【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる

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28話

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 ソリユール商店は、女性たちが集う手芸用品の店の一つである。
どちらかというと高級な店になるだろう。

 いずれ糸や生地を販売できるようになったら、是非取引願いたいとナミリアは考えており、計画を立ててからは何か買い物といえばこのソリユール商店に通っていた。



「わ!女性ばかりですね」
「ええ。剣帯やハンカチへの刺繍用品が充実しておりますのよ。居心地がお悪いようでしたら、外でお待ちになってください。エーラ」
「かしこまりました」

 エーラがローズリーを店外に出そうとするも、ローズリーはそれを押し留めてナミリアのそばを死守する。

「ナミリア様の隣が居心地悪いわけがありません、邪魔でなければここにいさせてください」

 思いもかけぬ強い語気に、まわりの女性客たちがローズリーを見た。

「あっ。申し訳ありません、大きな声を出してしまって」

 焦ったように眉尻を下げパタパタと手を振ると、整った容姿のせいか、女性たちは、薄っすらと微笑んで興味を失くしたように買い物に戻っていった。

「申し訳ない、私としたことが」
「皆様気にしていらっしゃらないようですから。このあとはお気をつけくださいねローズリー様」

 やんわりナミリアに言われ、ローズリーはポリポリと頭を掻き、ぺこりと頭を下げた。

「はい、以後気をつけますので今日はお許しください」

 ローズリーの姿がなんとも可愛らしく見え、笑いを溢すとナミリアは彼の腕に手を乗せ、店内を一緒に廻り始めたのだった。




「随分たくさん買うんですね」
「このくらい、毎日刺繍をしていたらあっと言う間に使ってしまいますわ」
「刺繍したものはどうしているんですか?」
「今は友人たちの結婚が続いておりますからお祝いの品がほとんどですわ」
「なるほど。・・・あの、それが落ち着いてからでも構いません、私にも一つ頂けるとうれしいです」

 照れくさそうなもじもじした話し方でローズリーが強請ると、ナミリアも少し俯いてこくりと頷く。

「機会がございましたらそのように」
「はい、絶対お願いしますっ!」

 そのふたりは初々しい恋人同士にしか見えない。

 エーラはただ淡々と、主の婚約者になるかもしれない子爵を見守っていた。





「このあとランチに行きませんか」
「素敵なお誘いですが、私このあと刺繍の先生と約束がございまして、あまり時間がございませんの」
「ああ、それは残念だ!それでは次の機会は是非一緒にランチを楽しみましょう!」
「ええ、そうですわね。では本日はこれにて失礼いたしますわ」
「馬車まで送りますよ」
「いえ、ここから待ち合わせの店に歩いて参りますわ」
「じゃあそこまで送ります」
「先生にはまだローズリー様のことは秘密にしておりますの。いずれ時が参りましたらご紹介しますわ。それではごきげんよう」



 イールズ商会について来られるのは流石にまずいと、ナミリアはなんとか逃げ切った。

「あの雰囲気で、よくお断りできましたね」
「だってこのままイールズ商会にローズリー様をお連れしたら、いろいろ勘ぐられそうだし。ミヒア様と事業のこと、婚約するまでは言わないように約束もしているし、必死だったわ。ちょっと挙動不審だったかしら?」
「いえ、冷静でいらっしゃいましたわ。見極めをすべき今はそれでよろしいのではありませんか」

 エーラがそう言ったので安心したナミリアは、念のために左右を見回してから、イールズ商会の扉に手をかけた。
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