【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる

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10話

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「ロリーン先生、先日のお話なのですが」
「あれ?王妃様のコンテストのことかしら」
「はい。まだ間に合いますか?」
「ええ大丈夫よ、申込みは来月末ですもの。出してみる気になった?」
「はい」

 頷きながら答えたナミリアは、おずおずと白いハンカチを差し出した。

「これはな・・・に?えっ?なにこれ」

 ロリーンの目つきが変わった。
 パッとハンカチを開くと、なんと裏にも糸が通されて表裏どちらを見ても美しい上に、外周を飾る小さな花びらのようなレースが可愛らしく。

「このレースどんな糸を使ったのかしら?」
「それは・・・秘密ですわ」
「あっ、ひみつね!」

 ふふふっと二人で笑う。
もし他にない斬新な技術を思いついたとき、それは例え師匠であっても秘密にして構わないのだ。
 それを教えろというような講師なら、即刻辞めさせろとロリーンがナミリアに教え込んでいた。


「わかったわ。じゃあそこは聞かない!これは素晴らしい。自分で考えたの?」
「はいモチーフは。糸は使用人たちの手を借りて用意しました」
「使用人たち?」
「糸撚りが出来る者がいるのです」
「まあっっ!糸からなの?それは欲目でなく本当に素晴らしいわ!」


 今度は窓際に立ち、日差しの下で縫い目の乱れ、糸の引きや捻じれなど一つでも欠点を見つけられないものかと目を凝らすが、何も見つけられない。

 ロリーンは僅かな期間に培われたナミリアの技術力と集中力の高さに舌を巻いた。






 最初ナミリアはウェディングドレスに使われていたレースを思い出して、あの糸を使いたいと考えていた。
 イールズ商会に尋ねたが、取り寄せに一月はかかると言う。
上質な糸や生地の殆どは遠い東国で作られており、それに代わるものはないかと編み糸を見つめていた時に、今更だが糸が数本の細い糸から撚られていることに気がついた。
 短く切って解いて見ると、強い撚り癖がついていて、このままでは使えそうにないが、侍女エーラを呼んで相談すると、解した糸に水通しをしてみたらどうかと教えられる。一本にしてしまった糸の耐久性も心配になったが。

「まあこういった飾りハンカチを使う方はおられませんから心配不要です。ナミ様もお使いになられるときは私がいつもお出ししたものを使われておりますでしょう?」
「そういえばそうね」
「飾りハンカチはハンカチとして使うのではなく、本当に飾りにすぎません」

 うんうんと頷くナミリア。

「ですからどれくらい保つものか、気になさることはないのでは」

 深く考えずに言ったエーラが糸を覗き込んだ。

「そういえば、確か下女に家族が糸撚りをしている者がいたと記憶しております」
「うちの下女の家族がそんなことをしているの?」
「糸撚りや機織りは家の中でできますからね。織り機は簡単に買えませんが、糸撚り機なら小さくて手に入れやすいそうですよ」
「そうだったの、知らなかったわ」
「この糸をナミ様のお考えのように使うためにはどうしたらいいか、聞いてみてもらいましょうか?」
「ええ、お願い!」

 エーラは久しぶりにやる気に満ちたナミリアに、心がはやっていた。
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