王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第10章 元王族の囚われ生活

8 滅べばいい

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「うわぁ……過激ですね……」

 動いている敵がいないことを確認して頷いていると、サナがひいたような表情で感想を口にした。
 サナの言葉に周りを見渡してみる。魔力による攻撃のため、建物には被害が出ていない。しかし兵士たちは装備ごと歪み、潰れて、所々黒く焦げているだけだ。

「私も長時間戦えないですし抵抗されても大変です。それに下手に抵抗されると……手元が狂って汚してしまうかもしれませんから」

 体力がないのだから体力が尽きる前に戦闘を終わらせなければならない。それに慣れている私は兎も角として、他の人たちには汚いものを見せる必要はないだろう。スプラッタは良くない。

「私も他の人よりは慣れてるけど苦手だもの。三人には見せられない光景だね」

 アイラも当然だと同意した。いくら敵であっても幼い三人には刺激が強すぎてトラウマになりかねない。

「まぶしかった……」
「すごい……」
「おぉー」

 サナの後ろで隠れるようにいた三人は、様々な反応を見せていた。それは純粋に驚いただけのようで、恐怖や嫌悪は感じていないようだった。

「うんうん。刺激が強いかと思ったけど大丈夫そうだね……っと、あらら……」

 倒れた兵士から使いやすそうな剣を回収していると、一人別の格好をした女がいたことに気づく。雷撃を受けて気を失っている彼女は武装をせずに白い防護服のような格好をしていた。

「どうしたの?……って、兵士だけじゃなくて研究者も巻き込んでたの?」

 私の言葉に気づいたアイラが、覗くように倒れている彼女を見る。そしてアイラは私にジト目を向けてきた。その視線は「研究者からは情報を聞き出さなくていいの?」と言っているような気がした。

「……早く捕まっている人を助けに行こう」

 私は目を泳がせて誤魔化して探索を続けることにした。

 そして探索を続けることしばらく。
 いくつかの部屋を片っ端から当たっていくと人の気配がする部屋を見つけた。アイラやサナとアイコンタクトをして警戒を強めるよう促し、扉に近づく。聴力を強化して中の様子を窺うことにした。
 すると部屋の中からは監視役の声と武器や鎧が擦れるような音、何人かの男の子の声が聞こえてくる。

「間違いなさそう……監視役や兵士は私がやるからアイラたちは保護をお願い」

「わかった……みんなも大丈夫?」

 アイラが子供たちに問いかけると、三人もわかっていると無言で頷く。サナも「任せてください」と呟いた。
 私は身体強化を施して魔力弾の準備をする。指でカウントを3、2、1と進め、指を閉じた瞬間に合わせて部屋の中へ突入する。

「なっ!?」
「わ!?」

 扉を蹴り飛ばしたせいか、中から驚きの叫び声が上がる。
 部屋の中にいるのは兵士が10人、監視役2人、捕まっているであろう男の子が7人だ。男の子たちは私やアイラと同年代そうに見える。けれど意外だったのは、男の子たちが皆ムキムキだったことだ。
 部屋の中には私も知っている様々な筋トレ用の道具を模したような魔術具が置いてある。恐らくこの部屋は男の子たちを鍛えて実験するための部屋なのだろう。
 何はともあれ、兵士たちをどうにかしなければいけない。

 私は準備していた魔力弾の軌道を設定して一斉に放った。

「そんなもの!?」
「早く奴を捕らえろ!」

 魔力弾は複雑な軌道を描いて兵士たちに命中する。
 まだ無事な兵士たちは剣を抜いて私たちをどうにかしようとする。
 兵士たちの手が後ろにいる皆に届く前に間に入り、魔力を纏った蹴りで吹き飛ばしていく。

「ちっ……」
「この際、殺しても構わん!」

 残りの兵士たちは銃を構えて撃ってきた。

「誰も傷つけさせない……」

 私は銃弾を剣で斬り裂いて魔力弾で吹き飛ばす。男の子たちの方は、アイラやサナが保護してくれている。
 私の役目は敵の注意を引きつけること。そして敵をいち早く片付けることだ。

「ティア!みんなに事情は伝えたよ!協力してくれるって」

「ありがとう!こっちもすぐに終わらせるわ!」

 アイラたちの方へ視線を向けると男の子たちと協力して倒れた兵士たちを縛ってくれている。
 その隙に残りの立っていた兵士たちを順番に無力化してアイラたちの元へ戻った。

「他に捕まっている人はいないよね?」

「ああ、ここにいる7人だけだ。助けてくれてありがとう」

「私たちも逃げるための仲間は多い方が良いから……早く行きましょうか」

 男の子たちの場合は私たちと違い幼い子供はいないようだ。一先ず安心していると……

「いや、その必要はない……君たちの処分が決まった」

 部屋の外から一人の男がやってきた。重厚な鎧に包まれたその男は、悲しげな瞳を私たちに向けて「本当に残念だよ……」と呟く。

「処分……ですって?まるで物みたいな言い方ね」

 皆を背に庇いながら怒りの視線をぶつける。
 たしかに奴隷を認めている国は存在する。だがそれは、あくまで地位が違うだけで人として認められる方がほとんどだ。

「まるで、ではなくそうだろう?君たちは人間だが、ただの実験材料。使えなくなれば捨てるただのものだ。反乱を起こすような物はさっさと捨てて新しい物へ切り替える。それがここの所長の方針だよ」

「そう……だったら尚更、私たちはここから去る。ついでにこんな場所は滅べばいい」

「ここから……いや、この島から逃げるのは無理だよ。ここは危険な海棲の魔物の生息域にある島。かつて監獄島だった場所を再利用した実験島なのだから」

 男の口からは予想だにしなかった事実が語られるのだった。
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