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第12章 私を見つけるための旅
4 私たちの戦い
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「貫かれたくらいで動けなくなるほど……柔じゃない」
そもそも不意打ち対策はラティアーナだった頃から考えていたこと。元々王族ということもあり暗殺者に狙われることが多かったこともあって気配や殺気を感じ取る力は他の人よりも高くなっていた。
以前はそれに加えて致命傷を受けても即時治療できる魔術具の御守りを持つことで備えていた。
けれど、悪魔との戦いで致命傷を複数受けた時や身体そのものが消し飛んだ場合などに無力だということを思い知った。
だから、ずっと考えていた。もしも致命傷レベルの不意打ちを受けたときにどうするかを。
そして一つの考えに思い至った。
致命傷であっても即死さえしなければ最低限の治療や止血を自身に施せば良いと。
「っ……!?」
「言ったはずだ。私たちがお前を倒すと。誰も私たち二人で、など言っていない」
驚いて目を見開いた敵に対して黒羽が不敵な笑みを浮かべて告げる。
私が紫陽と黒羽にお願いしたことは三つ。
まず敵の意識を私から逸らしてもらうこと。準備が完了するまでの少しの時間を稼いでもらうこと。そして、紫陽か黒羽の近くに敵を誘導してもらうことだった。
その間、私は近くで力尽きたふりをして、気付かれないように魔力を練っていた。
「だが……この程度の糸で俺の動きを封じるなど。そもそもいつの間に!?」
「今日は良くも悪くも雨。あなたに負わされた傷のおかげで大量の血が流れたけど……けほっ。でも、その流れた血はどこにいったと思う?」
私の魔力を多分に含んだ血液は雨に混じって地面のなかに浸透した。雨水と混じってかなり薄まったため魔力の代わりや魔術の核にはできない。しかし、魔力を通すためのバイパスとしては十分機能する。
そして身体に付着している純粋な血液を媒介に魔力を練り合わせた特別な魔力糸をパイパスを通して張り巡らせたわけだ。
「だが!お前たちが俺を傷つけることなどできん!そもそも、後少しもすれば頑強な糸であっても切れる。その時はお前たちの最後だ!」
敵は言葉を交わす間も無理やり振り解こうとしている。言葉通りあと1分もしないうちに糸は切れてしまうだろう。
けれど……
「その僅かな時間があれば良い。それに二人が傷を与えてくれたっ。想像以上だよ」
赤い魔力糸は身体の表面を縛り付けるだけでなく傷口から体内へと侵入する。
あくまで針を刺した程度。だが、僅かにでも体内に入り込んでいれば新しい一手を打つことができる。
「毛や皮膚が硬くても、ごほっ……体内はどう、かな?」
次の瞬間、私は魔術を重ねた。単純な雷撃を放つだけの下級魔術。
けれど、魔力糸を伝わって敵の体内に直接雷撃を届けることができる。
青白い光は地面を伝わって敵の元まで辿りつく。バチンと大きな音がすると、敵がバランスを崩してよろめいた。
「ふっ!」
「重撃!」
隙を窺っていた黒羽は敵が動けない瞬間を狙って桜陽を振るう。跳躍した勢いに加えて全体重を乗せた刀は、ものすごい勢いを持ちつつも音を立てずに振り下ろされる。
さらに紫陽も同時に霊術を発動していた。黒羽の放つ攻撃の重さを倍加させる。
二人の連携による桜陽を解放しての一撃は、流石の相手も無事では済まなかった。肩からの袈裟斬りにして、そのまま後方まで吹き飛ばす。
「はぁはぁ……まるで鋼鉄を斬ったかのようだ」
黒羽は肩で息をしながらも震える手を握りなおした。あまりの硬さに反動で手が痺れているが戦いが終わるまで刀を話すことはできない。帯びている桜色の魔力を纏わせたまま、敵の様子に注意を向ける。
相手は大木に身体を打ち付けて地面に滑り落ちながらも意識を失ってはいなかった。
肩からお腹にかけて血を流しながらも、多少ふらつく足取りで立ち上がる。
「まじかよ。同族以外でここまで傷つけられるのなんて初めてだ。やるじゃねえか!」
敵は少しだけ嬉しそうに目を輝かせて吠えた。そして、勢いよく私たちに襲い掛かろうした瞬間、腰が砕けたように倒れこむ。
「っ!?何をした!?これは、力が……抜ける?」
「ようやく効いたみたいね……全く、本当に頑丈すぎるでしょ」
「毒?だが、俺たちに毒なんて効かないはず……」
「まさか。毒なんて不確定なもの、戦いで使うわけないじゃない……」
毒が最も有効なのは暗殺のように日常のふとした瞬間に仕掛けることができる点だ。それでも王族だった私のように慣らしている場合や魔術による解毒、身体強化や回復によって人本来の自浄能力を高めることによって対策することができる。
「生きている者は生体電気を必ず持ってる。それを利用すれば身体強化することもできるし……動けなくすることもできるの。けほっ……これで終わりよ」
生体電気に干渉する魔術を使ったことはない。けれど、つい先日にコルキアスが身体強化を行っているのを見た。
魔力の流れと干渉方法が分かればオリジナルに及ばなくてもある程度再現することができる。
「大海」
「散華……」
そこに紫陽と黒羽の一撃が合わさる。
大気中の水を圧縮した津波のような霊術と桜陽の魔力を解放し爆散させる砲撃。
二人の攻撃が敵を包み込むと同時に地面が割れて衝撃と轟音が一帯を襲う。さらに膨大な魔力が炸裂し視界を紅く染めあげる。
その光景を最後に私は意識を手放した。
次に目覚めたとき。
視界に入ったのは見知らぬ天井だった。
そもそも不意打ち対策はラティアーナだった頃から考えていたこと。元々王族ということもあり暗殺者に狙われることが多かったこともあって気配や殺気を感じ取る力は他の人よりも高くなっていた。
以前はそれに加えて致命傷を受けても即時治療できる魔術具の御守りを持つことで備えていた。
けれど、悪魔との戦いで致命傷を複数受けた時や身体そのものが消し飛んだ場合などに無力だということを思い知った。
だから、ずっと考えていた。もしも致命傷レベルの不意打ちを受けたときにどうするかを。
そして一つの考えに思い至った。
致命傷であっても即死さえしなければ最低限の治療や止血を自身に施せば良いと。
「っ……!?」
「言ったはずだ。私たちがお前を倒すと。誰も私たち二人で、など言っていない」
驚いて目を見開いた敵に対して黒羽が不敵な笑みを浮かべて告げる。
私が紫陽と黒羽にお願いしたことは三つ。
まず敵の意識を私から逸らしてもらうこと。準備が完了するまでの少しの時間を稼いでもらうこと。そして、紫陽か黒羽の近くに敵を誘導してもらうことだった。
その間、私は近くで力尽きたふりをして、気付かれないように魔力を練っていた。
「だが……この程度の糸で俺の動きを封じるなど。そもそもいつの間に!?」
「今日は良くも悪くも雨。あなたに負わされた傷のおかげで大量の血が流れたけど……けほっ。でも、その流れた血はどこにいったと思う?」
私の魔力を多分に含んだ血液は雨に混じって地面のなかに浸透した。雨水と混じってかなり薄まったため魔力の代わりや魔術の核にはできない。しかし、魔力を通すためのバイパスとしては十分機能する。
そして身体に付着している純粋な血液を媒介に魔力を練り合わせた特別な魔力糸をパイパスを通して張り巡らせたわけだ。
「だが!お前たちが俺を傷つけることなどできん!そもそも、後少しもすれば頑強な糸であっても切れる。その時はお前たちの最後だ!」
敵は言葉を交わす間も無理やり振り解こうとしている。言葉通りあと1分もしないうちに糸は切れてしまうだろう。
けれど……
「その僅かな時間があれば良い。それに二人が傷を与えてくれたっ。想像以上だよ」
赤い魔力糸は身体の表面を縛り付けるだけでなく傷口から体内へと侵入する。
あくまで針を刺した程度。だが、僅かにでも体内に入り込んでいれば新しい一手を打つことができる。
「毛や皮膚が硬くても、ごほっ……体内はどう、かな?」
次の瞬間、私は魔術を重ねた。単純な雷撃を放つだけの下級魔術。
けれど、魔力糸を伝わって敵の体内に直接雷撃を届けることができる。
青白い光は地面を伝わって敵の元まで辿りつく。バチンと大きな音がすると、敵がバランスを崩してよろめいた。
「ふっ!」
「重撃!」
隙を窺っていた黒羽は敵が動けない瞬間を狙って桜陽を振るう。跳躍した勢いに加えて全体重を乗せた刀は、ものすごい勢いを持ちつつも音を立てずに振り下ろされる。
さらに紫陽も同時に霊術を発動していた。黒羽の放つ攻撃の重さを倍加させる。
二人の連携による桜陽を解放しての一撃は、流石の相手も無事では済まなかった。肩からの袈裟斬りにして、そのまま後方まで吹き飛ばす。
「はぁはぁ……まるで鋼鉄を斬ったかのようだ」
黒羽は肩で息をしながらも震える手を握りなおした。あまりの硬さに反動で手が痺れているが戦いが終わるまで刀を話すことはできない。帯びている桜色の魔力を纏わせたまま、敵の様子に注意を向ける。
相手は大木に身体を打ち付けて地面に滑り落ちながらも意識を失ってはいなかった。
肩からお腹にかけて血を流しながらも、多少ふらつく足取りで立ち上がる。
「まじかよ。同族以外でここまで傷つけられるのなんて初めてだ。やるじゃねえか!」
敵は少しだけ嬉しそうに目を輝かせて吠えた。そして、勢いよく私たちに襲い掛かろうした瞬間、腰が砕けたように倒れこむ。
「っ!?何をした!?これは、力が……抜ける?」
「ようやく効いたみたいね……全く、本当に頑丈すぎるでしょ」
「毒?だが、俺たちに毒なんて効かないはず……」
「まさか。毒なんて不確定なもの、戦いで使うわけないじゃない……」
毒が最も有効なのは暗殺のように日常のふとした瞬間に仕掛けることができる点だ。それでも王族だった私のように慣らしている場合や魔術による解毒、身体強化や回復によって人本来の自浄能力を高めることによって対策することができる。
「生きている者は生体電気を必ず持ってる。それを利用すれば身体強化することもできるし……動けなくすることもできるの。けほっ……これで終わりよ」
生体電気に干渉する魔術を使ったことはない。けれど、つい先日にコルキアスが身体強化を行っているのを見た。
魔力の流れと干渉方法が分かればオリジナルに及ばなくてもある程度再現することができる。
「大海」
「散華……」
そこに紫陽と黒羽の一撃が合わさる。
大気中の水を圧縮した津波のような霊術と桜陽の魔力を解放し爆散させる砲撃。
二人の攻撃が敵を包み込むと同時に地面が割れて衝撃と轟音が一帯を襲う。さらに膨大な魔力が炸裂し視界を紅く染めあげる。
その光景を最後に私は意識を手放した。
次に目覚めたとき。
視界に入ったのは見知らぬ天井だった。
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