162 / 494
第7章 女王の戴冠
14 ローザリンデの入寮
しおりを挟む
お披露目を終えた私は、気持ちを切り替えて日々を過ごしていく。
大臣たちに任せている改革を確認して、時には意見を出してエスペルト王国の内側をより強固なものへとするつもりだ。
次の策を思案しているとノックする音が聞こえてきた。
「ラティアーナ陛下失礼します。エドガー様より機密文書が届きました」
「ありがとう」
文書を受け取りつつも、考えていることをニコラウスにも伝えておくべきかと思い口を開いた。
「今後の政策なのだけど、エスペルト王国の全都市、できる限りの集落の衛生状態を改善したいわ。それと孤児やスラムにいるような人々を上手く使いたいのよね」
「衛生状態ですか?他国と比べても十分高水準だと思いますが…?」
エスペルト王国だけでなく他の国にも言えることだが、基本的には所々に設置されている集水用の魔術具を使って水を得ている。貴族であればお風呂に温水を使えて湯船などもあるが、一般的には水浴びだけだ。
「そうね…けれどもう少しあげれば病気による死亡率を下げることができるわ。今大臣たちに任せていることが軌道に乗れば食糧も増えるから、人口が増えても問題ないはずよ。そのためにも水をもっと利用しやすくして、温水の利用もできるようにしたいわ」
「水だけでなく温水もですか?自動集束型の魔術具では魔力が足りなさそうですが…人の手を加えれば可能かも知れませんね」
私はニコラウスのその言葉を待っていたといわんばかりに、笑みを浮かべると「それなのよ!」と言った。
「平民も魔力は皆持っているわ。平民向けの仕事として魔術具の運用管理を行うようにすれば、雇用も増えて魔術具も運用できるようになると思うの」
どうかしら、と目線を向けるとニコラウスは顎に手を当てながら考えているようだった。
「調整は必要ですが…可能だと思います」
「細かい部分は任せるわ。頼んだわよ」
私の言葉にニコラウスは「かしこまりました」と言って準備に取り掛かった。
それから普段の業務を行っていると、王立学園の入学式の時期となる。そしてローザリンデが入学してくる年でもあった。
「ローザリンデはいるかしら?」
「ただいまお呼びしてきます」
ローザリンデが寮へ向かう日の朝、私は離宮を訪れていた。
「お姉様どうされたのですか?」
「今日、学園へ向かうでしょ?わたくしも一緒に行こうかと思って」
「まぁ!是非お願いしますわ」
馬車には私とローザリンデのみが乗り込むと、馬車の周囲を近衛騎士たちが囲むように守る。
ローザリンデが周りをみて不思議そうな顔で
「お姉様直属の騎士は付けないのですか?」
と呟くが「シリウスたちには別件を任せているから」と答える。
学園への道は順調に進んでいて、他愛もない話をしながら外を眺めている。
ちょっとした山道に入って少ししたとき、馬車を揺れが襲った。
「きゃっ!?」
馬の嘶きが聞こえて馬車が外側に傾く。同時に馬車から木が折れたような音が聞こえると、衝撃に揺られ馬車は崖の下に転がり落ちる。
同時に爆発するような音が聞こえて、巨大な岩石群が降り注いでくるのが見えた。
ローザリンデを抱きかかえていると手の中でもぞもぞと動いているのが分かる。
「ローザリンデ大丈夫?痛いとことはない?」
「ええ、大丈夫ですが…一体何が?」
「馬が狙われて馬車の車輪が壊れて崖下に転落して…土砂の下敷きになったようね。ローザリンデには黙っていたけど、狙われるかも知れないって情報が入ったのよ。賊が来るかも知れないと思っていたけれど、こういう手段もあるのね」
私が関心しながら呟くと「それで一緒に馬車に乗られたのですね」と口にしていた。
ローザリンデが狙われるかも知れないという情報はエドガーから渡された文書に記載されていたものだ。精度としては低く可能性がある程度だったが、同行することにして良かっただろう。
「それにしても、瓦礫に押しつぶされているのになんともないような?」
「この馬車は特注品よ?最近作ってもらった合金で作った軽量かつ高硬度を誇る一品。防御魔術を刻んであるから、そう簡単には壊されないの。コンセプトは上級魔術が直撃しても象に踏まれても壊れない…ってところね」
「それはまた…すごいですね」
今までの馬車は魔術による防御に頼りきりだったが、この馬車は物理、魔術共に頑丈にしてある。
例えるなら強力な装甲車と言えるだろう。
「もうそろそろ出られそうね」
私はそう呟くと、ローザリンデが首をかしげているが、濃密な魔力を感じた瞬間、瓦礫が浮かび上がっていくのが見えた。
近衛騎士たちは瓦礫を取り除くと扉を開けて
「お二人をお守りできず申し訳ございません」
と謝る。
ローザリンデは私に視線を向けて来て、私が頷くとローザリンデは「わたくしたちは無事です。助けてくれてありがとう」と言葉にした。
「襲撃者はどうなったの?」
「見つけることができませんでした。恐らく馬に毒矢を放った後、遠くへ離れたのかもしれません」
騎士達は申し訳なさそうに報告を告げてきた。
魔術による攻撃であれば魔力を感知するため、距離がある状態でも気付くことができる。しかし、矢のように物理的なものは視界に入るまでは察知することが難しい。
その時視界の端が光った気がした。同時に騎士が剣を振るうと、甲高い音がする。
「お二人とも我々の後ろにいてください!」
私は身体強化で視力を上げて射線を追ったが、敵の姿を捉えることができなかった。
「駄目ね。攻撃した相手を追えなかったわ。狙いはローザリンデのようだけど…なんでかしらね」
「このまま立ち止まるのは危なそうですね。急いで学園まで移動しましょう。馬車を急いで立て直すので少々お待ちを」
「護衛はローザリンデを中心につけなさい。わたくしに人数を裂かなくていいわよ」
私はそれだけ告げると傍で倒れている馬の元に向かう。馬の体に手を当てて治癒魔術をかけながら周りを警戒するが、それからは特に何もなかった。
その後も敵からの攻撃はなく、馬車を立て直して学園へ向かう。半日ほど遅れたが無事に学園都市に辿り着くのだった。
「お姉様、ありがとうございました」
「無事に着けて良かったわ。困ったことがあれば力になるからね」
私はローザリンデに手を振りながら別れたのだった。
大臣たちに任せている改革を確認して、時には意見を出してエスペルト王国の内側をより強固なものへとするつもりだ。
次の策を思案しているとノックする音が聞こえてきた。
「ラティアーナ陛下失礼します。エドガー様より機密文書が届きました」
「ありがとう」
文書を受け取りつつも、考えていることをニコラウスにも伝えておくべきかと思い口を開いた。
「今後の政策なのだけど、エスペルト王国の全都市、できる限りの集落の衛生状態を改善したいわ。それと孤児やスラムにいるような人々を上手く使いたいのよね」
「衛生状態ですか?他国と比べても十分高水準だと思いますが…?」
エスペルト王国だけでなく他の国にも言えることだが、基本的には所々に設置されている集水用の魔術具を使って水を得ている。貴族であればお風呂に温水を使えて湯船などもあるが、一般的には水浴びだけだ。
「そうね…けれどもう少しあげれば病気による死亡率を下げることができるわ。今大臣たちに任せていることが軌道に乗れば食糧も増えるから、人口が増えても問題ないはずよ。そのためにも水をもっと利用しやすくして、温水の利用もできるようにしたいわ」
「水だけでなく温水もですか?自動集束型の魔術具では魔力が足りなさそうですが…人の手を加えれば可能かも知れませんね」
私はニコラウスのその言葉を待っていたといわんばかりに、笑みを浮かべると「それなのよ!」と言った。
「平民も魔力は皆持っているわ。平民向けの仕事として魔術具の運用管理を行うようにすれば、雇用も増えて魔術具も運用できるようになると思うの」
どうかしら、と目線を向けるとニコラウスは顎に手を当てながら考えているようだった。
「調整は必要ですが…可能だと思います」
「細かい部分は任せるわ。頼んだわよ」
私の言葉にニコラウスは「かしこまりました」と言って準備に取り掛かった。
それから普段の業務を行っていると、王立学園の入学式の時期となる。そしてローザリンデが入学してくる年でもあった。
「ローザリンデはいるかしら?」
「ただいまお呼びしてきます」
ローザリンデが寮へ向かう日の朝、私は離宮を訪れていた。
「お姉様どうされたのですか?」
「今日、学園へ向かうでしょ?わたくしも一緒に行こうかと思って」
「まぁ!是非お願いしますわ」
馬車には私とローザリンデのみが乗り込むと、馬車の周囲を近衛騎士たちが囲むように守る。
ローザリンデが周りをみて不思議そうな顔で
「お姉様直属の騎士は付けないのですか?」
と呟くが「シリウスたちには別件を任せているから」と答える。
学園への道は順調に進んでいて、他愛もない話をしながら外を眺めている。
ちょっとした山道に入って少ししたとき、馬車を揺れが襲った。
「きゃっ!?」
馬の嘶きが聞こえて馬車が外側に傾く。同時に馬車から木が折れたような音が聞こえると、衝撃に揺られ馬車は崖の下に転がり落ちる。
同時に爆発するような音が聞こえて、巨大な岩石群が降り注いでくるのが見えた。
ローザリンデを抱きかかえていると手の中でもぞもぞと動いているのが分かる。
「ローザリンデ大丈夫?痛いとことはない?」
「ええ、大丈夫ですが…一体何が?」
「馬が狙われて馬車の車輪が壊れて崖下に転落して…土砂の下敷きになったようね。ローザリンデには黙っていたけど、狙われるかも知れないって情報が入ったのよ。賊が来るかも知れないと思っていたけれど、こういう手段もあるのね」
私が関心しながら呟くと「それで一緒に馬車に乗られたのですね」と口にしていた。
ローザリンデが狙われるかも知れないという情報はエドガーから渡された文書に記載されていたものだ。精度としては低く可能性がある程度だったが、同行することにして良かっただろう。
「それにしても、瓦礫に押しつぶされているのになんともないような?」
「この馬車は特注品よ?最近作ってもらった合金で作った軽量かつ高硬度を誇る一品。防御魔術を刻んであるから、そう簡単には壊されないの。コンセプトは上級魔術が直撃しても象に踏まれても壊れない…ってところね」
「それはまた…すごいですね」
今までの馬車は魔術による防御に頼りきりだったが、この馬車は物理、魔術共に頑丈にしてある。
例えるなら強力な装甲車と言えるだろう。
「もうそろそろ出られそうね」
私はそう呟くと、ローザリンデが首をかしげているが、濃密な魔力を感じた瞬間、瓦礫が浮かび上がっていくのが見えた。
近衛騎士たちは瓦礫を取り除くと扉を開けて
「お二人をお守りできず申し訳ございません」
と謝る。
ローザリンデは私に視線を向けて来て、私が頷くとローザリンデは「わたくしたちは無事です。助けてくれてありがとう」と言葉にした。
「襲撃者はどうなったの?」
「見つけることができませんでした。恐らく馬に毒矢を放った後、遠くへ離れたのかもしれません」
騎士達は申し訳なさそうに報告を告げてきた。
魔術による攻撃であれば魔力を感知するため、距離がある状態でも気付くことができる。しかし、矢のように物理的なものは視界に入るまでは察知することが難しい。
その時視界の端が光った気がした。同時に騎士が剣を振るうと、甲高い音がする。
「お二人とも我々の後ろにいてください!」
私は身体強化で視力を上げて射線を追ったが、敵の姿を捉えることができなかった。
「駄目ね。攻撃した相手を追えなかったわ。狙いはローザリンデのようだけど…なんでかしらね」
「このまま立ち止まるのは危なそうですね。急いで学園まで移動しましょう。馬車を急いで立て直すので少々お待ちを」
「護衛はローザリンデを中心につけなさい。わたくしに人数を裂かなくていいわよ」
私はそれだけ告げると傍で倒れている馬の元に向かう。馬の体に手を当てて治癒魔術をかけながら周りを警戒するが、それからは特に何もなかった。
その後も敵からの攻撃はなく、馬車を立て直して学園へ向かう。半日ほど遅れたが無事に学園都市に辿り着くのだった。
「お姉様、ありがとうございました」
「無事に着けて良かったわ。困ったことがあれば力になるからね」
私はローザリンデに手を振りながら別れたのだった。
7
あなたにおすすめの小説
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
生贄公爵と蛇の王
荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。
「お願いします、私と結婚してください!」
「はあ?」
幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。
そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。
しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる