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第13章 2度目の学園生活
103 追憶の旅路-グラビスとの茶会
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私はお茶を一口飲んでどう返答すべきか考えた。
かつて貴族に対して言質をとってきたように、理詰めにして相手の選択肢を狭めることもできるだろう。元国王である彼が味方になってくれれば、公爵家を味方につけるのと同じくらい有利に働くはずだ。
けれど、グラビスに対しては誠実でありたいとも思えた。
だから私は理ではなく愛を伝えることにする。
「私はただ身分も何も関係なくコルネリアスを愛しているだけです。彼と一緒にいるうちに次第に惹かれるようになって恋を知りました。初めて知ったこの気持ちを終わらせるつもりはありませんし諦めるつもりもありません」
「経緯はどうあれコルネリアスとアスカルテは婚約している。過去にも身の程知らずが真実の愛を謳い婚約破棄を企てた者たちがいたが……破滅の一途を辿っている。お前たちも例外ではない」
「婚約破棄ならそうでしょうが正式な手続きを経て婚約解消すれば別でしょう?」
過去に両家あるいは両人の意思で婚約解消となって、他の人とすぐに婚約しなおした例はいくつも存在する。
大抵は、正しい手順を踏まずに結果を求めるから破滅するのだ。
「仮に二人が婚約を解消しコルネリアスとお前が婚約できたとして、平民で後ろ盾を持たないお前は、貴族からの支持を得られない。どんなに上手く事が運んだところでコルネリアスは他の貴族から妃を娶ることになる。お前は愛妾か、良くてお飾りの側妃として生きるか、コルネリアスと共に隠れて生きるか……最悪の場合は暗殺されることだってあり得る。誰も幸せになれない可能性が高いだろう」
グラビスは、きっと私のことを完全に否定すると思っていた。上級貴族出身の令嬢が嫁ぐという慣例を盾に、私を認めないはずと考えていたからだ。
けれど、グラビスの言葉はまるで私の身を案じているかのようにも思えた。
「全く認めてくれないと思ってました。心配してくれるとは意外ですね」
「コルネリアスが選び、アスカルテも認めている相手を無碍にすることもできないし、私にお前を判断する資格もないのだろう……だが、こんな過酷だと分かっている未来を認めることは到底できん」
「この選択が過酷で誰も幸せになれないと決まっていないはずです」
「夢を見るのは勝手だがな。失ってから気がつくのでは手遅れだ。コルネリアスには私と同じ轍を踏ませたくない」
グラビスの自嘲気味な言葉に、現在の私たちと過去のグラビスたちを重ねているような気がした。
「ティアラ様のことをおっしゃっているのですか?」
「コルネリアスにでも聞いたか?」
「彼からは何も。グラビス様の妃のお二人のうち、不幸があったのはティアラ様だけですから。けれど、あれは事故のようなものでしょう?」
ティアラが死んだ原因は、今も表向きはリーファスの出産となっているけれど、実際はバルトロスの画策によるものだった。
グラビスはもちろんのこと当時担当していた騎士や魔術士、侍女、医師など関わりのあった全員が異変に気づいていなかった。バルトロスの話を聞いて初めて真実を知ったくらいだ。
このような言い方はあまり好きではないが、仕方がないことだと思っている。
「知ったような口を。私が注意深く見ていれば防げたはずだったのだ……貴族の派閥やレティシアとティアラの関係、派閥外の敵対状況、それら全てが複雑に絡み合い正しい選択を見誤った。事故では済まされない」
「……ティアラ様とは政略結婚だったのではないですか?」
ラティアーナの頃、母ティアラとの思い出は僅かしかなく、幼い記憶とあって朧げな部分も多い。
けれど、和解した後でさえグラビスからティアラの話を聞いたこともなかった。ティアラの侍女頭でもあったイリスからは、二人は政略結婚だったと聞いている。
だから二人の関係は親しくはないものだと思っていた。
