王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
163 / 494
第7章 女王の戴冠

15 国外への実践演習

しおりを挟む
 入学式が終わってしばらく経った頃、今年の演習について私と学園長、アイリスの3人で集まって話していた。

「国外での実習ですか?」

「はい、2学年の実践演習として西方連合国家群へ向かうというのが毎年の恒例になっています。この大陸で中立を宣言しているあの国は、比較的安定していますから…今回お伺いしたいのは、参加するかどうかと参加する場合は諸々についてです」

 学園長の説明を詳しく聞くと、国外実習は魔物なども含めて危険度が相当高いため、クラス単位で行われて多数の教員が同行するそうだ。
 日程は移動に15日、西方連合国家群に10日滞在となり、合わせて約1月半となるらしい。

「この実習の意義は王侯貴族として国外の見聞を広げるというものです。ですが…陛下が実習で国外へ向かうというのもどうかという考えもありますので、お伺いしたいと思いました」

 学園長の言葉を受けて少しだけ考えるが、特に問題ないと結論つけた。西方連合国家群については、エスペルト王国とも交流のある国であるし治安も安定している。私も今までに2度訪れているため、地の利があることも理由の一つだ。

「わたくしは行っても問題ないと思うわ。政務についてはニコラウスとドミニクがいればなんとかなるでしょうし、通信があるので国外からでも指示は出せます。それに緊急事態であれば転移を使えば問題ないはずよ」

「わかりました。そのように進めましょう。アイリス先生、サポートお願いしますね」

「ええ、お任せを」

 今年の実習について話が一段落したところで、私も話を切り出すことにした。

「実は、お2人に相談があるのですが…先日ローザリンデの馬車が襲われたのです」

 と前置きしてからローザリンデが襲われた時のおおよそを伝えた。
 話を一通り聞いた2人は、難しそうな顔をして悩む素振りを見せていた。

「なるほど…去年のこともありますし学園でも警戒が必要ですね」

「ええ、去年の演習は後手に回ってしまいました。次に同じことをするわけにはいきませんね」

「ええ、ただ問題は敵がどこに潜んでいるか分からないことです。学園都市へ移動する道にあらかじめ仕掛けがされてました。」

 王都から学園都市へ行く道は数通りしかないとはいえ、あそこまで狙い撃ちできるのはいささか妙だった。
 エドガーが事前に察知できていたことからも計画的であることは確定だが、どうもこちらの情報が筒抜けになっている可能性が高い。

「つまり陛下は…学園内に敵が潜んでいる可能性があると?」

 学園長の問いかけに頷いて

「あるいは王城か…両方という可能性も」

 と口にする。私の言葉にアイリスは「想像以上に悪い状況かも知れませんね」と呟いた。
 学園長も深く考え込むと

「なるほど…で、陛下の相談とは学園内を調べて欲しいとのことですか?」

 と聞いてきた。

「大雑把に言うとそうなります。ですが敵味方がはっきりしていない状況で下手に探して逃げられたくないですね。なので、ここだけの話にとどめておいて、一部の情報を学園内で共有してください」

 私の意図に2人は気付いたようで、快く了承してくれた。共有しておいて欲しい情報を伝えると、私は準備のために王城に戻ることにした。


 王城ではニコラウスとドミニクを呼び出すと、私が1月半近く城を空けることを伝えた。

「かしこまりました。ラティアーナ陛下が不在の間、元帥としてグラディウス公爵家当主として必ず守ります」

「政務についても急ぎで進めていたものは目処がついてますから大丈夫でしょう。お任せください」

「2人ともありがとう。念のためこの魔術具を渡しておくわ」

 私が2人に魔術具を手渡しすると不思議そうな顔をしていた。

「これは…通信用の魔術具ですか?」

 ニコラウスが渡された意味が分からそうにしていた。それもそのはずで大臣など主要な貴族には、あらかじめ私に直接つながる魔術具を渡しているからだ。
 しかし、今回渡した魔術具はただの通信用ではなかった。

「これはわたくしとイベリス、イリーナの3人で作った魔術具よ。今までの魔術具より秘匿性が高いわ」

 今までの通信魔術はただ音声を魔力に変換しているだけだが、新しい通信魔術は音声を暗号化して魔力に変換している。傍受されたとしても内容までは知られないはずだ。

「ローザリンデが狙われている件だけど、王城内にも敵が潜んでいる可能性があるわ。通信が傍受されているかも知れないから情報の機密度に合わせて使い分けましょうか。わたくしが長い間、国外にあれば敵も動くはず。ここで叩いておくわよ?」

 正体が掴めない敵にやられっぱなしというのは、性に合わない。もうそろそろ片をつける頃合いだろう。
 ニコラウスとドミニクともじっくりと話し合い、策を練るのだった。



 数日後、西方連合国家群への出発の日がやってくる。
 学園には馬車が複数停まっていて、同行する教員も集まっていた。

「それでは、皆さん準備はいいですか?最終確認ですが移動は馬車で行います。エスペルト王国内は主要街路を通るので危険性は低いと思いますが、国外に出ると魔物の遭遇が相次ぐと思いますので注意が必要ですね。教員も戦いますが皆さんにも交代で戦っていただきます」

 アイリスの確認を聞いた後はそれぞれの馬車に乗り込んだ。私と一緒になるのはカトレアとロアだ。

「2人ともよろしくね」

「こちらこそ」

「よろしくお願いします」

 私たちを乗せた馬車は、ついに動き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

コンバット

サクラ近衛将監
ファンタジー
 藤堂 忍は、10歳の頃に難病に指定されているALS(amyotrophic lateral sclerosis:筋萎縮性側索硬化症)を発症した。  ALSは発症してから平均3年半で死に至るが、遅いケースでは10年以上にわたり闘病する場合もある。  忍は、不屈の闘志で最後まで運命に抗った。  担当医師の見立てでは、精々5年以内という余命期間を大幅に延長し、12年間の壮絶な闘病生活の果てについに力尽きて亡くなった。  その陰で家族の献身的な助力があったことは間違いないが、何よりも忍自身の生きようとする意志の力が大いに働いていたのである。  その超人的な精神の強靭さゆえに忍の生き様は、天上界の神々の心も揺り動かしていた。  かくして天上界でも類稀な神々の総意に依り、忍の魂は異なる世界への転生という形で蘇ることが許されたのである。  この物語は、地球世界に生を受けながらも、その生を満喫できないまま死に至った一人の若い女性の魂が、神々の助力により異世界で新たな生を受け、神々の加護を受けつつ新たな人生を歩む姿を描いたものである。  しかしながら、神々の意向とは裏腹に、転生した魂は、新たな闘いの場に身を投じることになった。  この物語は「カクヨム様」にも同時投稿します。  一応不定期なのですが、土曜の午後8時に投稿するよう努力いたします。

見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平
ファンタジー
新米動物看護師の飯野あかりは、車にひかれそうになった猫を助けて死んでしまう。異世界に転生したあかりは、動物とお話ができる力を授かった。動物とお話ができる力で霊獣やドラゴンを助けてお友達になり、冒険の旅に出た。ハンサムだけど弱虫な勇者アスランと、カッコいいけどうさん臭い魔法使いグリフも仲間に加わり旅を続ける。小説家になろうさまにもあげています。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

処理中です...