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第7章 女王の戴冠
15 国外への実践演習
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入学式が終わってしばらく経った頃、今年の演習について私と学園長、アイリスの3人で集まって話していた。
「国外での実習ですか?」
「はい、2学年の実践演習として西方連合国家群へ向かうというのが毎年の恒例になっています。この大陸で中立を宣言しているあの国は、比較的安定していますから…今回お伺いしたいのは、参加するかどうかと参加する場合は諸々についてです」
学園長の説明を詳しく聞くと、国外実習は魔物なども含めて危険度が相当高いため、クラス単位で行われて多数の教員が同行するそうだ。
日程は移動に15日、西方連合国家群に10日滞在となり、合わせて約1月半となるらしい。
「この実習の意義は王侯貴族として国外の見聞を広げるというものです。ですが…陛下が実習で国外へ向かうというのもどうかという考えもありますので、お伺いしたいと思いました」
学園長の言葉を受けて少しだけ考えるが、特に問題ないと結論つけた。西方連合国家群については、エスペルト王国とも交流のある国であるし治安も安定している。私も今までに2度訪れているため、地の利があることも理由の一つだ。
「わたくしは行っても問題ないと思うわ。政務についてはニコラウスとドミニクがいればなんとかなるでしょうし、通信があるので国外からでも指示は出せます。それに緊急事態であれば転移を使えば問題ないはずよ」
「わかりました。そのように進めましょう。アイリス先生、サポートお願いしますね」
「ええ、お任せを」
今年の実習について話が一段落したところで、私も話を切り出すことにした。
「実は、お2人に相談があるのですが…先日ローザリンデの馬車が襲われたのです」
と前置きしてからローザリンデが襲われた時のおおよそを伝えた。
話を一通り聞いた2人は、難しそうな顔をして悩む素振りを見せていた。
「なるほど…去年のこともありますし学園でも警戒が必要ですね」
「ええ、去年の演習は後手に回ってしまいました。次に同じことをするわけにはいきませんね」
「ええ、ただ問題は敵がどこに潜んでいるか分からないことです。学園都市へ移動する道にあらかじめ仕掛けがされてました。」
王都から学園都市へ行く道は数通りしかないとはいえ、あそこまで狙い撃ちできるのはいささか妙だった。
エドガーが事前に察知できていたことからも計画的であることは確定だが、どうもこちらの情報が筒抜けになっている可能性が高い。
「つまり陛下は…学園内に敵が潜んでいる可能性があると?」
学園長の問いかけに頷いて
「あるいは王城か…両方という可能性も」
と口にする。私の言葉にアイリスは「想像以上に悪い状況かも知れませんね」と呟いた。
学園長も深く考え込むと
「なるほど…で、陛下の相談とは学園内を調べて欲しいとのことですか?」
と聞いてきた。
「大雑把に言うとそうなります。ですが敵味方がはっきりしていない状況で下手に探して逃げられたくないですね。なので、ここだけの話にとどめておいて、一部の情報を学園内で共有してください」
私の意図に2人は気付いたようで、快く了承してくれた。共有しておいて欲しい情報を伝えると、私は準備のために王城に戻ることにした。
王城ではニコラウスとドミニクを呼び出すと、私が1月半近く城を空けることを伝えた。
「かしこまりました。ラティアーナ陛下が不在の間、元帥としてグラディウス公爵家当主として必ず守ります」
「政務についても急ぎで進めていたものは目処がついてますから大丈夫でしょう。お任せください」
「2人ともありがとう。念のためこの魔術具を渡しておくわ」
私が2人に魔術具を手渡しすると不思議そうな顔をしていた。
「これは…通信用の魔術具ですか?」
ニコラウスが渡された意味が分からそうにしていた。それもそのはずで大臣など主要な貴族には、あらかじめ私に直接つながる魔術具を渡しているからだ。
しかし、今回渡した魔術具はただの通信用ではなかった。
「これはわたくしとイベリス、イリーナの3人で作った魔術具よ。今までの魔術具より秘匿性が高いわ」
今までの通信魔術はただ音声を魔力に変換しているだけだが、新しい通信魔術は音声を暗号化して魔力に変換している。傍受されたとしても内容までは知られないはずだ。
「ローザリンデが狙われている件だけど、王城内にも敵が潜んでいる可能性があるわ。通信が傍受されているかも知れないから情報の機密度に合わせて使い分けましょうか。わたくしが長い間、国外にあれば敵も動くはず。ここで叩いておくわよ?」
正体が掴めない敵にやられっぱなしというのは、性に合わない。もうそろそろ片をつける頃合いだろう。
ニコラウスとドミニクともじっくりと話し合い、策を練るのだった。
数日後、西方連合国家群への出発の日がやってくる。
学園には馬車が複数停まっていて、同行する教員も集まっていた。
「それでは、皆さん準備はいいですか?最終確認ですが移動は馬車で行います。エスペルト王国内は主要街路を通るので危険性は低いと思いますが、国外に出ると魔物の遭遇が相次ぐと思いますので注意が必要ですね。教員も戦いますが皆さんにも交代で戦っていただきます」
アイリスの確認を聞いた後はそれぞれの馬車に乗り込んだ。私と一緒になるのはカトレアとロアだ。
「2人ともよろしくね」
「こちらこそ」
「よろしくお願いします」
私たちを乗せた馬車は、ついに動き出した。
「国外での実習ですか?」
「はい、2学年の実践演習として西方連合国家群へ向かうというのが毎年の恒例になっています。この大陸で中立を宣言しているあの国は、比較的安定していますから…今回お伺いしたいのは、参加するかどうかと参加する場合は諸々についてです」
学園長の説明を詳しく聞くと、国外実習は魔物なども含めて危険度が相当高いため、クラス単位で行われて多数の教員が同行するそうだ。
日程は移動に15日、西方連合国家群に10日滞在となり、合わせて約1月半となるらしい。
「この実習の意義は王侯貴族として国外の見聞を広げるというものです。ですが…陛下が実習で国外へ向かうというのもどうかという考えもありますので、お伺いしたいと思いました」
学園長の言葉を受けて少しだけ考えるが、特に問題ないと結論つけた。西方連合国家群については、エスペルト王国とも交流のある国であるし治安も安定している。私も今までに2度訪れているため、地の利があることも理由の一つだ。
「わたくしは行っても問題ないと思うわ。政務についてはニコラウスとドミニクがいればなんとかなるでしょうし、通信があるので国外からでも指示は出せます。それに緊急事態であれば転移を使えば問題ないはずよ」
「わかりました。そのように進めましょう。アイリス先生、サポートお願いしますね」
「ええ、お任せを」
今年の実習について話が一段落したところで、私も話を切り出すことにした。
「実は、お2人に相談があるのですが…先日ローザリンデの馬車が襲われたのです」
と前置きしてからローザリンデが襲われた時のおおよそを伝えた。
話を一通り聞いた2人は、難しそうな顔をして悩む素振りを見せていた。
「なるほど…去年のこともありますし学園でも警戒が必要ですね」
「ええ、去年の演習は後手に回ってしまいました。次に同じことをするわけにはいきませんね」
「ええ、ただ問題は敵がどこに潜んでいるか分からないことです。学園都市へ移動する道にあらかじめ仕掛けがされてました。」
王都から学園都市へ行く道は数通りしかないとはいえ、あそこまで狙い撃ちできるのはいささか妙だった。
エドガーが事前に察知できていたことからも計画的であることは確定だが、どうもこちらの情報が筒抜けになっている可能性が高い。
「つまり陛下は…学園内に敵が潜んでいる可能性があると?」
学園長の問いかけに頷いて
「あるいは王城か…両方という可能性も」
と口にする。私の言葉にアイリスは「想像以上に悪い状況かも知れませんね」と呟いた。
学園長も深く考え込むと
「なるほど…で、陛下の相談とは学園内を調べて欲しいとのことですか?」
と聞いてきた。
「大雑把に言うとそうなります。ですが敵味方がはっきりしていない状況で下手に探して逃げられたくないですね。なので、ここだけの話にとどめておいて、一部の情報を学園内で共有してください」
私の意図に2人は気付いたようで、快く了承してくれた。共有しておいて欲しい情報を伝えると、私は準備のために王城に戻ることにした。
王城ではニコラウスとドミニクを呼び出すと、私が1月半近く城を空けることを伝えた。
「かしこまりました。ラティアーナ陛下が不在の間、元帥としてグラディウス公爵家当主として必ず守ります」
「政務についても急ぎで進めていたものは目処がついてますから大丈夫でしょう。お任せください」
「2人ともありがとう。念のためこの魔術具を渡しておくわ」
私が2人に魔術具を手渡しすると不思議そうな顔をしていた。
「これは…通信用の魔術具ですか?」
ニコラウスが渡された意味が分からそうにしていた。それもそのはずで大臣など主要な貴族には、あらかじめ私に直接つながる魔術具を渡しているからだ。
しかし、今回渡した魔術具はただの通信用ではなかった。
「これはわたくしとイベリス、イリーナの3人で作った魔術具よ。今までの魔術具より秘匿性が高いわ」
今までの通信魔術はただ音声を魔力に変換しているだけだが、新しい通信魔術は音声を暗号化して魔力に変換している。傍受されたとしても内容までは知られないはずだ。
「ローザリンデが狙われている件だけど、王城内にも敵が潜んでいる可能性があるわ。通信が傍受されているかも知れないから情報の機密度に合わせて使い分けましょうか。わたくしが長い間、国外にあれば敵も動くはず。ここで叩いておくわよ?」
正体が掴めない敵にやられっぱなしというのは、性に合わない。もうそろそろ片をつける頃合いだろう。
ニコラウスとドミニクともじっくりと話し合い、策を練るのだった。
数日後、西方連合国家群への出発の日がやってくる。
学園には馬車が複数停まっていて、同行する教員も集まっていた。
「それでは、皆さん準備はいいですか?最終確認ですが移動は馬車で行います。エスペルト王国内は主要街路を通るので危険性は低いと思いますが、国外に出ると魔物の遭遇が相次ぐと思いますので注意が必要ですね。教員も戦いますが皆さんにも交代で戦っていただきます」
アイリスの確認を聞いた後はそれぞれの馬車に乗り込んだ。私と一緒になるのはカトレアとロアだ。
「2人ともよろしくね」
「こちらこそ」
「よろしくお願いします」
私たちを乗せた馬車は、ついに動き出した。
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