【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる

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 ランバルディは自分の護衛ベイツに様子を見に行くよう指示をした。
 しばらく経ち、ベイツが戻ってきたのだが怪訝そうな顔をしている。

「なんだ?浮浪者はどうであった?」
「はい、隙だらけだし腕っぷしは弱そうなので刺客ということはなさそうなのですが」
「何か気になることでも?」
「はい・・・。何処かで見た顔なのですが、思い出せなくて」
「珍しいな、おまえが思い出せないなど」

 記憶力が抜群に良いベイツは人相書きを覚えており、公爵を狙う者が近づいてきてもすぐに察知することができる。

「大きく印象を変える何かがあると思うのですが」
「その者はどこに隠れているんだ?」

 興味が湧いたランバルディがベイツと外に出た。さも出かける体で馬車に乗り込むと、ゆっくりと男が潜む茂みの側を通り抜けた。

 窓の隙間から目を凝らしていたランバルディはそれに気づいて驚愕している。

「あれは!」

 少し先に行ったところで馬車を止め、ベイツに捕まえるよう指示したのだが、その時パルティアの乗る馬車が戻ってきた。

「あっ、いかん!」

 馬車を降りたパルティアが小さく見え、そこに男が駆け寄り叫ぶ!

「パルティア!私の金を返せ!」

 ゆっくりとパルティアが振り向く。

「私の金?・・・あっ!あなたはっ!」

 汚れた顔と薄汚れた服を着て、全体的に見窄みすぼらしい姿のそれは、オートリアス・ベンベローであった。

 護衛たちがサッとパルティアを背に守る陣形を取り、安心した顔を見せるパルティアに苛立ちを覚えたオートリアスが手をのばしてくる。

「おいっ!聞こえただろう、俺の金を返せ!うちから搾り取ったんだろう?こんな宿建てて儲けやがって」

 粗暴な言葉に青褪めたパルティアを見てニヤつき出すオートリアスだが、

「貴方のお金ではありませんわ。正当な慰謝料をベンベローの叔父様が払ってくださったのです。そしてそれをどう使うかは私の勝手ですわ」

言い返してきたパルティアにいきり立つ。

「うるさいっ!おまえのオヤジがライラとエイリズも捕まえたせいで、私たちの計画は台無しだ!その慰謝料はおまえが私に払えっ」

 言われていることがよく理解できなかったパルティアはポカンとしている。
あまりに独特すぎる理屈で。

「まさかそんな世迷い言、本気でおっしゃっていますの?」
「世迷い言だと?よくもこの生意気な!だからおまえは嫌いなんだ」

 以前のパルティアなら心が折れただろう。しかしアレクシオスの愛を得たパルティアには痛くも痒くもない。

「ええ、私もオートリアス様を曲がりなりにも信頼し、お慕いしていたことを自分の記憶から消し去りたいですわ」
「こっ、この野郎」

 すっかり荒んだ言葉を吐き続けるオートリアスに、パルティアは冷めたい視線を投げかけた。

「おい」

 追いついたベイツに肩を叩かれた。

「はっ?」

 その背後には見覚えのある男が自分を見つめている。
それは、目に怒りの炎を燃やすランバルディ・セリアズ公爵・・・。

「や、ヤバい」
「ふっ、私が誰だかわかるようだな。ベイツ、捕まえろ」
「やめ、止めろっ」

 走り出そうとしたオートリアスだが、ベイツやパルティアの護衛たちに簡単に捕縛された。

「く、くっそ!離せっ」
「ふん、離すか馬鹿者が。パルティア嬢、大丈夫であったか?」
「はい、ありがとうございます公爵様」

 ランバルディは眉間にしわを寄せて、小さく身悶えすると

「公爵様などいつまでも他人行儀だなあ、式も近いのだからそろそろお義父様と呼んでくれてもよいのだぞ」

 自分で言った「お義父様」という言葉にニヤけたランバルディだが、オートリアスの叫びに不快な顔をした。

「おとうさまだと?パルティア、おまえまさかアレクシオス・セリアズと?はははっ捨てられた者同士くっついたのかあ」

 馬鹿にするように笑ったが、それがランバルディの怒りに火をつけた。
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