68 / 494
第3章 エスペルト王国の動乱
22 同盟の模索
しおりを挟むグランバルド帝国と停戦状態になってからしばらく経った。
その間にも建国祭とお披露目を迎えた。対帝国戦では、王国軍の旗頭になっていたこともあり、今までよりも王女として社交する機会が増えた。
とはいえ、国境の情勢が不安定なことで国軍だけで守ることが難しくなり、徐々に地方領主の力が増大し王族の権威が落ちつつある。
今の貴族派閥は、レティシア派が主力だが辺境の領主たちによる派閥がいくつかできていて、レティシア派に次ぐ規模になりつつあった。
その中で、11歳になったばかりの私は、お父様から王城に呼ばれていた。
玉座の間に入ると、お父様と最近よく耳にする顧問の2人がいた。
「よく来てくれた。ラティアーナに頼みがあってな…我が国は、北の大陸との同盟を模索したいと考えている。たが他国には、特にグランバルド帝国には知られたくはない。そこで、ラティアーナにはこっそりと北の大陸に渡り、この書状を渡してもらいたい。バルトロス、説明を。」
「はい。ラティアーナ王女殿下には、海路にて一度東の大陸に渡り、北の大陸を目指してもらいます。辿り着くまでに最短でも半年かかるでしょうが、グランバルド帝国やアルカディア王国の中を縦断するわけにはいきませんから。ラティアーナ王女殿下には、書状と王国とやりとりするための、通信用魔術具を渡してもらいたいのです。」
お父様とバルトロスから、今回の件について説明を受ける。
「1つ質問ですが…いくら隠密行動とはいえ、使者を出せば良いのでは?わたくしが直接参ることの利が見えません。」
「使者では、こちらの本気が見えませんからな。王族が行くことに意味があるのです。それに、ガイアス第1王子は今、南の国境に出向いてますし、ギルベルト第2王子はまだ学生です。その点、あなたであればまだ学園に通っていませんし問題ないでしょう?」
(確かに筋は通ってるわね。けれどなにか…棘があるというか嫌な感じがするわ。バルトロスも顧問として雇われて以降、かなり政治に絡むようになってきてるのよね。有能そうだけど胡散臭いわ。)
最近社交で貴族たちと会っても城の中にいても、全体的にピリピリしている。国境の不安定さが1番だろうが、注意が必要だろう。
「かしこまりました。準備ができ次第、すぐ出発しますわ。護衛として近衛を連れて行きますが、構いませんよね?」
「ああ、問題ない。その辺りは任せる。」
王城から離宮に戻ると、イリスとリーナ、シリウス、アルキオネを呼んで計画を立てることにした。まずは、お父様に呼ばれた件を簡単に説明する。
「北の大陸ですか?」
「ええ、同盟を結べないかどうか、書簡を渡すためにね。直接は行けないから、東の大陸に渡ってから陸路で向かうわ。」
この国のある大陸と、東あるいは北の大陸は海を挟んでいる。ただ東と北の大陸の間は、巨大な川に挟まれているだけなため船を使わずに渡すことが可能らしい。
また、海には通常の海流とは別に、魔力の流れというものが存在する。水棲の魔物は魔力が濃いところを好むため、魔力が少ないところを船で通るのが一般的だ。
因みに船については、木製の帆船が通常使われている。帆によって進むが、緊急用の魔力動力も備え付けてあるため、風がなくても多少は動くことが可能だ。
金属製の船も存在するが、こちらは魔力炉による動力のみで動く船になるため、飛空船と同様に数が少なく国が所有するだけだ。
「東の大陸から北の大陸となると、海沿いを通る場合は、火山地帯や凍土地帯を抜けることになります。一般の方にはでは移動できないため、内陸から砂漠を通るらしいです。」
シリウスは、子爵家当主になったときに歴代当主の日記を読んだらしい。シリウスの祖父、2代前の当主が若い頃に旅をしていて、日記に旅の記録が書いてあったようだ。
「あまり時間はかけたくないわ。次の年の建国祭か遅くても、リーファスのお披露目までには戻りたいと思ってるの。過酷になるかもしれないけど、わたくしとシリウス、アルキオネの3人なら可能じゃないかしら?」
「…そうですね。本来であれば、リーナのような侍女も付けたいところですが、その道だと恐らく耐えられないでしょう。その点3人であれば可能かとは思います。魔物に関しても…わたくしやシリウスお兄様が、頑張ればいいだけです。」
「そうですね。姫様なら問題ないでしょうし、むしろ私とアルキオネが足を引っ張らないようにしないといけませんね。」
2人の同意を得て、イリスとリーナにもお願いをしておく。
「わたくしが外に出ている間、ここのことはお任せします。近衛隊の指揮権もあなたたちに渡しておくから。」
準備に時間がかかるため、王都を出発するのは3日後となる。私たちは、準備や引き継ぎのために忙しい時間を過ごしていく。
そのころの王城では、バルトロスが国王と話をして別れたところだった。
(この王国は、世界にとって重要な場所になりますからね…帝国などに滅ぼされては困ります。とはいえ私の願いのために、ラティアーナ王女殿下は邪魔になりそうですね。いずれは、消えてもらいましょうか。)
口元に笑みを浮かべながら、王城の廊下を歩いていく。
7
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる
盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです
もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。
この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ
知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ
しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる