闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

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第七章:反帝国組織セプテントリオン

カースについて

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 グレイスが好意で周りの能力を強化するのなら、カースは憤りや恨み、怒りなどの感情でその対象を弱体化させる。

 グレイスには危険な要素はないが、カースはそれらの感情が強くなりすぎると、やがて肉体にも変化を来し最悪の場合は魔物化してしまう者もいるという。

 ヴァージャのその簡単な説明を聞いて、さっき森の中で男二人をなじっていた無能たちは血の気が引いたように真っ青になっていた。そりゃそうだ、下手をすると魔物になってたかもしれないんだから。けど、そうなると息巻くのは、当のなじられていた男二人組だった。


「なにが、自分たちはグレイスだ、だよ! お前ら、結局ただ俺たちの足を引っ張ってたんじゃないか!」
「そうだそうだ、途端にデカい顔しやがって! お前らなんてなぁ、何の役にも立てない無能なんだよ!」
「おい、やめろよ。どっちもどっちだ、お互いに謝れ」


 そこで仲裁に入ったのはディーアだった。互いにディーアを間に挟んで睨み合うけど、そこはやっぱり副隊長。周りからの信頼は厚いらしい。どちらも制止を振り払うことはせずに黙り込んだ。納得とは程遠い顔をしてるけど。


「ヴァージャ様、カースがグレイスになることはできないのですか?」
「……可能だ、憤りなどの感情よりも信頼や好意を強く持つだけでいい。だが、その様子だと難しいだろう、まずは和解からだ。あまり相手を憎むと早くに魔物化するぞ、魔物になるのはカースと、そのカースに憎まれた対象両方だ」
「「げっ!?」」


 ヴァージャ様、なんて呼ばれて、やっぱりと言うかなんと言うか、ヴァージャは複雑な表情を滲ませた。ヘルムバラドに続き、ここでも「様」なんて言われるのが嫌なんだろう。けど、淡々と返る言葉を聞けば、いがみ合っていた連中は文字通り驚いたように目をひん剥いて、それ以上は何も言わなくなった。

 ……カースと、そのカースに憎まれた対象が魔物化する、かぁ。だから初めてエルを見た時、ヴァージャがあんなに気にかけてたわけだ。

 グレイスとカースの差って、とどのつまり感情の強さなんだな。
 恨み妬み憤りとかの感情が強ければ強いほど危険なカースになって、好意が強ければ強いほど優秀なグレイスってわけだ。けど、無能無能って今まで散々虐げられてきたわけだから、カースの気持ちもよくわかるんだよなぁ。だから責められないっていうかさ。


「……あの、ヴァージャ様。神さまにこんなことを窺うのは失礼かもしれませんが、拠点にできそうな場所をどこかご存知ないでしょうか?」


 いがみ合っていた二組が大人しくなったのを確認してから、ディーアが唐突にそんな言葉を向けてきた。その問いかけにオレもフィリアも目を丸くさせて一度顔を見合わせる。このアジト、結構いい環境だと思うんだけど、……なんか駄目なのかな。


「ここは野営や単純に住むだけなら問題はないのですが、平地続きなので帝国兵に包囲されたら防ぎようがなく、簡単に攻め込まれてしまうと隊長が気にしてたんです」
「ふむ……」


 考えてみれば、アジトって住むための場所じゃないもんな。いかにして自分たちの身を守って戦うかどうか、で考えるべきなんだ。こうしてる間にもし帝国兵が総力を挙げて突撃してきたら――多分生き残れない。

 森や小川はあるけど、兵の足止めに使えそうなものは何もなく辺りはただただ真っ平らな平原が広がってるだけ。見張りは楽だろうけど、障害物が何もないから進軍だって楽だ。理想的な場所は……辺りに障害物があったり高い山に囲まれた環境とかかな。


「その隊長がどういう環境を理想としているかにもよるが、ひとつ提供できそうな場所はある」
「ほ、本当ですか!? 隊長は今夜か明日には戻ってくると思うんですけど……結構あちこちフラフラする人みたいだから、いつ帰ってくるかわからないんですよ」


 どうやら隊長は不在らしい。隊長がそういうタイプだと、副隊長のディーアは色々と苦労してそうだなぁ。でもまあ、拠点の話は重要なことだからな。いくら副隊長とは言え、隊長の許可や判断もなく勝手に決められないのは頷ける。オレたちも船旅で疲れたところに街でのあの騒動だったからクタクタだ、すぐに次の行動に移らないでいいのは正直有難かった。

 フィリアも思うことは同じだったらしく、ホッとしたように小さな胸を撫で下ろしてからもっともな疑問をヴァージャに投げかけた。


「ヴァージャさん、提供できそうな場所って……? どこか、ありましたっけ?」
「ああ、……リーヴェ、隊長の話を聞いてからになるが一度スターブルまで戻るぞ」
「え、なんで?」


 スターブルっていうと……オレが暮らしてたあの小さな街だ。ミトラやアンたちに会えるのは嬉しいけど、なんで今頃あそこに戻る必要が……。


「お前と出会ったあの洞窟の奥にいいものがある。もう使うことはないだろうと地中深くに沈めたのだが、まだ引退させるには早かったらしい」
「いいもの……あんたがそういうってことは、どうせかなりヤバいブツなんだろ。わかったよ」


 ヴァージャがヤバいものを何の考えもなく使うようなやつじゃないことはもうわかってる。それがどういうものかはわからないけど、こういうふうに言うってことは今後必要になるんだろう。

 スターブルの近くの洞窟かぁ、あそこで竜化したヴァージャに突進されたことがキッカケで今こうなってるんだっけ。なんか懐かしいな、ミトラもアンも、みんな元気にしてるかな。

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