6 / 99
第6話 閑話 王女の茶会
しおりを挟む
その日王城では、国王の一人娘リリアンジェラ姫の茶会が催されていた。
15歳ながら社交に長けているリリアンジェラは、自分にとって好ましい令嬢を集めては、三人の兄と引き合わせる機会を作っていたのだ。
しかし現れたのは双子の兄メルケルトとカルロイドのみ。リリアンジェラが一番慕っているエルロールは姿を見せなかった。
「最近、エルロール王子殿下はいくら招待状を出しても来てくださらなくなりましたわね」
「ええ。メンジャー侯爵邸のお茶会が最後のお目見えでしたわ。そういえばあのとき、雰囲気がおかしかったのです」
リリアンジェラはその話を聞きつけると割り込んだ。
「おかしかったとは?」
「ええ、セラ様がお淹れになったお茶を一口飲まれたきり一切何もお口にされず、珍しく怖いお顔をされて、セラ様ともお話しなさらなくなってしまわれたのですわ」
「セラ様、ご不興を買われましたわね」
「そうですわねえ・・・あれでは」
「お兄さまはお茶がまずかったくらいでご機嫌悪くなさるような方ではありませんわ。他に何かあったのではありませんこと?」
リリアンジェラにとって特別に大好きな兄のことだ。
もちろん王族たる者、感情に任せた言動は慎むが、何があったか知りたくて苛つきが抑えきれず、気づくと指先でテーブルをコツコツと叩いていた。
「それで、何があったのか詳しく教えてくださらない?」
リリアンジェラは好奇心に負けた。
「庭園の奥の小さなテーブルに2つだけ椅子が置かれて、セラ様はおふたりだけで座るようにそこにエルロール殿下を案内されたのでございますわ」
「え・・・、嘘、皆さんがいる茶会でしょう?」
「はい。これはもちろん本当のことでございますわよ」
隣の令嬢もこくこくと頷いて彼女の話を肯定している。
─呆れた!わたくしのお兄様になんというあからさまなことをするのかしら!婚約どころか、気持ちさえ通じ合っていないというのに厚かましいにもほどがあるわ、許せない!─
「そう」
令嬢たちがビクッと震えるほど、姫の声は冷たい怒りを含んでいた。
─勘違いも甚だしいメイジャー侯爵家とセラ嬢は徹底的に締め出してやるわ!─
ただでさえ本命に嫌われているセラは、エルロールに誰よりも可愛がられてきた、お兄様大好き妹姫にもロック・オンされたのだった。
「リリ」
「メルお兄さま、楽しくお過ごしですか」
「ああ、ご令嬢たちの話しが楽しくて時間があっという間だ」
第二王子メルケルトはいろいろと軽い。
王族としては口が軽く、容姿も軽そうに見える。本人もわかっているのだろうか、なんと行儀悪いことに舌をぺろりと出して笑うのだ。
「メルお兄さま、いけませんわ!もうこどもではないのですから」
18歳になる兄王子に小さく囁き注意する、しっかり者の妹姫である。
「はいはい、いずれにしてもそろそろ暇を貰わねばならぬのだ」
「もう?そんな時間?」
「ああ。皆さんに挨拶して失礼させてもらう」
と、リリアンジェラの耳元でメルケルトがとっても小さく告げた。
「アニエ嬢を借りて行く」
メルケルトが婚約者候補に選んだ三人の令嬢のひとりが、今日も参加していたのだ。
すーっとアニエ・ヤーミー侯爵令嬢に近寄ると二言三言話して、また離れていく。ぐるりと庭園を回りながら令嬢たちに先に退出すると挨拶し終えたところで、目立たぬよう出口に立ったアニエ嬢と庭園から出て行った。
それを見た第三王子カルロイドが自分も抜けると言ってきたので、リリアンジェラは首を横にし、メルケルトが座っていた席にカルロイドを着席させる。
「なんで?メルはよくて私はだめなんだ?」
「カルお兄さまの候補の方はいらしてないですし、その方とだってまだこれというほどではございませんのでしょ?ぜひ今日の出会いを大切にしてくださいませ。
それにしてもエルお兄さまは本当にどうなさったのかしら?わたくしがお呼びする令嬢なら安心ですのに。カルお兄さまは何か聞いていらっしゃらないのですか?」
「んー。テューダーがやたらため息ばかりつくって言ってたが、詳しくは聞いていない。まさか恋煩いとかな」
ぷぷっと笑うカルロイドを、リリアンジェラはメッとひと睨みすると
「もうっ!面白がっているとご自身に返りますわよ」
双子だけある、カルロイドもぺろりと舌を出した。
「もうっ!執務室に戻られてもよろしいですわ、お仕事溜まっていらっしゃるんでしょう」
すべてお見通しの妹姫に呆れた顔で言われたカルロイドが手を振って退出すると、それまで抑えられていた令嬢たちのお喋りが一気に花開く。
リリアンジェラも、兄たちの婚約者候補の噂を聞こうと、その群れの中に飛び込んでいった。
