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第10章 元王族の囚われ生活
9 もう一つの実験
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「実験島……ですって?」
今までのことからも広大な施設だとは思っていた。魔力を通さず窓一つなく外に出ることができないことからも、よほど厳重な造りなのか地下深くにいるのかどちらかだと。
だが大陸から遠く離れた島というのは、正直想定外だ。
「ここは抗魔石の島なんだよ。だから強力な魔物に囲まれた孤島でも島の近くだけは安全になる。ただ難点は内部での連絡が取れないことだね。今回も定時連絡がなかったから様子見に来た。そしたらフォーリアたちがやられていてビックリしたよ」
「だとしても……こっちにくるのが早すぎるでしょ……」
サナのいた場所や様々な場所を寄り道したとしても、ここにくるのが早すぎるだろう。途中、兵士たちの気配すら感じなかったことからも不自然すぎる。
「俺たちが強化人間だからだろう……魔物の因子を取り込んだ俺たちは身体能力が桁違いのはずだからな」
捕まってた男の子のうちの一人が私の隣にやってくる。彼も名前がないそうで周りからエナと呼ばれている一番年上の子だ。嵌められていた首輪や腕輪は壊したのか外れている。
「そうか、君たちには教えていたね……獣人や魔族のような存在を後天的に作り上げる研究。主人に対して反抗する物は使えないのは当然だろう。だが君たちの貢献を無碍にはできないので、名前だけは教えてあげよう。アルカナ研究所直属、インスティアガード副長ゼルソード。それが君たちを殺した者だ」
ゼルソードは長い棒のような物を構えて近づいてくる。その纏う雰囲気や体捌きは並のものではなく、歴戦の戦士を感じさせていた。
恐らくはこの中で出会った敵の中でもっとも強い。
「俺が時間を稼ぐ……その隙に奴をなんとかできるか?」
エナは拳を構えて私に問いかけてきた。実験のせいで強化された肉体は、成人した騎士よりも鍛えられているように見える。ゼルソードの言葉が正しいならかなりの力を持っていそうだ。
「それはいいけど実戦は初めてなんじゃないの?」
いくら鍛えられていたとしても、どんなに強大な力を持っていたとしても上手く扱えなければ強敵には通用しない。
けれどエナは大丈夫だと微笑む。
「ティアにはきっかけをくれたことに感謝はしている。だが……君にばかり頼ってしまうのは、男としても年上としても駄目だろう?なに、実戦は初めてだが力の扱いはこっそり練習してきた。時間稼ぎくらいどうにかするさ」
エナの覚悟はかなりのものだった。であれば私はその覚悟を無為にすることはできない。
「わかった……全力を出すから任せてね。ただ……あとのことはお願い」
ティアに生まれ変わってから何度か戦ったことで、分かったことがいくつかある。
まず魂の影響を受けているのか魔力の質がラティアーナの頃と似ていること。そしてティアのもつ魔力の器……つまり魔力量はラティアーナの頃よりも多く、スピカと同等くらいまで増えていること。最後に全魔力でなくても魔力を大幅に使うと体力が尽きてしばらく動けなくなることだ。
今から行使するのは最上級魔術。それも二つ同時だ。
「やあああっ!」
エナは拳を構えてゼルソードに向かって拳を打ち込む。素の身体能力か身体強化も使っているのか判断がつかないが、かなり高速の連撃だ。
「この程度か……」
ゼルソードは棒を使って拳を受け流していた。攻撃をすればするほど、エナの拳は傷ついていく。けれどエナは一歩も引かずに攻撃を続けた。
「エナ!離れて!」
私は叫ぶと同時に魔術を展開する。
一つ目の魔術はゼルソードの頭上に術式を広げて押しつぶし、二つ目の魔術がゼルソードを凍結させる。
最上級重力魔術と最上級氷結魔術は、膨大な魔力と共に地面にひびを入れて大きな氷の結晶を作り出した。
「あとは……おねがいね……」
私は大きく魔力を消費した影響で力が抜ける。それをもう一人の男の子のディオが支えてくれた。
「ありがとう……助かるわ」
「いえ、今のうちに行きましょう」
もう一つの別の実験場所。
私たちやエナたちはもちろんのこと、サナも入ったことのない特別な場所。誰が囚われているのか詳しく分からないが、助ける以外の選択肢はない。
私たちはこの場を急いで離れて、その場所を目指した。
私や子供たちは皆に背負われたまま、目的の場所まで走って行く。その途中で男の子たちから知っている内容を教えてもらっていると気になる言葉が出てきた。
「巫女がいるの?」
どうも別の国から攫ってきた巫女と呼ばれる存在が、これから行く先に捕まっているらしい。私の知っている限りでは巫女と呼ばれる役割はどこの国にも存在しない。
私がいない間にできたのか、あるいは私の知らない国にいるかのどちらかだろう。
「ああそうだ。研究者がたまに言っていたが、別の大陸……それも交流のない国みたいだ。一時期、巫女と一緒に精霊もついてきたと面白おかしく笑っていたな」
「巫女と精霊の研究ね……」
「詳しくは知らんがな……本人に聞けば分かるのではないか?」
直接知っている精霊はパルセノスのみ。本質的に悪魔と同じで精神生命体である精霊はパルセノスのように剣になったのならともかく、そのままの存在であれば人間程度ではどうにもできない存在のはずだ。
