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11話
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洗濯下女たちの控室に赴くと、目当ての人物を見つけたエーラが、ナミリアがやろうとしていることを説明する。
「これをですか?うーん・・・解したものを使うのは難しいんじゃないですかね」
「だめ?そんなに丈夫でなくともよさそうなのだけど」
下女が遠い目を天井に向けた。
呆れたとは言えないから。
「いくら丈夫でなくともといっても、脆すぎは駄目じゃないですか?これ、一体何に使うんです?」
「それは困ったわね。レース編みをなさりたいそうなのだけど、売っているものでは糸が太すぎるんですって。お嬢様がお使いになりたい細いものは東国から取り寄せするしかないらしくて、すぐには手に入らないそうなのよ」
思案顔をした若い下女が片手をあげる。
「・・・・あの、お嬢様がもし糸撚りに必要な道具や材料を揃えてくださるなら、お嬢様がほしい細い糸をアタシがここで撚ってみましょうか?」
「あなたができる?」
「毎晩やってますから、たぶんできるんじゃないかなって」
そう胸を張ったのは、洗濯とアイロンがけ、繕い物をやっている下女ダリアだ。
ダリアはこのあと、いつも扱っている粗悪な綿花とは違う、高級な素材に恐れ慄くことになるのだが。
それでもダリアはナミリアの希望に応えるため、泊まり込みで糸撚りに取り組んだ。
何度も何度も失敗しながら、幼い頃から積んできた経験を生かし、ハンカチ一周花びらレース分の糸をなんとか間に合わせることができたのだ。
自分で見ても悪くない出来だ。
材料と道具があれば、ダリアでもそこそこ通用すると証明してみせた。
細いレース糸をとても気にいったナミリア。
「これ、もっと作れたら売れるのじゃないかしら」
ミヒアは細い糸や美しい生地は遠い東国の専売特許と言っていたが。
この国では糸撚りや機織りは下層階級の者が個々に副業としてやっていることが殆ど。
当然道具も材料も良い物は手に入れられないため、品質を上げることが出来ないだけではないかとナミリアは考えた。
誰かがそれを揃えてやれば、いきなり高級品とはいかなくとも、ダリアのようにやれる者がいることを知ったのだ。
「ミヒア様に相談したら・・・」
しかしミヒアは自分に会いたいと思うだろうか・・・。
いろいろと悩んで先に進まずにいるうちに、ロリーンが手配していた王妃のコンテストが開催の日を迎えた。
毎年誰かしらが新しいモチーフを考え出すので、楽しみで仕方ない王妃と王女は、おしゃれに目がなかった。
一度だけのつもりでコンテストを開催したのは、王妃がまだ王太子妃だった昔。
気にいった刺繍師がとある侯爵家のお抱えで、王宮に呼ぶにはいちいち侯爵夫人に伺いを立てねばならないのが癪に障り、自分の気に入りを探すためだった。
数年は最初の優勝者を贔屓にしていたが、こういった技術にも流行り廃りがあることに気づき、名声に胡座をかいて新しい技術を取り入れようとしない刺繍師を見限った。
翌年からは、毎年開催を続けている。
公平を期すために、番号だけが振られた作品一つ一つをじっくり見て回るのは、王妃とふたりの王女、女官長と女官たちだ。
王妃の足が止まった。
「これはレースよね?ずいぶん細い糸だわ。花びらを模したのかしら?」
「そのようでございますね」
覗き込んだ女官長も頷く。
「糸は東国から取り寄せたのかしらね?」
「そうでございましょうね」
レースもさることながら、細やかで丁寧な刺繍が美しい。
もっと技術の高い者もいるのだが、王妃はその図案に心惹かれてハンカチを手に取った。
「あら?」
裏を返すと、裏側もきれいに刺繍されて縫い目や糸が隠されている。
「見えないところまで手を抜かないのはいい心がけだわ」
127番とメモに書き残し、後ろ髪を引かれながら、次の作品へと押し出されて行った。
「これをですか?うーん・・・解したものを使うのは難しいんじゃないですかね」
「だめ?そんなに丈夫でなくともよさそうなのだけど」
下女が遠い目を天井に向けた。
呆れたとは言えないから。
「いくら丈夫でなくともといっても、脆すぎは駄目じゃないですか?これ、一体何に使うんです?」
「それは困ったわね。レース編みをなさりたいそうなのだけど、売っているものでは糸が太すぎるんですって。お嬢様がお使いになりたい細いものは東国から取り寄せするしかないらしくて、すぐには手に入らないそうなのよ」
思案顔をした若い下女が片手をあげる。
「・・・・あの、お嬢様がもし糸撚りに必要な道具や材料を揃えてくださるなら、お嬢様がほしい細い糸をアタシがここで撚ってみましょうか?」
「あなたができる?」
「毎晩やってますから、たぶんできるんじゃないかなって」
そう胸を張ったのは、洗濯とアイロンがけ、繕い物をやっている下女ダリアだ。
ダリアはこのあと、いつも扱っている粗悪な綿花とは違う、高級な素材に恐れ慄くことになるのだが。
それでもダリアはナミリアの希望に応えるため、泊まり込みで糸撚りに取り組んだ。
何度も何度も失敗しながら、幼い頃から積んできた経験を生かし、ハンカチ一周花びらレース分の糸をなんとか間に合わせることができたのだ。
自分で見ても悪くない出来だ。
材料と道具があれば、ダリアでもそこそこ通用すると証明してみせた。
細いレース糸をとても気にいったナミリア。
「これ、もっと作れたら売れるのじゃないかしら」
ミヒアは細い糸や美しい生地は遠い東国の専売特許と言っていたが。
この国では糸撚りや機織りは下層階級の者が個々に副業としてやっていることが殆ど。
当然道具も材料も良い物は手に入れられないため、品質を上げることが出来ないだけではないかとナミリアは考えた。
誰かがそれを揃えてやれば、いきなり高級品とはいかなくとも、ダリアのようにやれる者がいることを知ったのだ。
「ミヒア様に相談したら・・・」
しかしミヒアは自分に会いたいと思うだろうか・・・。
いろいろと悩んで先に進まずにいるうちに、ロリーンが手配していた王妃のコンテストが開催の日を迎えた。
毎年誰かしらが新しいモチーフを考え出すので、楽しみで仕方ない王妃と王女は、おしゃれに目がなかった。
一度だけのつもりでコンテストを開催したのは、王妃がまだ王太子妃だった昔。
気にいった刺繍師がとある侯爵家のお抱えで、王宮に呼ぶにはいちいち侯爵夫人に伺いを立てねばならないのが癪に障り、自分の気に入りを探すためだった。
数年は最初の優勝者を贔屓にしていたが、こういった技術にも流行り廃りがあることに気づき、名声に胡座をかいて新しい技術を取り入れようとしない刺繍師を見限った。
翌年からは、毎年開催を続けている。
公平を期すために、番号だけが振られた作品一つ一つをじっくり見て回るのは、王妃とふたりの王女、女官長と女官たちだ。
王妃の足が止まった。
「これはレースよね?ずいぶん細い糸だわ。花びらを模したのかしら?」
「そのようでございますね」
覗き込んだ女官長も頷く。
「糸は東国から取り寄せたのかしらね?」
「そうでございましょうね」
レースもさることながら、細やかで丁寧な刺繍が美しい。
もっと技術の高い者もいるのだが、王妃はその図案に心惹かれてハンカチを手に取った。
「あら?」
裏を返すと、裏側もきれいに刺繍されて縫い目や糸が隠されている。
「見えないところまで手を抜かないのはいい心がけだわ」
127番とメモに書き残し、後ろ髪を引かれながら、次の作品へと押し出されて行った。
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