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第12章 私を見つけるための旅
13 陽炎との話し合い
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「……これが、私がここに帰るまでの全てです」
紫陽が説明を終えた頃には外が暗くなっていた。
紫陽たちがミタナハル王国に捕まり私と出会ってから始まり。協力して脱獄しアイラたちの故郷であるラメルシェル王国の手助けをしたこと。ドルバイド帝国の侵攻を凌ぎながら獣公国シャスタニアに不時着したこと。想定もしていない出会いだったが、友好関係を結んだこと。
こうして、改めて言葉にしてみると当事者である私でも、何がどうなってこのようになったのか理解できない。紫陽たちと出会ってから約一月しか経ってないはずだが、時間に対して経験した出来事が濃密過ぎるくらいだ。
「……ひとまずは、紫陽たちが無事に帰ってきたことを喜ぶとしよう」
陽炎はそう呟くと紫陽と黒羽に視線を向ける。表情はあまり変わらないが、どこか視線に優しさが含まれているように感じた。
「申し訳ありませんでした。私がついていながら紫陽様のことを守りきれませんでした」
けれど、黒羽としては納得できるものではなかったようだ。席から立ち頭を深く下げていた。
「仕方ないだろう。本来は旅を通して周辺諸国の実情や常識を知ると同時に非常時の訓練を兼ね備えているものだ。賊に襲われることは考えられても国が相手になることは想定外だ。それに多数を相手にして一人では……たとえわが国の最強の刀士であっても難しい」
戦いにおいて一番難しいのは守ることだ。単に敵を倒せば良いわけでもなく敵からの攻撃を防ぐだけでも良くない。
「黒羽。この先、紫陽が巫女として皇帝陛下に仕えるとなった時、一番狙われやすくなる。だから、この旅で得た経験を無駄にせず強くなれ」
「……分かりました」
黒羽も思うところはあるのだろう。もう一度深く頭を下げるのだった。
陽炎はそんな黒羽に対して一つ頷くと私とガロンに向き直る。
「では改めてガロン殿、ティア殿。此度は紫陽と黒羽を助けていただきありがとうございます」
「私としては領土内に入った彼女たちを保護するのは当然のことです。むしろ、この巡りあわせには感謝もしています」
「私も紫陽や黒羽には助けてもらいました。改めてありがとうございます」
三者三様にお礼を言い合う状態が少しだけおかしくて笑みがこぼれた。張り詰めていた空気が僅かに軽くなる。
「それでガロン殿。貴方がこちらにいらっしゃったのは、ドルバイド帝国に対抗するための協力関係を結ぶ……ということでよろしいので?」
ガロンたちシャスタニアの戦士団が桜花皇国へ来た理由は紫陽が簡単に説明している。
陽炎の問いかけはそれに対する確認のようなものだ。
「はい。我々獣公国シャスタニアは獣人国家の中でも人との融和を目指しています。ですが、それはあくまで友好を示してくれた相手のみ。力で侵攻し領土を広げようとするドルバイド帝国は、何度か衝突していることもあって敵対しているに等しいです。勇者の問題もあり、このまま放置することはできませんし、そろそろ人間の国とも関係を築いてもいいかと」
陽炎はガロンの言葉に思い当たる部分があるらしく「確かに放置はできませんね」と呟く。
「最近海のほうでもドルバイド帝国の紋章をつけた船を見かけることが多くなりました。それに勇者についても無視をできる存在ではありません。なので、私としても新しい関係を築くことには賛成なのですが……陛下がいない今、話を進めることは難しいのです。数日で戻るので、それまでは水面下での打ち合わせになるかと」
陽炎は大まかに桜花皇国の政治的な体制を説明してくれた。
桜花皇国も他国と同じように最高位にあたるのが皇帝で、その下に各分野の最高位である大臣のような人が複数いるらしい。
そして、桜花皇国独自の大きな影響力を誇るのが巫女もしくは禰宜といった存在だそうだ。直接指示や決定などはできないが、方針を指し示す相談役に近いらしい。
「それで構いません。話し合い自体は大使に任せるつもりなので期間が長くなっても大丈夫です」
それからガロンと陽炎は少しだけ話し合いを行い、細かい話は後日に改めて行うこととなった。
話し合いが終わった頃には夕食時となっていたため、そのまま食事を呼ばれることになる。
ガロンや紫陽たちと一緒に私も応接間から食堂に移動しようとする。すると陽炎が「ティア殿、少しだけ時間をいただきたい」と言って呼び止めてきた。
「構いませんけど……」
正直なところ陽炎に呼び止められる理由が思いつかない。私が桜花皇国と関係しているものとすればプレアデスとの契約くらいだが、あれも精霊を尊重するということだから違うだろう。
「娘が色々と世話になった。助けてくれたこともそうだが親しくしてくれていることも含めてな。ささやかではあるが私からの礼だと思って欲しい」
陽炎はそう言って懐から小瓶のようなものを差し出してくる。
「これは?」
瓶を受け取ってよく見てみると、薄っすらと桜色に染まっている液体が入っているようだった。中身の検討が全くつかない。
「それは億年桜の樹液から作られた霊薬だ。生命力と魔力を大きく回復するその薬があれば、短時間なら全力を出せると思う」
「なっ!?そのような貴重品をもらうわけにはいきません!」
私がラティアーナだった頃でさえ生命力を回復させる薬など見た事がない。貴重すぎて恐らく値段もつかないような代物だと感じて慌てて返そうとするが、陽炎は首を横に振る。
「一つくらいなら問題ない。むしろ他にも何か礼がしたいくらいだが……何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「……分かりました。では、ありがたくいただきますね」