「恋情を抱いていたのはレティシアだけでティアラとは政略結婚だったが親友でもあった。婚約の話は貴族からの圧力に苦しむ私を助けるためにティアラが提案してくれたことだ」
静かに語るグラビスは、少し懐かしむような、悲しむような表情をしていた。このような顔をするグラビスを見るのは初めてだった。
「ティアラは貴族らしい考えを持っていなくてな。魔術の研究ができて家族に恵まれればそれで良いと言っていた。レティシアは正妃としての立場や私からの愛に固執していたが……それでもそれぞれの望みが異なっているからこそ、上手くいくと思っていた。そのはずだったのだ」
グラビスとしては、対外的にレティシアだけを妃として重用し、その子たちを王位継承者として扱うことで、妃間での派閥争いや異母兄弟での王位継承権を巡る争いを抑えるつもりだったらしい。
政治に興味がなかったティアラにはある程度の自由を与えたうえで、ティアラの子である私やリーファスを離宮で保護し、成人を機に臣籍降下させようと考えていたそうだ。
けれど、そこまで聞いた私は一つの疑問が浮かび上がった。
「国王陛下……リーファス様は、幼い頃にレティシア様の元に引き取られましたよね?争いを避けるために突き放したのに、どうして途中から王宮に迎え入れたのですか?」
「……教会は聖人、聖女となる者を探している。リーファスに高い魔力と適性があると判明したことで狙われることを恐れた私は教会が手を出さないように手元に置くことにした。そのせいで派閥争いは活発となり敵に隙をつかれて革命が起きてしまったがな」
「ですが革命によって大きな犠牲は出ることはなかったはずです。今の国王陛下もご壮健ですしコルネリアスからはコーネリア様やメリッサ様との仲もいいと聞いています」
「妃たちの仲が良くても次期王位を巡る争いは勝手に起こる。現に貴族たちは水面下で派閥争いを繰り広げている。コルネリアスとお前の動き次第では何が起きるかわからない。何より大きな犠牲はなかっただと!?あれがきっかけで私は王位を退きラティアーナが女王となった。それがなければラティアーナが死ぬことはなかった!私のせいで二人も大切な者を失ったのだ!」
グラビスは声を荒げて肩で息をしながら私に睨みつけるような視線を向けてきた。
かつて貴族に対して言質をとってきたように、理詰めにして相手の選択肢を狭めることもできるだろう。元国王である彼が味方になってくれれば、公爵家を味方につけるのと同じくらい有利に働くはずだ。
けれど、グラビスに対しては誠実でありたいとも思えた。
だから私は理ではなく愛を伝えることにする。
「私はただ身分も何も関係なくコルネリアスを愛しているだけです。彼と一緒にいるうちに次第に惹かれるようになって恋を知りました。初めて知ったこの気持ちを終わらせるつもりはありませんし諦めるつもりもありません」
「経緯はどうあれコルネリアスとアスカルテは婚約している。過去にも身の程知らずが真実の愛を謳い婚約破棄を企てた者たちがいたが……破滅の一途を辿っている。お前たちも例外ではない」
「婚約破棄ならそうでしょうが正式な手続きを経て婚約解消すれば別でしょう?」
過去に両家あるいは両人の意思で婚約解消となって、他の人とすぐに婚約しなおした例はいくつも存在する。
大抵は、正しい手順を踏まずに結果を求めるから破滅するのだ。
「仮に二人が婚約を解消しコルネリアスとお前が婚約できたとして、平民で後ろ盾を持たないお前は、貴族からの支持を得られない。どんなに上手く事が運んだところでコルネリアスは他の貴族から妃を娶ることになる。お前は愛妾か、良くてお飾りの側妃として生きるか、コルネリアスと共に隠れて生きるか……最悪の場合は暗殺されることだってあり得る。誰も幸せになれない可能性が高いだろう」
グラビスは、きっと私のことを完全に否定すると思っていた。上級貴族出身の令嬢が嫁ぐという慣例を盾に、私を認めないはずと考えていたからだ。
けれど、グラビスの言葉はまるで私の身を案じているかのようにも思えた。
「全く認めてくれないと思ってました。心配してくれるとは意外ですね」
