【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

文字の大きさ
54 / 75

54

しおりを挟む
 ランバルディは自分の護衛ベイツに様子を見に行くよう指示をした。
 しばらく経ち、ベイツが戻ってきたのだが怪訝そうな顔をしている。

「なんだ?浮浪者はどうであった?」
「はい、隙だらけだし腕っぷしは弱そうなので刺客ということはなさそうなのですが」
「何か気になることでも?」
「はい・・・。何処かで見た顔なのですが、思い出せなくて」
「珍しいな、おまえが思い出せないなど」

 記憶力が抜群に良いベイツは人相書きを覚えており、公爵を狙う者が近づいてきてもすぐに察知することができる。

「大きく印象を変える何かがあると思うのですが」
「その者はどこに隠れているんだ?」

 興味が湧いたランバルディがベイツと外に出た。さも出かける体で馬車に乗り込むと、ゆっくりと男が潜む茂みの側を通り抜けた。

 窓の隙間から目を凝らしていたランバルディはそれに気づいて驚愕している。

「あれは!」

 少し先に行ったところで馬車を止め、ベイツに捕まえるよう指示したのだが、その時パルティアの乗る馬車が戻ってきた。

「あっ、いかん!」

 馬車を降りたパルティアが小さく見え、そこに男が駆け寄り叫ぶ!

「パルティア!私の金を返せ!」

 ゆっくりとパルティアが振り向く。

「私の金?・・・あっ!あなたはっ!」

 汚れた顔と薄汚れた服を着て、全体的に見窄みすぼらしい姿のそれは、オートリアス・ベンベローであった。

 護衛たちがサッとパルティアを背に守る陣形を取り、安心した顔を見せるパルティアに苛立ちを覚えたオートリアスが手をのばしてくる。

「おいっ!聞こえただろう、俺の金を返せ!うちから搾り取ったんだろう?こんな宿建てて儲けやがって」

 粗暴な言葉に青褪めたパルティアを見てニヤつき出すオートリアスだが、

「貴方のお金ではありませんわ。正当な慰謝料をベンベローの叔父様が払ってくださったのです。そしてそれをどう使うかは私の勝手ですわ」

言い返してきたパルティアにいきり立つ。

「うるさいっ!おまえのオヤジがライラとエイリズも捕まえたせいで、私たちの計画は台無しだ!その慰謝料はおまえが私に払えっ」

 言われていることがよく理解できなかったパルティアはポカンとしている。
あまりに独特すぎる理屈で。

「まさかそんな世迷い言、本気でおっしゃっていますの?」
「世迷い言だと?よくもこの生意気な!だからおまえは嫌いなんだ」

 以前のパルティアなら心が折れただろう。しかしアレクシオスの愛を得たパルティアには痛くも痒くもない。

「ええ、私もオートリアス様を曲がりなりにも信頼し、お慕いしていたことを自分の記憶から消し去りたいですわ」
「こっ、この野郎」

 すっかり荒んだ言葉を吐き続けるオートリアスに、パルティアは冷めたい視線を投げかけた。

「おい」

 追いついたベイツに肩を叩かれた。

「はっ?」

 その背後には見覚えのある男が自分を見つめている。
それは、目に怒りの炎を燃やすランバルディ・セリアズ公爵・・・。

「や、ヤバい」
「ふっ、私が誰だかわかるようだな。ベイツ、捕まえろ」
「やめ、止めろっ」

 走り出そうとしたオートリアスだが、ベイツやパルティアの護衛たちに簡単に捕縛された。

「く、くっそ!離せっ」
「ふん、離すか馬鹿者が。パルティア嬢、大丈夫であったか?」
「はい、ありがとうございます公爵様」

 ランバルディは眉間にしわを寄せて、小さく身悶えすると

「公爵様などいつまでも他人行儀だなあ、式も近いのだからそろそろお義父様と呼んでくれてもよいのだぞ」

 自分で言った「お義父様」という言葉にニヤけたランバルディだが、オートリアスの叫びに不快な顔をした。

「おとうさまだと?パルティア、おまえまさかアレクシオス・セリアズと?はははっ捨てられた者同士くっついたのかあ」

 馬鹿にするように笑ったが、それがランバルディの怒りに火をつけた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に全力感謝

あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び! 婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。 実はルーナは世界最強の魔導師で!? ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る! 「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」 ※色々な人達の目線から話は進んでいきます。 ※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します

112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。 三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。 やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。 するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。 王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

処理中です...