王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第7章 女王の戴冠

14 ローザリンデの入寮

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 お披露目を終えた私は、気持ちを切り替えて日々を過ごしていく。

 大臣たちに任せている改革を確認して、時には意見を出してエスペルト王国の内側をより強固なものへとするつもりだ。
 次の策を思案しているとノックする音が聞こえてきた。

「ラティアーナ陛下失礼します。エドガー様より機密文書が届きました」

「ありがとう」

 文書を受け取りつつも、考えていることをニコラウスにも伝えておくべきかと思い口を開いた。

「今後の政策なのだけど、エスペルト王国の全都市、できる限りの集落の衛生状態を改善したいわ。それと孤児やスラムにいるような人々を上手く使いたいのよね」

「衛生状態ですか?他国と比べても十分高水準だと思いますが…?」

 エスペルト王国だけでなく他の国にも言えることだが、基本的には所々に設置されている集水用の魔術具を使って水を得ている。貴族であればお風呂に温水を使えて湯船などもあるが、一般的には水浴びだけだ。

「そうね…けれどもう少しあげれば病気による死亡率を下げることができるわ。今大臣たちに任せていることが軌道に乗れば食糧も増えるから、人口が増えても問題ないはずよ。そのためにも水をもっと利用しやすくして、温水の利用もできるようにしたいわ」

「水だけでなく温水もですか?自動集束型の魔術具では魔力が足りなさそうですが…人の手を加えれば可能かも知れませんね」

 私はニコラウスのその言葉を待っていたといわんばかりに、笑みを浮かべると「それなのよ!」と言った。

「平民も魔力は皆持っているわ。平民向けの仕事として魔術具の運用管理を行うようにすれば、雇用も増えて魔術具も運用できるようになると思うの」

 どうかしら、と目線を向けるとニコラウスは顎に手を当てながら考えているようだった。

「調整は必要ですが…可能だと思います」

「細かい部分は任せるわ。頼んだわよ」

 私の言葉にニコラウスは「かしこまりました」と言って準備に取り掛かった。



 それから普段の業務を行っていると、王立学園の入学式の時期となる。そしてローザリンデが入学してくる年でもあった。

「ローザリンデはいるかしら?」

「ただいまお呼びしてきます」

 ローザリンデが寮へ向かう日の朝、私は離宮を訪れていた。

「お姉様どうされたのですか?」

「今日、学園へ向かうでしょ?わたくしも一緒に行こうかと思って」

「まぁ!是非お願いしますわ」

 馬車には私とローザリンデのみが乗り込むと、馬車の周囲を近衛騎士たちが囲むように守る。

 ローザリンデが周りをみて不思議そうな顔で

「お姉様直属の騎士は付けないのですか?」

 と呟くが「シリウスたちには別件を任せているから」と答える。
 学園への道は順調に進んでいて、他愛もない話をしながら外を眺めている。

 ちょっとした山道に入って少ししたとき、馬車を揺れが襲った。

「きゃっ!?」

 馬の嘶きが聞こえて馬車が外側に傾く。同時に馬車から木が折れたような音が聞こえると、衝撃に揺られ馬車は崖の下に転がり落ちる。
 同時に爆発するような音が聞こえて、巨大な岩石群が降り注いでくるのが見えた。

 ローザリンデを抱きかかえていると手の中でもぞもぞと動いているのが分かる。

「ローザリンデ大丈夫?痛いとことはない?」

「ええ、大丈夫ですが…一体何が?」

「馬が狙われて馬車の車輪が壊れて崖下に転落して…土砂の下敷きになったようね。ローザリンデには黙っていたけど、狙われるかも知れないって情報が入ったのよ。賊が来るかも知れないと思っていたけれど、こういう手段もあるのね」

 私が関心しながら呟くと「それで一緒に馬車に乗られたのですね」と口にしていた。

 ローザリンデが狙われるかも知れないという情報はエドガーから渡された文書に記載されていたものだ。精度としては低く可能性がある程度だったが、同行することにして良かっただろう。

「それにしても、瓦礫に押しつぶされているのになんともないような?」

「この馬車は特注品よ?最近作ってもらった合金で作った軽量かつ高硬度を誇る一品。防御魔術を刻んであるから、そう簡単には壊されないの。コンセプトは上級魔術が直撃しても象に踏まれても壊れない…ってところね」

「それはまた…すごいですね」

 今までの馬車は魔術による防御に頼りきりだったが、この馬車は物理、魔術共に頑丈にしてある。
 例えるなら強力な装甲車と言えるだろう。

「もうそろそろ出られそうね」

 私はそう呟くと、ローザリンデが首をかしげているが、濃密な魔力を感じた瞬間、瓦礫が浮かび上がっていくのが見えた。
 近衛騎士たちは瓦礫を取り除くと扉を開けて

「お二人をお守りできず申し訳ございません」

 と謝る。
 ローザリンデは私に視線を向けて来て、私が頷くとローザリンデは「わたくしたちは無事です。助けてくれてありがとう」と言葉にした。

「襲撃者はどうなったの?」

「見つけることができませんでした。恐らく馬に毒矢を放った後、遠くへ離れたのかもしれません」

 騎士達は申し訳なさそうに報告を告げてきた。
 魔術による攻撃であれば魔力を感知するため、距離がある状態でも気付くことができる。しかし、矢のように物理的なものは視界に入るまでは察知することが難しい。

 その時視界の端が光った気がした。同時に騎士が剣を振るうと、甲高い音がする。

「お二人とも我々の後ろにいてください!」

 私は身体強化で視力を上げて射線を追ったが、敵の姿を捉えることができなかった。

「駄目ね。攻撃した相手を追えなかったわ。狙いはローザリンデのようだけど…なんでかしらね」

「このまま立ち止まるのは危なそうですね。急いで学園まで移動しましょう。馬車を急いで立て直すので少々お待ちを」

「護衛はローザリンデを中心につけなさい。わたくしに人数を裂かなくていいわよ」

 私はそれだけ告げると傍で倒れている馬の元に向かう。馬の体に手を当てて治癒魔術をかけながら周りを警戒するが、それからは特に何もなかった。

 その後も敵からの攻撃はなく、馬車を立て直して学園へ向かう。半日ほど遅れたが無事に学園都市に辿り着くのだった。

「お姉様、ありがとうございました」

「無事に着けて良かったわ。困ったことがあれば力になるからね」

 私はローザリンデに手を振りながら別れたのだった。
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