王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

9 巡り巡って現在へ

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「こちらです」

「ありがとうございます」

 紫陽たちと別れた私は侍従の案内で通された部屋に入った。
 部屋は応接間といった感じで多くても10人くらいの使用を想定している小さめの部屋だ。テーブルを挟むようにして大きめの椅子があって距離感が近い造りをしている。
 侍従の人は私の案内を終えると部屋の外に出ていた。
 今、この場にいるのは私とカルラ、カルラの隣に居た護衛の三人だけとなる。

「これは非公式な場ですし人払いしてますから楽にしてください」

 カルラの言うとおり他に気配は感じない。この部屋の壁もそれなりの厚さを誇るようで音が外に漏れることもなさそうだった。
 あまりにも無用心に思えるがカルラも護衛もかなりの強さを誇っている。少なくともそれぞれが万全の私と互角以上で強さを持っているようだし、有事になっても大丈夫だと考えているのかもしれない。

「彼が気になりますか?」

「いえ……桜花皇国の重鎮でもある紫陽たちならともかく、素性の怪しい私が呼ばれたことが不思議でして……」

 私のことはルークから聞いているだろうが、そもそも生まれて時から捕まっていた身だ。元奴隷とか元実験体のように不穏な言葉しか当てはまらず、優しい言い方をしても孤児としか表現のしようがない。
 公王であるカルラが私だけを呼んだ理由が分からなかった。

「そうですね。貴方が覚えているか分かりませんが20年ほど前の約束を……恩を返そうと思いまして」

「……っ!?」

 私はカルラの言葉に耳を疑った。
 20年前は私が生まれるよりも前。正確な時間軸はわかっていないが恐らく前世の私が生きていた頃だろう。
 ラティアーナだった頃に知り合った獣人。そしてカルラという名前。
 まさか王族とは思っていなかったが、思い当たるのは二人の姉弟だけだ。

「その反応は記憶も保持していそうですね……ちなみに隣にいるのは戦士団の総長にして私の弟ガロンです。改めて私たちを助けていただいたことに感謝を。あの時の別れ際に言ったとおり恩返しさせてください」

 かつてラティアーナだった私が冒険者として旅に出ていた頃。
 どの国の土地でもない無法地帯で出会った獣人の姉弟のカルラとガロンとは、追われているところを助けて数日の時間を共に過ごした。
 最後は追ってきたグランバルド帝国の将軍を足止めするために唐突な別れとなったが、あの出会いや過ごした時間は今も鮮明に刻まれている。

「まさか……あのときの……でも、どうして?今の私は10歳に満たないくらいの少女。名乗っている名前が同じだったとしても分かるはずが……」

「それは私の……というよりも一族が代々受け継いでいる力によるものです。場所によって朱雀、不死鳥、フェニックスなど呼び方は変わりますがフェニックスの眼は精霊ほどでなくても魔力を視ることができます」

 精霊のように魂そのものを見ることはできないが多少は近いことができるらしい。だから過去の私と現在の私で似ている部分は多く不思議に思ったそうだ。

「貴方が前と同じティアと名乗っていてくれて助かりました。でなければ違和感を覚えても気付かなかったかもしれません。少なくとも確信を持てなかったでしょう」

「ですが……可能性だけなら私が生き続けていた可能性のほうが高いはず……」

 カルラの話で確信を持つことができたが、私の生まれ変わりはラティアーナの死からほとんど時間が経っていない。だから、もしも私が死ぬことなく生き続けていれば30代後半くらいだったはずだ。戦いなどで死ぬ可能性があったとしても生きていると考えるのが自然だろう。

「偶然が重なった結果ですね。私たちも周辺諸国の動向は下がっていましたから、かつてのエスペルト王国で貴方が初の女王として即位されたこと。そして、病に倒れて亡くなられたことも。もう会えないとわかってしまった時には悲しかったですが、また会えて嬉しかったです」

 あの偶然の出会いで私たちはお互いに名前しか知らなかった。別れた後に再び会うことはないとさえも思っていた。
 けれど、こうしてラティアーナだった頃を知っている人と出会えて純粋に嬉しいと思える。

「私こそ。二人が逃げられたとは思っていたけど……元気そうで良かった」

 視界がうっすらと滲んでいく。
 なんとも言えない切なさと懐かしさがじわしわと迫ってきて、瞳が濡れて涙が溢れ出した。

「懐かしいですね。貴方には敬語よりも普通に話してもらったほうが良いです」

 カルラは「皆の前では難しいですが三人だけの時はお願いします」と言って私の肩を抱きしめた。



「さて……少し落ち着いたところで何か願いとかありますか?私にできることならできる限りのことをしたいと思いますが?」

 少しして落ち着いた頃。カルラがそのように提案してきた。最初に話していた恩返しがしたいそうだ。
 助けたこと自体に後でどうこうしてもらおうとした意図はなかったが、かなり困った現状であることも事実。
 ここは遠慮せずにカルラたちに甘えてしまったほうが良いだろう。
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