「ここはもしかしたら……想像以上に危険な場所なのかもね」
脱出するのは想像以上に難しいかもしれない、そう感じた。
今までのことからも広大な施設だとは思っていた。魔力を通さず窓一つなく外に出ることができないことからも、よほど厳重な造りなのか地下深くにいるのかどちらかだと。
だが大陸から遠く離れた島というのは、正直想定外だ。
「ここは抗魔石の島なんだよ。だから強力な魔物に囲まれた孤島でも島の近くだけは安全になる。ただ難点は内部での連絡が取れないことだね。今回も定時連絡がなかったから様子見に来た。そしたらフォーリアたちがやられていてビックリしたよ」
「だとしても……こっちにくるのが早すぎるでしょ……」
サナのいた場所や様々な場所を寄り道したとしても、ここにくるのが早すぎるだろう。途中、兵士たちの気配すら感じなかったことからも不自然すぎる。
「俺たちが強化人間だからだろう……魔物の因子を取り込んだ俺たちは身体能力が桁違いのはずだからな」
捕まってた男の子のうちの一人が私の隣にやってくる。彼も名前がないそうで周りからエナと呼ばれている一番年上の子だ。嵌められていた首輪や腕輪は壊したのか外れている。
「そうか、君たちには教えていたね……獣人や魔族のような存在を後天的に作り上げる研究。主人に対して反抗する物は使えないのは当然だろう。だが君たちの貢献を無碍にはできないので、名前だけは教えてあげよう。アルカナ研究所直属、インスティアガード副長ゼルソード。それが君たちを殺した者だ」
ゼルソードは長い棒のような物を構えて近づいてくる。その纏う雰囲気や体捌きは並のものではなく、歴戦の戦士を感じさせていた。
恐らくはこの中で出会った敵の中でもっとも強い。
「俺が時間を稼ぐ……その隙に奴をなんとかできるか?」
エナは拳を構えて私に問いかけてきた。実験のせいで強化された肉体は、成人した騎士よりも鍛えられているように見える。ゼルソードの言葉が正しいならかなりの力を持っていそうだ。
「それはいいけど実戦は初めてなんじゃないの?」
いくら鍛えられていたとしても、どんなに強大な力を持っていたとしても上手く扱えなければ強敵には通用しない。
けれどエナは大丈夫だと微笑む。
「ティアにはきっかけをくれたことに感謝はしている。だが……君にばかり頼ってしまうのは、男としても年上としても駄目だろう?なに、実戦は初めてだが力の扱いはこっそり練習してきた。時間稼ぎくらいどうにかするさ」
エナの覚悟はかなりのものだった。であれば私はその覚悟を無為にすることはできない。
「わかった……全力を出すから任せてね。ただ……あとのことはお願い」
ティアに生まれ変わってから何度か戦ったことで、分かったことがいくつかある。
まず魂の影響を受けているのか魔力の質がラティアーナの頃と似ていること。そしてティアのもつ魔力の器……つまり魔力量はラティアーナの頃よりも多く、スピカと同等くらいまで増えていること。最後に全魔力でなくても魔力を大幅に使うと体力が尽きてしばらく動けなくなることだ。
今から行使するのは最上級魔術。それも二つ同時だ。
「やあああっ!」
エナは拳を構えてゼルソードに向かって拳を打ち込む。素の身体能力か身体強化も使っているのか判断がつかないが、かなり高速の連撃だ。
「この程度か……」
ゼルソードは棒を使って拳を受け流していた。攻撃をすればするほど、エナの拳は傷ついていく。けれどエナは一歩も引かずに攻撃を続けた。
「エナ!離れて!」
私は叫ぶと同時に魔術を展開する。
一つ目の魔術はゼルソードの頭上に術式を広げて押しつぶし、二つ目の魔術がゼルソードを凍結させる。
最上級重力魔術と最上級氷結魔術は、膨大な魔力と共に地面にひびを入れて大きな氷の結晶を作り出した。
「あとは……おねがいね……」
私は大きく魔力を消費した影響で力が抜ける。それをもう一人の男の子のディオが支えてくれた。
「ありがとう……助かるわ」
「いえ、今のうちに行きましょう」
もう一つの別の実験場所。
私たちやエナたちはもちろんのこと、サナも入ったことのない特別な場所。誰が囚われているのか詳しく分からないが、助ける以外の選択肢はない。
私たちはこの場を急いで離れて、その場所を目指した。
私や子供たちは皆に背負われたまま、目的の場所まで走って行く。その途中で男の子たちから知っている内容を教えてもらっていると気になる言葉が出てきた。
「巫女がいるの?」
どうも別の国から攫ってきた巫女と呼ばれる存在が、これから行く先に捕まっているらしい。私の知っている限りでは巫女と呼ばれる役割はどこの国にも存在しない。
私がいない間にできたのか、あるいは私の知らない国にいるかのどちらかだろう。
「ああそうだ。研究者がたまに言っていたが、別の大陸……それも交流のない国みたいだ。一時期、巫女と一緒に精霊もついてきたと面白おかしく笑っていたな」
「巫女と精霊の研究ね……」
「詳しくは知らんがな……本人に聞けば分かるのではないか?」
直接知っている精霊はパルセノスのみ。本質的に悪魔と同じで精神生命体である精霊はパルセノスのように剣になったのならともかく、そのままの存在であれば人間程度ではどうにもできない存在のはずだ。
「ここはもしかしたら……想像以上に危険な場所なのかもね」
脱出するのは想像以上に難しいかもしれない、そう感じた。
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