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第5話 仮の名はヨルス男爵
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神父は首を傾げた。
「あの、そういえばお名前を伺っておりませなんだ」
エルロールはハッとした。
「そ、そうであったな、すまない。私はエ、エル・ヨルス男爵だ」
「イブール男爵家のメリンダでございます」
─男爵令嬢か─
どうりで!と納得する。
伯爵家以上で見たことのない令嬢はいないのだ。
せっかく胸焦がれる令嬢に出逢ったというのに。
─身分違いは不幸のもとだ─
肩を落としたエルロールに、テューダーは気づかない。
「ヨルス男爵様はご寄付を検討くださっていらっしゃるんですよ」
「まあ、素晴らしいですわ!私の家でできる寄付はたかが知れておりますから、沢山の方々が寄付の機会をお持ちくださるとよろしいですわね」
神父の言葉にメリンダが嬉しそうな笑顔を見せる。
─ということは、裕福でもないのか─
エルロールの胸は、キリキリと痛みを覚えた。
ほんの数分の間に聞いた話だけでも、第一王子の妃にはけっして認められないことばかりだ。
「メリンダさまぁ、まだぁ?」
こどもたちが大人の会話に飽きたらしく、ぐずり始める。
メリンダはエルロールたちに会釈をすると、こどもたちの手を引いて院庭へと向かっていった。
黒髪が動くたびに日に照らされて輝いて、エルロールの視線をまったく気にすることなくこどもたちと遊んでいる姿は、令嬢たちからの纏わりつくような視線に慣らされたエルロールに新鮮な衝撃を与えていた。
─慈愛に溢れるというのは、まさにこういう女性を言うのだろうな─
王族に嫁ぐのは伯爵家以上の家門というのは様々な理由があって定められたことだが、そのせいで数え切れないほどの社交に顔を出してもメリンダに出会うことはできなかった。
─爵位が低かろうと、こんな素晴らしい令嬢がいるというのに!なぜ個人の資質ではなく家を見るのだ─
それが政治というものだとエルロールの家庭教師たちは教え、理解もしているはずなのだが、優秀な頭脳の持主でありながら結婚に対してだけは特別に理想が高く、政略結婚で妥協するとか諦めて受入れるということがどうしても、どうやってもエルロールにはできなかった。
「ヨルス男爵様」
可愛らしい声に呼ばれて振り向くと、メリンダがいる。
「イブール男爵令嬢!」
「先程はご挨拶が途中になり、失礼を致しました!申し訳ございませんでした」
「いえ、私は突然やって来た通りすがりに過ぎません。こどもたちの世話を優先されるのが当然です」
メリンダが微笑み、会釈を返す。
─なんて楚々として美しい人なんだ─
エルロールは頭の中でメリンダ美しいメリンダ美しいと連呼し、なんてこともないメリンダの仕草のひとつひとつに目が吸い付いて、ほうっとため息が漏れてしまう。
─なんだ、この気持ち!胸の鼓動が激しっ!き、緊張してきた・・・なぜ─
それはエルロール初めての心の震え、そう初恋の訪れであった。
「あの、そういえばお名前を伺っておりませなんだ」
エルロールはハッとした。
「そ、そうであったな、すまない。私はエ、エル・ヨルス男爵だ」
「イブール男爵家のメリンダでございます」
─男爵令嬢か─
どうりで!と納得する。
伯爵家以上で見たことのない令嬢はいないのだ。
せっかく胸焦がれる令嬢に出逢ったというのに。
─身分違いは不幸のもとだ─
肩を落としたエルロールに、テューダーは気づかない。
「ヨルス男爵様はご寄付を検討くださっていらっしゃるんですよ」
「まあ、素晴らしいですわ!私の家でできる寄付はたかが知れておりますから、沢山の方々が寄付の機会をお持ちくださるとよろしいですわね」
神父の言葉にメリンダが嬉しそうな笑顔を見せる。
─ということは、裕福でもないのか─
エルロールの胸は、キリキリと痛みを覚えた。
ほんの数分の間に聞いた話だけでも、第一王子の妃にはけっして認められないことばかりだ。
「メリンダさまぁ、まだぁ?」
こどもたちが大人の会話に飽きたらしく、ぐずり始める。
メリンダはエルロールたちに会釈をすると、こどもたちの手を引いて院庭へと向かっていった。
黒髪が動くたびに日に照らされて輝いて、エルロールの視線をまったく気にすることなくこどもたちと遊んでいる姿は、令嬢たちからの纏わりつくような視線に慣らされたエルロールに新鮮な衝撃を与えていた。
─慈愛に溢れるというのは、まさにこういう女性を言うのだろうな─
王族に嫁ぐのは伯爵家以上の家門というのは様々な理由があって定められたことだが、そのせいで数え切れないほどの社交に顔を出してもメリンダに出会うことはできなかった。
─爵位が低かろうと、こんな素晴らしい令嬢がいるというのに!なぜ個人の資質ではなく家を見るのだ─
それが政治というものだとエルロールの家庭教師たちは教え、理解もしているはずなのだが、優秀な頭脳の持主でありながら結婚に対してだけは特別に理想が高く、政略結婚で妥協するとか諦めて受入れるということがどうしても、どうやってもエルロールにはできなかった。
「ヨルス男爵様」
可愛らしい声に呼ばれて振り向くと、メリンダがいる。
「イブール男爵令嬢!」
「先程はご挨拶が途中になり、失礼を致しました!申し訳ございませんでした」
「いえ、私は突然やって来た通りすがりに過ぎません。こどもたちの世話を優先されるのが当然です」
メリンダが微笑み、会釈を返す。
─なんて楚々として美しい人なんだ─
エルロールは頭の中でメリンダ美しいメリンダ美しいと連呼し、なんてこともないメリンダの仕草のひとつひとつに目が吸い付いて、ほうっとため息が漏れてしまう。
─なんだ、この気持ち!胸の鼓動が激しっ!き、緊張してきた・・・なぜ─
それはエルロール初めての心の震え、そう初恋の訪れであった。
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