「コルネリアスが選び、アスカルテも認めている相手を無碍にすることもできないし、私にお前を判断する資格もないのだろう……だが、こんな過酷だと分かっている未来を認めることは到底できん」
「この選択が過酷で誰も幸せになれないと決まっていないはずです」
「夢を見るのは勝手だがな。失ってから気がつくのでは手遅れだ。コルネリアスには私と同じ轍を踏ませたくない」
グラビスの自嘲気味な言葉に、現在の私たちと過去のグラビスたちを重ねているような気がした。
「ティアラ様のことをおっしゃっているのですか?」
「コルネリアスにでも聞いたか?」
「彼からは何も。グラビス様の妃のお二人のうち、不幸があったのはティアラ様だけですから。けれど、あれは事故のようなものでしょう?」
ティアラが死んだ原因は、今も表向きはリーファスの出産となっているけれど、実際はバルトロスの画策によるものだった。
グラビスはもちろんのこと当時担当していた騎士や魔術士、侍女、医師など関わりのあった全員が異変に気づいていなかった。バルトロスの話を聞いて初めて真実を知ったくらいだ。
このような言い方はあまり好きではないが、仕方がないことだと思っている。
「知ったような口を。私が注意深く見ていれば防げたはずだったのだ……貴族の派閥やレティシアとティアラの関係、派閥外の敵対状況、それら全てが複雑に絡み合い正しい選択を見誤った。事故では済まされない」
「……ティアラ様とは政略結婚だったのではないですか?」
ラティアーナの頃、母ティアラとの思い出は僅かしかなく、幼い記憶とあって朧げな部分も多い。
けれど、和解した後でさえグラビスからティアラの話を聞いたこともなかった。ティアラの侍女頭でもあったイリスからは、二人は政略結婚だったと聞いている。
だから二人の関係は親しくはないものだと思っていた。
「恋情を抱いていたのはレティシアだけでティアラとは政略結婚だったが親友でもあった。婚約の話は貴族からの圧力に苦しむ私を助けるためにティアラが提案してくれたことだ」
静かに語るグラビスは、少し懐かしむような、悲しむような表情をしていた。このような顔をするグラビスを見るのは初めてだった。
「ティアラは貴族らしい考えを持っていなくてな。魔術の研究ができて家族に恵まれればそれで良いと言っていた。レティシアは正妃としての立場や私からの愛に固執していたが……それでもそれぞれの望みが異なっているからこそ、上手くいくと思っていた。そのはずだったのだ」
グラビスとしては、対外的にレティシアだけを妃として重用し、その子たちを王位継承者として扱うことで、妃間での派閥争いや異母兄弟での王位継承権を巡る争いを抑えるつもりだったらしい。
政治に興味がなかったティアラにはある程度の自由を与えたうえで、ティアラの子である私やリーファスを離宮で保護し、成人を機に臣籍降下させようと考えていたそうだ。
けれど、そこまで聞いた私は一つの疑問が浮かび上がった。
「国王陛下……リーファス様は、幼い頃にレティシア様の元に引き取られましたよね?争いを避けるために突き放したのに、どうして途中から王宮に迎え入れたのですか?」
「……教会は聖人、聖女となる者を探している。リーファスに高い魔力と適性があると判明したことで狙われることを恐れた私は教会が手を出さないように手元に置くことにした。そのせいで派閥争いは活発となり敵に隙をつかれて革命が起きてしまったがな」
「ですが革命によって大きな犠牲は出ることはなかったはずです。今の国王陛下もご壮健ですしコルネリアスからはコーネリア様やメリッサ様との仲もいいと聞いています」
「妃たちの仲が良くても次期王位を巡る争いは勝手に起こる。現に貴族たちは水面下で派閥争いを繰り広げている。コルネリアスとお前の動き次第では何が起きるかわからない。何より大きな犠牲はなかっただと!?あれがきっかけで私は王位を退きラティアーナが女王となった。それがなければラティアーナが死ぬことはなかった!私のせいで二人も大切な者を失ったのだ!」
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