15歳ながら社交に長けているリリアンジェラは、自分にとって好ましい令嬢を集めては、三人の兄と引き合わせる機会を作っていたのだ。
しかし現れたのは双子の兄メルケルトとカルロイドのみ。リリアンジェラが一番慕っているエルロールは姿を見せなかった。
「最近、エルロール王子殿下はいくら招待状を出しても来てくださらなくなりましたわね」
「ええ。メンジャー侯爵邸のお茶会が最後のお目見えでしたわ。そういえばあのとき、雰囲気がおかしかったのです」
リリアンジェラはその話を聞きつけると割り込んだ。
「おかしかったとは?」
「ええ、セラ様がお淹れになったお茶を一口飲まれたきり一切何もお口にされず、珍しく怖いお顔をされて、セラ様ともお話しなさらなくなってしまわれたのですわ」
「セラ様、ご不興を買われましたわね」
「そうですわねえ・・・あれでは」
「お兄さまはお茶がまずかったくらいでご機嫌悪くなさるような方ではありませんわ。他に何かあったのではありませんこと?」
リリアンジェラにとって特別に大好きな兄のことだ。
もちろん王族たる者、感情に任せた言動は慎むが、何があったか知りたくて苛つきが抑えきれず、気づくと指先でテーブルをコツコツと叩いていた。
「それで、何があったのか詳しく教えてくださらない?」
リリアンジェラは好奇心に負けた。
「庭園の奥の小さなテーブルに2つだけ椅子が置かれて、セラ様はおふたりだけで座るようにそこにエルロール殿下を案内されたのでございますわ」
「え・・・、嘘、皆さんがいる茶会でしょう?」
「はい。これはもちろん本当のことでございますわよ」
隣の令嬢もこくこくと頷いて彼女の話を肯定している。
─呆れた!わたくしのお兄様になんというあからさまなことをするのかしら!婚約どころか、気持ちさえ通じ合っていないというのに厚かましいにもほどがあるわ、許せない!─
「そう」
令嬢たちがビクッと震えるほど、姫の声は冷たい怒りを含んでいた。
─勘違いも甚だしいメイジャー侯爵家とセラ嬢は徹底的に締め出してやるわ!─
ただでさえ本命に嫌われているセラは、エルロールに誰よりも可愛がられてきた、お兄様大好き妹姫にもロック・オンされたのだった。
「リリ」
「メルお兄さま、楽しくお過ごしですか」
「ああ、ご令嬢たちの話しが楽しくて時間があっという間だ」
第二王子メルケルトはいろいろと軽い。
王族としては口が軽く、容姿も軽そうに見える。本人もわかっているのだろうか、なんと行儀悪いことに舌をぺろりと出して笑うのだ。
「メルお兄さま、いけませんわ!もうこどもではないのですから」
18歳になる兄王子に小さく囁き注意する、しっかり者の妹姫である。
「はいはい、いずれにしてもそろそろ暇を貰わねばならぬのだ」
「もう?そんな時間?」
「ああ。皆さんに挨拶して失礼させてもらう」
と、リリアンジェラの耳元でメルケルトがとっても小さく告げた。
「アニエ嬢を借りて行く」
メルケルトが婚約者候補に選んだ三人の令嬢のひとりが、今日も参加していたのだ。
すーっとアニエ・ヤーミー侯爵令嬢に近寄ると二言三言話して、また離れていく。ぐるりと庭園を回りながら令嬢たちに先に退出すると挨拶し終えたところで、目立たぬよう出口に立ったアニエ嬢と庭園から出て行った。
それを見た第三王子カルロイドが自分も抜けると言ってきたので、リリアンジェラは首を横にし、メルケルトが座っていた席にカルロイドを着席させる。
「なんで?メルはよくて私はだめなんだ?」
「カルお兄さまの候補の方はいらしてないですし、その方とだってまだこれというほどではございませんのでしょ?ぜひ今日の出会いを大切にしてくださいませ。
それにしてもエルお兄さまは本当にどうなさったのかしら?わたくしがお呼びする令嬢なら安心ですのに。カルお兄さまは何か聞いていらっしゃらないのですか?」
「んー。テューダーがやたらため息ばかりつくって言ってたが、詳しくは聞いていない。まさか恋煩いとかな」
ぷぷっと笑うカルロイドを、リリアンジェラはメッとひと睨みすると
「もうっ!面白がっているとご自身に返りますわよ」
双子だけある、カルロイドもぺろりと舌を出した。
「もうっ!執務室に戻られてもよろしいですわ、お仕事溜まっていらっしゃるんでしょう」
すべてお見通しの妹姫に呆れた顔で言われたカルロイドが手を振って退出すると、それまで抑えられていた令嬢たちのお喋りが一気に花開く。
リリアンジェラも、兄たちの婚約者候補の噂を聞こうと、その群れの中に飛び込んでいった。
5
あなたにおすすめの小説
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
【完結】婚約破棄寸前の令嬢は、死んだ後に呼び戻される
四葉美名
恋愛
「サラ! ようやく僕のもとに戻ってきてくれたんだね!」
「ど、どなたでしょう?」
「僕だ! エドワードだよ!」
「エドワード様?」
婚約者でこの国の第1王子であるエドワードにダメなところをさんざん注意され、婚約破棄寸前の伯爵令嬢のサラ。
どうせ明日には婚約破棄されるのだからエドワードに魔術トラップを仕掛けて驚かそうとしたところ、大失敗して死んでしまった。
「本当に私って馬鹿! 本当に大馬鹿!」
そんな自分の愚かさを反省しエドワードの幸せを願って死んだはずなのに、目覚めると目の前にはエドワードだと名乗る別人がいた。
なんとサラは死んでから30年後に、エドワードによって魂を呼び戻されてしまったのだ。
これは不器用な2人がすれ違いながらいろんな意味で生まれ変わって幸せになる、成長恋愛ストーリーです。
設定ゆるめです。他サイトにも掲載しております。 本編&番外編すべて完結しました。ありがとうございました!
【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか
まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。
己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。
カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。
誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。
ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。
シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。
そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。
嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。
カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
婚約者を喪った私が、二度目の恋に落ちるまで。
緋田鞠
恋愛
【完結】若き公爵ジークムントは、結婚直前の婚約者を亡くしてから八年、独身を貫いていた。だが、公爵家存続の為、王命により、結婚する事になる。相手は、侯爵令嬢であるレニ。彼女もまた、婚約者を喪っていた。互いに亡くした婚約者を想いながら、形ばかりの夫婦になればいいと考えていたジークムント。しかし、レニと言葉を交わした事をきっかけに、彼女の過去に疑問を抱くようになり、次第に自分自身の過去と向き合っていく。亡くした恋人を慕い続ける事が、愛なのか?他の人と幸せになるのは、裏切りなのか?孤独な二人が、希望を持つまでの物語。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした
迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」
結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。
彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。
見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。
けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。
筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。
人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。
彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。
たとえ彼に好かれなくてもいい。
私は彼が好きだから!
大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。
ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。
と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる