王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
67 / 494
第3章 エスペルト王国の動乱

21 停戦と周辺国の動向

しおりを挟む
帝国軍は、将軍と両腕と称される騎士が捕まったことにより、壊滅し帝国領へ敗走していた。もともと、軍団魔術によって大打撃を受けたときに、兵士たちの中で恐怖が広がり逃げ腰になっていて、軍の最強戦力の敗北とともに心が折れたようだった。

王国軍としても、余力などはなかったため逃げたものは追わずに見逃した形だ。特にラティアーナとアドリアス、シリウス、アルキオネの4名は消耗が激しく戦い続けるのは困難だろう。



私は仰向けになって空を見ている。魔力の循環の影響で、外傷よりも体内のダメージが大きかった。回復魔術で治療しても体内の傷は治りにくいため、普段の生活くらいなら支障はないが、数日は魔力の使用を控えたい所だ。

「辛うじて勝ちましたわね…」

「ああ、危なかったが俺たちの勝ちだな。」

アドリアスと横になりながら話していると、シリウスたちとシクスタス司令官が近づいてくるのが見えた。

「姫様とアドリアス様、ご無事ですか?」

「力を使い果たしたから少し動けないけど大丈夫よ。」

「俺ももう少し休めば問題ない。」

少し休んでいると、魔術士団がやってきて私たちに回復魔術をかけてくれる。完全回復まではいかないものの、外傷が治り魔力も回復してきて動けるようになってきた。

「ラティアーナ王女殿下、アドリアス様、シリウス様、アルキオネ様お疲れ様でした。事後処理は私が行いますので、どうぞお休みください。」

後処理は、シクスタス司令官に任せて私たちは先に街に戻ることになった。お父様への報告は、私が行う必要があるが明日行えば問題ない。宿舎に戻ると限界を迎えたようで、私たちはそのまま眠りについた。





翌日、王国軍も全て街まで撤退が完了した。
そして、今私がいる広場には、戦死した兵士たちの遺品が並べられていた。今回の戦いで生き残った兵士は、約2600人。400名余りが亡くなったことになる。

(全体を見れば想定よりもいい状況だけど…犠牲が出たことには変わりない。私は王族といっても所詮はただの人。味方全てを守れるとは思わない。だからこそ…せめて犠牲になった人の事は、忘れずに心に留めておくわ。私には、それくらいしかできないのだから…)

広場を眺めていると、後ろからシクスタス司令官がやってきた。

「これは、ラティアーナ王女殿下。…あまりご自身を責められないほうがいい。こういってはなんですが…国として全体を見る以上、犠牲は必ず出ます。ましてや、今回のように攻めてきた相手との戦いは、避けることが難しいです。今回においては、こちらが全滅する危険性すらあったのです。最良の結果とは言えるでしょう。」

「…ええ、わたくしも理解はしています。ただそれでも、もう少し違う結末があったのではと…思ってしまうのです。」




その後、私はお父様への報告のため領城へ行き、通信用魔術具で報告を行う。

「…以上が、今回の戦いの全てになります。」

「うむ。ご苦労であった。帝国もこれだけの犠牲を払っては、しばらく攻めてこないだろう。念のためシクスタスには、セプテンリオに居てもらうが王族としての務めはここまでで良い。」

「かしこまりました。」

報告が終わり通信を切る。
王国軍はこのままセプテンリオに滞在するものの、帝国とは実質停戦状態になった。



数日後の王城にて、国王と元帥、辺境の領主を集めた護国会議が開かれた。
帝国との戦争の間、南部の方でも小競り合いが起きていてマギルス公爵領でも戦いが起きていた。それらについても報告が行われた。

「このままでは、不味いのではありませんか?南のドラコロニア共和国とエインクレイス連邦は、敵対関係でも有効を築いているわけではありません。現に帝国の動きにかこつけて、共和国と小競り合いがおきましたし…北のグランバルド帝国とは停戦状態。アルカディア王国も強大な軍事国家として君臨しています。西方連合国家群も友好国ではありますが、軍事的な支援は期待できないでしょう。」

「ああ、わかっている。そのため我が王国は、北のち海を挟んだ大陸にある国家と同盟を結ばないかと考えている。」

国王の言葉に周りがざわめいた。海を挟んだ北の大陸にも、幾つもの国家が存在する。特に大陸南側の国家は、帝国とも海上で争いが度々起こっていた。

「実は、最近雇った顧問がいてな。入ってくれ。」

すると、1人の男が部屋の中に入る。全身黒ずくめで痩せているが妙な威圧感のある男だ。

「紹介に預かりました、バルトロスと申します。今回、私が提案するのは、帝国を共通の敵として同盟を結ぶというものです。海を挟んではいますが、我が国以外で帝国との戦争に苦しんでいるのは北の大陸くらいでしょう。十分可能かと思いますよ。」

その後、細かいところを会議で詰めて、お開きとなった。

今回の出来事は、王国に小さなひびが入ったようなものだ。けれど、一度入ったひびが、なかなか直せないように、直ったとしても脆くなるように徐々に響いていく。これは王国の動乱の序章に過ぎないが、まだ誰も知る由はない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...