55 / 75
55
しおりを挟む
「ああ、おまえは知らなかったのか!婚約の発表はおまえがライラを見捨てて逃げ出したあとだからな」
ランバルディがオートリアスを嘲笑う。
「なっ、見捨ててなどいない!」
「いいや、おまえは運命の恋などと言っていたライラを置いて自分だけ逃げた。それを見捨てていないなどと、よくもまあ厚かましく言えたものだな」
ぐっと悔しそうに唇を噛むオートリアスを見て、ランバルディは続けた。
「本当の運命の恋は、我がアレクシオスとパルティア嬢のことだ。きっと知らないだろうから教えてやろう」
メニアにも買ってやった美しい本を荷物から取り出す。
「これはアレクシオスたちの出逢いから婚約までを書いた小説だよ。
不実な婚約者に傷つけられた二人が運命的な出逢いをして、支え合って艱難辛苦を乗り越え幸せになる話だ。今王都では、この本が大人気でな。二人の恋を応援し、裏切者を断罪しろと言う声があがるようになったほどだ」
くふふと忍び笑う声を漏らしながらランバルディが本を見せびらかすと、オートリアスはこんなにも卑しい顔ができたのかという表情を浮かべた。
「そ、そんな裏切者だなんて。閣下、違うのです。どうか私の話を聞いてくださいませんか」
急に掌を返したような物言いを始めたオートリアスが、癇に障ったランバルディは手を振る。
「いや、聞く必要はないな。おまえはベンベローに引き渡してやろう。エイリズも働かされている鉱山に連れて行ってもらえるだろうから喜ぶがいい」
「こ、鉱山?そ、そんな嫌だ!行きたくないっ」
騒ぎ始めたオートリアスを護衛たちが強く押さえつける様から、パルティアが目を逸らしたことに気づき、ランバルディが気を遣う。
「パルティア嬢、こちらは私が引き受ける。其方はこれ以上この者に関わらないほうがよいから、施設に入りなさい」
「ありがとうございます、こうしゃっ、お、お義父さま」
「うむ。もう一度呼んで貰いたいところだが、それはまた後ほどにしようか。さあ、中に入りなさい」
蕩けるように笑ってすぐ表情を引き締めると、パルティアの背を見送る。
「おまえの頼みの綱は屋敷に入ってしまったなあ、かわいそうに」
くすくすと笑いながら言うランバルディは、鬱憤晴らしのように言った。
「なあ、ベンベローの息子よ知っておるか?おまえがライラと逃げるよう仕向けたのはエイリズの策略だったと」
オートリアスの目が丸くなる。
「おまえはエイリズを信じているのだろうが、元はパルティア嬢を狙ったエイリズが仕組んだものだったと」
「え・・・何を」
「やはり知らぬのか、事もあろうに弟に騙されるとは気の毒になあ」
言われていることが理解できず、オートリアスの顔が曇る。
「パルティアをエイリズが狙った?」
「そうだ。正確には侯爵配偶者の地位を狙っていたらしいぞ」
そう聞くと、ふとオートリアスの脳裡に思い浮かぶことがあった。
元々オートリアスはパルティアと普通に婚約者として仲良くしていたが、若い貴族の中では人気がないなどよくない噂を最初にし始めたのがエイリズなのだ。
婚約者がいるというのに、顔を見たことがあるくらいのライラをわざわざ紹介してきたのも、ライラこそが自分に似合いの令嬢だと囃し立てたのもすべてエイリズ・・・。
「そんな・・・」
「おまえが駆け落ちしたあと、パルティア嬢を慰めて自分が後釜に座れば、家同士には大した影響もなく、婚約者を差し替えるだけだと簡単に考えていたようだが。
幸運なことにパルティア嬢はエイリズより先に、我がアレクシオスと出逢った」
ランバルディは、項垂れて背中を丸めたオートリアスを楽しそうに見つめていた。
ランバルディがオートリアスを嘲笑う。
「なっ、見捨ててなどいない!」
「いいや、おまえは運命の恋などと言っていたライラを置いて自分だけ逃げた。それを見捨てていないなどと、よくもまあ厚かましく言えたものだな」
ぐっと悔しそうに唇を噛むオートリアスを見て、ランバルディは続けた。
「本当の運命の恋は、我がアレクシオスとパルティア嬢のことだ。きっと知らないだろうから教えてやろう」
メニアにも買ってやった美しい本を荷物から取り出す。
「これはアレクシオスたちの出逢いから婚約までを書いた小説だよ。
不実な婚約者に傷つけられた二人が運命的な出逢いをして、支え合って艱難辛苦を乗り越え幸せになる話だ。今王都では、この本が大人気でな。二人の恋を応援し、裏切者を断罪しろと言う声があがるようになったほどだ」
くふふと忍び笑う声を漏らしながらランバルディが本を見せびらかすと、オートリアスはこんなにも卑しい顔ができたのかという表情を浮かべた。
「そ、そんな裏切者だなんて。閣下、違うのです。どうか私の話を聞いてくださいませんか」
急に掌を返したような物言いを始めたオートリアスが、癇に障ったランバルディは手を振る。
「いや、聞く必要はないな。おまえはベンベローに引き渡してやろう。エイリズも働かされている鉱山に連れて行ってもらえるだろうから喜ぶがいい」
「こ、鉱山?そ、そんな嫌だ!行きたくないっ」
騒ぎ始めたオートリアスを護衛たちが強く押さえつける様から、パルティアが目を逸らしたことに気づき、ランバルディが気を遣う。
「パルティア嬢、こちらは私が引き受ける。其方はこれ以上この者に関わらないほうがよいから、施設に入りなさい」
「ありがとうございます、こうしゃっ、お、お義父さま」
「うむ。もう一度呼んで貰いたいところだが、それはまた後ほどにしようか。さあ、中に入りなさい」
蕩けるように笑ってすぐ表情を引き締めると、パルティアの背を見送る。
「おまえの頼みの綱は屋敷に入ってしまったなあ、かわいそうに」
くすくすと笑いながら言うランバルディは、鬱憤晴らしのように言った。
「なあ、ベンベローの息子よ知っておるか?おまえがライラと逃げるよう仕向けたのはエイリズの策略だったと」
オートリアスの目が丸くなる。
「おまえはエイリズを信じているのだろうが、元はパルティア嬢を狙ったエイリズが仕組んだものだったと」
「え・・・何を」
「やはり知らぬのか、事もあろうに弟に騙されるとは気の毒になあ」
言われていることが理解できず、オートリアスの顔が曇る。
「パルティアをエイリズが狙った?」
「そうだ。正確には侯爵配偶者の地位を狙っていたらしいぞ」
そう聞くと、ふとオートリアスの脳裡に思い浮かぶことがあった。
元々オートリアスはパルティアと普通に婚約者として仲良くしていたが、若い貴族の中では人気がないなどよくない噂を最初にし始めたのがエイリズなのだ。
婚約者がいるというのに、顔を見たことがあるくらいのライラをわざわざ紹介してきたのも、ライラこそが自分に似合いの令嬢だと囃し立てたのもすべてエイリズ・・・。
「そんな・・・」
「おまえが駆け落ちしたあと、パルティア嬢を慰めて自分が後釜に座れば、家同士には大した影響もなく、婚約者を差し替えるだけだと簡単に考えていたようだが。
幸運なことにパルティア嬢はエイリズより先に、我がアレクシオスと出逢った」
ランバルディは、項垂れて背中を丸めたオートリアスを楽しそうに見つめていた。
192
あなたにおすすめの小説
婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた
奏千歌
恋愛
[ディエム家の双子姉妹]
どうして、こんな事になってしまったのか。
妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。
婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!
パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。
(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ?
青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。
チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。
しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは……
これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で
す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦)
それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる