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「ああ、おまえは知らなかったのか!婚約の発表はおまえがライラを見捨てて逃げ出したあとだからな」
ランバルディがオートリアスを嘲笑う。
「なっ、見捨ててなどいない!」
「いいや、おまえは運命の恋などと言っていたライラを置いて自分だけ逃げた。それを見捨てていないなどと、よくもまあ厚かましく言えたものだな」
ぐっと悔しそうに唇を噛むオートリアスを見て、ランバルディは続けた。
「本当の運命の恋は、我がアレクシオスとパルティア嬢のことだ。きっと知らないだろうから教えてやろう」
メニアにも買ってやった美しい本を荷物から取り出す。
「これはアレクシオスたちの出逢いから婚約までを書いた小説だよ。
不実な婚約者に傷つけられた二人が運命的な出逢いをして、支え合って艱難辛苦を乗り越え幸せになる話だ。今王都では、この本が大人気でな。二人の恋を応援し、裏切者を断罪しろと言う声があがるようになったほどだ」
くふふと忍び笑う声を漏らしながらランバルディが本を見せびらかすと、オートリアスはこんなにも卑しい顔ができたのかという表情を浮かべた。
「そ、そんな裏切者だなんて。閣下、違うのです。どうか私の話を聞いてくださいませんか」
急に掌を返したような物言いを始めたオートリアスが、癇に障ったランバルディは手を振る。
「いや、聞く必要はないな。おまえはベンベローに引き渡してやろう。エイリズも働かされている鉱山に連れて行ってもらえるだろうから喜ぶがいい」
「こ、鉱山?そ、そんな嫌だ!行きたくないっ」
騒ぎ始めたオートリアスを護衛たちが強く押さえつける様から、パルティアが目を逸らしたことに気づき、ランバルディが気を遣う。
「パルティア嬢、こちらは私が引き受ける。其方はこれ以上この者に関わらないほうがよいから、施設に入りなさい」
「ありがとうございます、こうしゃっ、お、お義父さま」
「うむ。もう一度呼んで貰いたいところだが、それはまた後ほどにしようか。さあ、中に入りなさい」
蕩けるように笑ってすぐ表情を引き締めると、パルティアの背を見送る。
「おまえの頼みの綱は屋敷に入ってしまったなあ、かわいそうに」
くすくすと笑いながら言うランバルディは、鬱憤晴らしのように言った。
「なあ、ベンベローの息子よ知っておるか?おまえがライラと逃げるよう仕向けたのはエイリズの策略だったと」
オートリアスの目が丸くなる。
「おまえはエイリズを信じているのだろうが、元はパルティア嬢を狙ったエイリズが仕組んだものだったと」
「え・・・何を」
「やはり知らぬのか、事もあろうに弟に騙されるとは気の毒になあ」
言われていることが理解できず、オートリアスの顔が曇る。
「パルティアをエイリズが狙った?」
「そうだ。正確には侯爵配偶者の地位を狙っていたらしいぞ」
そう聞くと、ふとオートリアスの脳裡に思い浮かぶことがあった。
元々オートリアスはパルティアと普通に婚約者として仲良くしていたが、若い貴族の中では人気がないなどよくない噂を最初にし始めたのがエイリズなのだ。
婚約者がいるというのに、顔を見たことがあるくらいのライラをわざわざ紹介してきたのも、ライラこそが自分に似合いの令嬢だと囃し立てたのもすべてエイリズ・・・。
「そんな・・・」
「おまえが駆け落ちしたあと、パルティア嬢を慰めて自分が後釜に座れば、家同士には大した影響もなく、婚約者を差し替えるだけだと簡単に考えていたようだが。
幸運なことにパルティア嬢はエイリズより先に、我がアレクシオスと出逢った」
ランバルディは、項垂れて背中を丸めたオートリアスを楽しそうに見つめていた。
ランバルディがオートリアスを嘲笑う。
「なっ、見捨ててなどいない!」
「いいや、おまえは運命の恋などと言っていたライラを置いて自分だけ逃げた。それを見捨てていないなどと、よくもまあ厚かましく言えたものだな」
ぐっと悔しそうに唇を噛むオートリアスを見て、ランバルディは続けた。
「本当の運命の恋は、我がアレクシオスとパルティア嬢のことだ。きっと知らないだろうから教えてやろう」
メニアにも買ってやった美しい本を荷物から取り出す。
「これはアレクシオスたちの出逢いから婚約までを書いた小説だよ。
不実な婚約者に傷つけられた二人が運命的な出逢いをして、支え合って艱難辛苦を乗り越え幸せになる話だ。今王都では、この本が大人気でな。二人の恋を応援し、裏切者を断罪しろと言う声があがるようになったほどだ」
くふふと忍び笑う声を漏らしながらランバルディが本を見せびらかすと、オートリアスはこんなにも卑しい顔ができたのかという表情を浮かべた。
「そ、そんな裏切者だなんて。閣下、違うのです。どうか私の話を聞いてくださいませんか」
急に掌を返したような物言いを始めたオートリアスが、癇に障ったランバルディは手を振る。
「いや、聞く必要はないな。おまえはベンベローに引き渡してやろう。エイリズも働かされている鉱山に連れて行ってもらえるだろうから喜ぶがいい」
「こ、鉱山?そ、そんな嫌だ!行きたくないっ」
騒ぎ始めたオートリアスを護衛たちが強く押さえつける様から、パルティアが目を逸らしたことに気づき、ランバルディが気を遣う。
「パルティア嬢、こちらは私が引き受ける。其方はこれ以上この者に関わらないほうがよいから、施設に入りなさい」
「ありがとうございます、こうしゃっ、お、お義父さま」
「うむ。もう一度呼んで貰いたいところだが、それはまた後ほどにしようか。さあ、中に入りなさい」
蕩けるように笑ってすぐ表情を引き締めると、パルティアの背を見送る。
「おまえの頼みの綱は屋敷に入ってしまったなあ、かわいそうに」
くすくすと笑いながら言うランバルディは、鬱憤晴らしのように言った。
「なあ、ベンベローの息子よ知っておるか?おまえがライラと逃げるよう仕向けたのはエイリズの策略だったと」
オートリアスの目が丸くなる。
「おまえはエイリズを信じているのだろうが、元はパルティア嬢を狙ったエイリズが仕組んだものだったと」
「え・・・何を」
「やはり知らぬのか、事もあろうに弟に騙されるとは気の毒になあ」
言われていることが理解できず、オートリアスの顔が曇る。
「パルティアをエイリズが狙った?」
「そうだ。正確には侯爵配偶者の地位を狙っていたらしいぞ」
そう聞くと、ふとオートリアスの脳裡に思い浮かぶことがあった。
元々オートリアスはパルティアと普通に婚約者として仲良くしていたが、若い貴族の中では人気がないなどよくない噂を最初にし始めたのがエイリズなのだ。
婚約者がいるというのに、顔を見たことがあるくらいのライラをわざわざ紹介してきたのも、ライラこそが自分に似合いの令嬢だと囃し立てたのもすべてエイリズ・・・。
「そんな・・・」
「おまえが駆け落ちしたあと、パルティア嬢を慰めて自分が後釜に座れば、家同士には大した影響もなく、婚約者を差し替えるだけだと簡単に考えていたようだが。
幸運なことにパルティア嬢はエイリズより先に、我がアレクシオスと出逢った」
ランバルディは、項垂れて背中を丸めたオートリアスを楽しそうに見つめていた。
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