紫陽が説明を終えた頃には外が暗くなっていた。
紫陽たちがミタナハル王国に捕まり私と出会ってから始まり。協力して脱獄しアイラたちの故郷であるラメルシェル王国の手助けをしたこと。ドルバイド帝国の侵攻を凌ぎながら獣公国シャスタニアに不時着したこと。想定もしていない出会いだったが、友好関係を結んだこと。
こうして、改めて言葉にしてみると当事者である私でも、何がどうなってこのようになったのか理解できない。紫陽たちと出会ってから約一月しか経ってないはずだが、時間に対して経験した出来事が濃密過ぎるくらいだ。
「……ひとまずは、紫陽たちが無事に帰ってきたことを喜ぶとしよう」
陽炎はそう呟くと紫陽と黒羽に視線を向ける。表情はあまり変わらないが、どこか視線に優しさが含まれているように感じた。
「申し訳ありませんでした。私がついていながら紫陽様のことを守りきれませんでした」
けれど、黒羽としては納得できるものではなかったようだ。席から立ち頭を深く下げていた。
「仕方ないだろう。本来は旅を通して周辺諸国の実情や常識を知ると同時に非常時の訓練を兼ね備えているものだ。賊に襲われることは考えられても国が相手になることは想定外だ。それに多数を相手にして一人では……たとえわが国の最強の刀士であっても難しい」
戦いにおいて一番難しいのは守ることだ。単に敵を倒せば良いわけでもなく敵からの攻撃を防ぐだけでも良くない。
「黒羽。この先、紫陽が巫女として皇帝陛下に仕えるとなった時、一番狙われやすくなる。だから、この旅で得た経験を無駄にせず強くなれ」
「……分かりました」
黒羽も思うところはあるのだろう。もう一度深く頭を下げるのだった。
陽炎はそんな黒羽に対して一つ頷くと私とガロンに向き直る。
「では改めてガロン殿、ティア殿。此度は紫陽と黒羽を助けていただきありがとうございます」
「私としては領土内に入った彼女たちを保護するのは当然のことです。むしろ、この巡りあわせには感謝もしています」
「私も紫陽や黒羽には助けてもらいました。改めてありがとうございます」
三者三様にお礼を言い合う状態が少しだけおかしくて笑みがこぼれた。張り詰めていた空気が僅かに軽くなる。
「それでガロン殿。貴方がこちらにいらっしゃったのは、ドルバイド帝国に対抗するための協力関係を結ぶ……ということでよろしいので?」
ガロンたちシャスタニアの戦士団が桜花皇国へ来た理由は紫陽が簡単に説明している。
陽炎の問いかけはそれに対する確認のようなものだ。
「はい。我々獣公国シャスタニアは獣人国家の中でも人との融和を目指しています。ですが、それはあくまで友好を示してくれた相手のみ。力で侵攻し領土を広げようとするドルバイド帝国は、何度か衝突していることもあって敵対しているに等しいです。勇者の問題もあり、このまま放置することはできませんし、そろそろ人間の国とも関係を築いてもいいかと」
陽炎はガロンの言葉に思い当たる部分があるらしく「確かに放置はできませんね」と呟く。
「最近海のほうでもドルバイド帝国の紋章をつけた船を見かけることが多くなりました。それに勇者についても無視をできる存在ではありません。なので、私としても新しい関係を築くことには賛成なのですが……陛下がいない今、話を進めることは難しいのです。数日で戻るので、それまでは水面下での打ち合わせになるかと」
陽炎は大まかに桜花皇国の政治的な体制を説明してくれた。
桜花皇国も他国と同じように最高位にあたるのが皇帝で、その下に各分野の最高位である大臣のような人が複数いるらしい。
そして、桜花皇国独自の大きな影響力を誇るのが巫女もしくは禰宜といった存在だそうだ。直接指示や決定などはできないが、方針を指し示す相談役に近いらしい。
「それで構いません。話し合い自体は大使に任せるつもりなので期間が長くなっても大丈夫です」
それからガロンと陽炎は少しだけ話し合いを行い、細かい話は後日に改めて行うこととなった。
話し合いが終わった頃には夕食時となっていたため、そのまま食事を呼ばれることになる。
ガロンや紫陽たちと一緒に私も応接間から食堂に移動しようとする。すると陽炎が「ティア殿、少しだけ時間をいただきたい」と言って呼び止めてきた。
「構いませんけど……」
正直なところ陽炎に呼び止められる理由が思いつかない。私が桜花皇国と関係しているものとすればプレアデスとの契約くらいだが、あれも精霊を尊重するということだから違うだろう。
「娘が色々と世話になった。助けてくれたこともそうだが親しくしてくれていることも含めてな。ささやかではあるが私からの礼だと思って欲しい」
陽炎はそう言って懐から小瓶のようなものを差し出してくる。
「これは?」
瓶を受け取ってよく見てみると、薄っすらと桜色に染まっている液体が入っているようだった。中身の検討が全くつかない。
「それは億年桜の樹液から作られた霊薬だ。生命力と魔力を大きく回復するその薬があれば、短時間なら全力を出せると思う」
「なっ!?そのような貴重品をもらうわけにはいきません!」
私がラティアーナだった頃でさえ生命力を回復させる薬など見た事がない。貴重すぎて恐らく値段もつかないような代物だと感じて慌てて返そうとするが、陽炎は首を横に振る。
「一つくらいなら問題ない。むしろ他にも何か礼がしたいくらいだが……何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「……分かりました。では、ありがたくいただきますね」
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