28 / 100
28話
しおりを挟む
ソリユール商店は、女性たちが集う手芸用品の店の一つである。
どちらかというと高級な店になるだろう。
いずれ糸や生地を販売できるようになったら、是非取引願いたいとナミリアは考えており、計画を立ててからは何か買い物といえばこのソリユール商店に通っていた。
「わ!女性ばかりですね」
「ええ。剣帯やハンカチへの刺繍用品が充実しておりますのよ。居心地がお悪いようでしたら、外でお待ちになってください。エーラ」
「かしこまりました」
エーラがローズリーを店外に出そうとするも、ローズリーはそれを押し留めてナミリアのそばを死守する。
「ナミリア様の隣が居心地悪いわけがありません、邪魔でなければここにいさせてください」
思いもかけぬ強い語気に、まわりの女性客たちがローズリーを見た。
「あっ。申し訳ありません、大きな声を出してしまって」
焦ったように眉尻を下げパタパタと手を振ると、整った容姿のせいか、女性たちは、薄っすらと微笑んで興味を失くしたように買い物に戻っていった。
「申し訳ない、私としたことが」
「皆様気にしていらっしゃらないようですから。このあとはお気をつけくださいねローズリー様」
やんわりナミリアに言われ、ローズリーはポリポリと頭を掻き、ぺこりと頭を下げた。
「はい、以後気をつけますので今日はお許しください」
ローズリーの姿がなんとも可愛らしく見え、笑いを溢すとナミリアは彼の腕に手を乗せ、店内を一緒に廻り始めたのだった。
「随分たくさん買うんですね」
「このくらい、毎日刺繍をしていたらあっと言う間に使ってしまいますわ」
「刺繍したものはどうしているんですか?」
「今は友人たちの結婚が続いておりますからお祝いの品がほとんどですわ」
「なるほど。・・・あの、それが落ち着いてからでも構いません、私にも一つ頂けるとうれしいです」
照れくさそうなもじもじした話し方でローズリーが強請ると、ナミリアも少し俯いてこくりと頷く。
「機会がございましたらそのように」
「はい、絶対お願いしますっ!」
そのふたりは初々しい恋人同士にしか見えない。
エーラはただ淡々と、主の婚約者になるかもしれない子爵を見守っていた。
「このあとランチに行きませんか」
「素敵なお誘いですが、私このあと刺繍の先生と約束がございまして、あまり時間がございませんの」
「ああ、それは残念だ!それでは次の機会は是非一緒にランチを楽しみましょう!」
「ええ、そうですわね。では本日はこれにて失礼いたしますわ」
「馬車まで送りますよ」
「いえ、ここから待ち合わせの店に歩いて参りますわ」
「じゃあそこまで送ります」
「先生にはまだローズリー様のことは秘密にしておりますの。いずれ時が参りましたらご紹介しますわ。それではごきげんよう」
イールズ商会について来られるのは流石にまずいと、ナミリアはなんとか逃げ切った。
「あの雰囲気で、よくお断りできましたね」
「だってこのままイールズ商会にローズリー様をお連れしたら、いろいろ勘ぐられそうだし。ミヒア様と事業のこと、婚約するまでは言わないように約束もしているし、必死だったわ。ちょっと挙動不審だったかしら?」
「いえ、冷静でいらっしゃいましたわ。見極めをすべき今はそれでよろしいのではありませんか」
エーラがそう言ったので安心したナミリアは、念のために左右を見回してから、イールズ商会の扉に手をかけた。
どちらかというと高級な店になるだろう。
いずれ糸や生地を販売できるようになったら、是非取引願いたいとナミリアは考えており、計画を立ててからは何か買い物といえばこのソリユール商店に通っていた。
「わ!女性ばかりですね」
「ええ。剣帯やハンカチへの刺繍用品が充実しておりますのよ。居心地がお悪いようでしたら、外でお待ちになってください。エーラ」
「かしこまりました」
エーラがローズリーを店外に出そうとするも、ローズリーはそれを押し留めてナミリアのそばを死守する。
「ナミリア様の隣が居心地悪いわけがありません、邪魔でなければここにいさせてください」
思いもかけぬ強い語気に、まわりの女性客たちがローズリーを見た。
「あっ。申し訳ありません、大きな声を出してしまって」
焦ったように眉尻を下げパタパタと手を振ると、整った容姿のせいか、女性たちは、薄っすらと微笑んで興味を失くしたように買い物に戻っていった。
「申し訳ない、私としたことが」
「皆様気にしていらっしゃらないようですから。このあとはお気をつけくださいねローズリー様」
やんわりナミリアに言われ、ローズリーはポリポリと頭を掻き、ぺこりと頭を下げた。
「はい、以後気をつけますので今日はお許しください」
ローズリーの姿がなんとも可愛らしく見え、笑いを溢すとナミリアは彼の腕に手を乗せ、店内を一緒に廻り始めたのだった。
「随分たくさん買うんですね」
「このくらい、毎日刺繍をしていたらあっと言う間に使ってしまいますわ」
「刺繍したものはどうしているんですか?」
「今は友人たちの結婚が続いておりますからお祝いの品がほとんどですわ」
「なるほど。・・・あの、それが落ち着いてからでも構いません、私にも一つ頂けるとうれしいです」
照れくさそうなもじもじした話し方でローズリーが強請ると、ナミリアも少し俯いてこくりと頷く。
「機会がございましたらそのように」
「はい、絶対お願いしますっ!」
そのふたりは初々しい恋人同士にしか見えない。
エーラはただ淡々と、主の婚約者になるかもしれない子爵を見守っていた。
「このあとランチに行きませんか」
「素敵なお誘いですが、私このあと刺繍の先生と約束がございまして、あまり時間がございませんの」
「ああ、それは残念だ!それでは次の機会は是非一緒にランチを楽しみましょう!」
「ええ、そうですわね。では本日はこれにて失礼いたしますわ」
「馬車まで送りますよ」
「いえ、ここから待ち合わせの店に歩いて参りますわ」
「じゃあそこまで送ります」
「先生にはまだローズリー様のことは秘密にしておりますの。いずれ時が参りましたらご紹介しますわ。それではごきげんよう」
イールズ商会について来られるのは流石にまずいと、ナミリアはなんとか逃げ切った。
「あの雰囲気で、よくお断りできましたね」
「だってこのままイールズ商会にローズリー様をお連れしたら、いろいろ勘ぐられそうだし。ミヒア様と事業のこと、婚約するまでは言わないように約束もしているし、必死だったわ。ちょっと挙動不審だったかしら?」
「いえ、冷静でいらっしゃいましたわ。見極めをすべき今はそれでよろしいのではありませんか」
エーラがそう言ったので安心したナミリアは、念のために左右を見回してから、イールズ商会の扉に手をかけた。
49
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
【完結】私は本気の恋だった
キムラましゅろう
恋愛
ミルチアは語って聞かせる。
かつて身をやつした最初で最後の恋の話を。
はじめて愛した人は、嘘偽りで塗り固められた人。
騙されていたと知ったとき、ミルチアは全てを捧げ、そして全てを捨てて逃げ出した。
だけど嘘から出た誠とはよくいったもの。ミルチアは偽りの関係からかけがえのないものを得る。
そうしてミルチアは流れ着いた港町にて一人で子を生み育てていた。
このまま親子二人で穏やかに暮らせていけたらと、そんなささやかな望みを抱くことも許されないのだろうか。
なぜ探したのか、どうして会いにきたのか。
もう二度とその双眸を見ることはないと思っていたのに……。
ミルチアが綴る恋の物語に、あなたも耳を傾けてみませんか。
小説家になろうで開催された、氷雨そら先生主催のシークレットベビー企画参加作品です。
(すでに期間は終了しております)
誤字脱字……( *ˊꇴˋ)ゴメンネ!
すでに完結している作品ですが、感想欄の管理のために数話ずつ投稿します。
だいたい1回の投稿につき5話ずつくらいです。
よろしくお願いいたします🙏✨
今回もプロローグと最終話に感想欄を解放します(。uωu))ペコリ💕
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる