汚らしい姿の男が見つめていた。
サラは気づかなかったが、モニカに素早く店内に戻されると珍しくチルディがホールに立った。

「チルディ様、あの男よ」
「確かにこちらを覗っているな。何か仕掛けてくるようなら私が対応しよう」

 チルディがホール隅のテーブルに、客を装って外を警戒し始めると、モニカもサラを厨房に入れて自分が店頭に立ち、警護に当たる。

 男は何度も店の前を往復しては中を覗いていくが、サラが出てこないためか、通り過ぎてまた隠れて見張るのだ。

「怪しいわ。やはりサラ様を狙っている?」
「ああ、警戒を怠らないようにしよう」

 護衛ふたりのアンテナは最高レベルになった。
店を閉めるときもモニカとチルディのふたりで外を片付けたが、やはり気配は消えていない。

「何者だろうな?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

偽王を演じた侯爵令嬢は、名もなき人生を選ぶ」

鷹 綾
恋愛
内容紹介 王太子オレンに婚約破棄された侯爵令嬢ライアー・ユースティティア。 だが、それは彼女にとって「不幸の始まり」ではなかった。 国政を放棄し、重税と私欲に溺れる暴君ロネ国王。 その無責任さを補っていた宰相リシュリュー公爵が投獄されたことで、 国は静かに、しかし確実に崩壊へ向かい始める。 そんな中、変身魔法を使えるライアーは、 国王の身代わり――偽王として玉座に座ることを強要されてしまう。 「王太子妃には向いていなかったけれど……  どうやら、国王にも向いていなかったみたいですわね」 有能な宰相とともに国を立て直し、 理不尽な税を廃し、民の暮らしを取り戻した彼女は、 やがて本物の国王と王太子を“偽者”として流刑に処す。 そして最後に選んだのは、 王として君臨し続けることではなく―― 偽王のまま退位し、名もなき人生を生きることだった。 これは、 婚約破棄から始まり、 偽王としてざまぁを成し遂げ、 それでも「王にならなかった」令嬢の物語。 玉座よりも遠く、 裁きよりも静かな場所で、 彼女はようやく“自分の人生”を歩き始める。

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

【完結】突然の変わり身「俺に惚れるな」と、言っていたのは誰ですか⁉ ~脱走令嬢は、素性を隠した俺様令息に捕獲される~

瑞貴◆後悔してる/手違いの妻2巻発売!
恋愛
 世間から見れば、普通に暮らしている伯爵家令嬢ルイーズ。  けれど実際は、愛人の子ルイーズは継母に蔑まれた毎日を送っている。  継母から、されるがままの仕打ち。彼女は育ててもらった恩義もあり、反抗できずにいる。  継母は疎ましいルイーズを娼館へ売るのを心待ちにしているが、それをルイーズに伝えてしまう。  18歳になれば自分は娼館へ売られる。彼女はそうなる前に伯爵家から逃げるつもりだ。  しかし、継母の狙いとは裏腹に、ルイーズは子爵家のモーガンと婚約。  モーガンの本性をルイーズは知らない。  婚約者の狙いでルイーズは、騎士候補生の訓練に参加する。そこで、ルイーズと侯爵家嫡男のエドワードは出会うことになる。  全ての始まりはここから。  この2人、出会う前から互いに因縁があり、会えば常に喧嘩を繰り広げる。 「どうしてエドワードは、わたしと練習するのよ。文句ばっかり言うなら、誰か別の人とやればいいでしょう! もしかして、わたしのことが好きなの?」 「馬鹿っ! 取り柄のないやつを、俺が好きになるわけがないだろう‼ お前、俺のことが分かっているのか? 煩わしいからお前の方が、俺に惚れるなよ」  エドワードは侯爵家嫡男の顔の他に、至上者としての職位がある。それは国の最重要人物たちしか知らないこと。  その2人に、ある出来事で入れ替わりが起きる。それによって互いの距離がグッと縮まる。  一緒にいると互いに居心地が良く、何の気兼ねも要らない2人。  2人で過ごす時間は、あまりにも楽しい…。  それでもエドワードは、ルイーズへの気持ちを自覚しない。  あるきっかけで体が戻る。  常々、陛下から王女との結婚を持ち掛けられているエドワード。  彼の気持ちはルイーズに向かないままで、自分の結婚相手ではないと判断している。  そんななか、ルイーズがいなくなった…。  青ざめるエドワード。もう会えない…。焦ったエドワードは彼女を探しに行く。  エドワードが、ルイーズを見つけ声を掛けるが、彼女の反応は随分とそっけない。  このときのルイーズは、エドワードに打ち明けたくない事情を抱えていた。 「わたし、親戚の家へ行く用事があるので、あの馬車に乗らないと…。エドワード様お世話になりました」 「待てっ! どこにも行くな。ルイーズは俺のそばからいなくなるな」  吹っ切れたエドワード。自分はルイーズが好きだと気付く。  さらに、切れたエドワードは、ルイーズと共に舞踏会で大騒動を起こす!  出会うはずのない2人の、変わり身の恋物語。 ※常用漢字外はひらがな表記やルビを付けています。  読めるのに、どうしてルビ? という漢字があるかもしれませんが、ご了承ください。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

婚約破棄されましたが、辺境で最強の旦那様に溺愛されています

鷹 綾
恋愛
婚約者である王太子ユリウスに、 「完璧すぎて可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄を告げられた 公爵令嬢アイシス・フローレス。 ――しかし本人は、内心大喜びしていた。 「これで、自由な生活ができますわ!」 ところが王都を離れた彼女を待っていたのは、 “冷酷”と噂される辺境伯ライナルトとの 契約結婚 だった。 ところがこの旦那様、噂とは真逆で—— 誰より不器用で、誰よりまっすぐ、そして圧倒的に強い男で……? 静かな辺境で始まったふたりの共同生活は、 やがて互いの心を少しずつ近づけていく。 そんな中、王太子が突然辺境へ乱入。 「君こそ私の真実の愛だ!」と勝手な宣言をし、 平民少女エミーラまで巻き込み、事態は大混乱に。 しかしアイシスは毅然と言い放つ。 「殿下、わたくしはもう“あなたの舞台装置”ではございません」 ――婚約破棄のざまぁはここからが本番。 王都から逃げる王太子、 彼を裁く新王、 そして辺境で絆を深めるアイシスとライナルト。 契約から始まった関係は、 やがて“本物の夫婦”へと変わっていく――。 婚約破棄から始まる、 辺境スローライフ×最強旦那様の溺愛ラブストーリー!

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...