王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第12章 私を見つけるための旅

14 霊刀・桜月

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 陽炎との話を終えた私は、そのまま皆と合流して夕食を共にした。桜花皇国の料理はどちらかというと和食が多く魚などの海鮮料理が主となっているらしい。
 久しぶりに白米や刺身といったものを堪能することができた。

「そういえばティア殿は、あと二日はどう過ごされますか?」

 食後のお茶を飲んでいると陽炎が尋ねてくる。

「そうですね……明日は調べ物でもしに街へ行こうかと思っていて、明後日は紫陽や黒羽と一緒に街を散策しようかと」

 三日後には桜花皇国を発つ予定だ。
 元々、桜花皇国を訪れたのは紫陽たちを送り届けることが目的だった。それを達成した今、寂しさは感じるが自身のために進むしかない。

「本当は私たちで案内したいのですが……」

「仕方ないよ。二人は久々の帰国でやることもたくさんあるだろうし。最後の日だけでも一緒に過ごせて嬉しいよ」

 紫陽も黒羽も色々と報告など各所を回らないといけないらしい。そこにドルバイド帝国の問題や獣公国シャスタニアとの協力などでやることがたくさんあるようだった。
 むしろ、しばらくの間は仕事詰めになる中で一日だけでも私との時間を作ってくれただけでもありがいと思っていた。



 翌日の朝。
 私は朝食をいただいた後に、一人で街へと出向く。目指すのは鍛冶屋と図書館で、どちらも陽炎や紫陽に紹介してもらった場所だ。

 貰ったメモを頼りに歩くこと半刻ほど。まるで旧家のような造りをした建物が見えてくる。

「あれが桜花皇国の筆頭鍛冶師がいる鍛冶屋……」

 鍛冶屋を訪れた理由は私の愛刀である夜月のことを聞くためだ。元々は桜月と呼ばれていた桜陽と対になる霊刀。
 桜花皇国の筆頭鍛冶師は代々霊刀に関する知識を継承しているらしい。

 建物の中に入ると少し薄暗い空間が広がっていた。壁には多数の刀が飾ってあって棚にはクナイのような小刀などが置いてある。

「すいません……」

 店の奥に人の気配を感じた私は声を掛けてみる。すると、人の気配が近付いてきた。

「悪いが外から来た奴に売るもんはないぞ……ってどういう奴が来たのかと思ったら嬢ちゃんかい」

 奥から出てきたのはスキンヘッドな老齢のお爺さんだった。だが、かなり鍛えられた身体をしていて衰えているような雰囲気が一切ない。
 そんな相手は少し戸惑ったような表情で問いかけてきた。

「陽炎さんの紹介できました」

「陽炎の坊主の紹介とか珍しいこともあるもんだ」

 驚きつつも警戒もしていそうだったが、陽炎に書いてもらった紹介状を渡すと少しだけ表情が和らいだ気がした。僅かにだが視線に優しさを感じる。

「本物のようだな……俺は、この国の筆頭鍛冶師の斑だ。だが、いくら陽炎の坊主の紹介でも刀は打たんぞ?」

「すいません。何かを作って欲しいというわけではなくて……私はティアと言います。こちらには霊刀・桜月について話を聞きたくてきました」

「桜月だと?あれは大昔に持ち出された刀だ。この国の上層部や俺たちのような極一部しか知らないはずだが……ティアはどこで知った?」

 桜月という名前を出した瞬間に斑の纏う空気が変わった。何かを見極めようとするような雰囲気だ。
 斑の視線も私の一挙一動を見逃さないような鋭いものになっている。

「私の故郷に夜月と呼ばれている妖刀があります。その刀は昔から様々な人の手に渡り色々な場所を共に旅をしていたそうです」

「……その夜月ってのが桜月だと?」

「プレアデス……私が契約している精霊の話ではそうだろうと」

 私が精霊と言葉にした瞬間、斑は驚くと共に納得の表情を浮かべた。この国では精霊が大事にされていると聞いていたが、どうやら私が考えていたよりも精霊の影響が大きいのかもしれない。少なくとも精霊の言葉を疑うことはしないようだ。

「それは……信じるしかないだろうな。ここで話をするのもあれだ。奥に来てくれ」

 斑はそう言うと屋敷の中へ案内してくれた。そのまま少し待っていると、飲み物を持ってきてくれたようだった。器の中には桜の花びらが浮いていて香りがとてもいい。

「悪いが人を迎えることが少なくてな。これしかないんだが……口に合わなかったからすまない」

「ありがたくいただきます……甘くて美味しいです」

 飲んだ瞬間、桜の香りが口の中に広がって心地よい甘さが染み渡るようだった。ポカポカと身体が温かくなるような感じもする。

「これが甘いか。珍しいな」

「珍しい?人によって味が違うのですか?」

「ああ。億年桜の散った花弁を使っているからな。霊力が多分に含まれた物の味は人によって変わるんだ」
 どうやら魔力の属性が少ないほど苦くなり多いほど甘くなるらしい。しかも、自身の持つ属性と離れていても苦くなり近いほど甘く美味しく感じるそうだ。

「このお茶は身体にとても良いんだが人によっては苦すぎて嫌いな人も多い。逆に苦味が好きな人もいるんだが、何にせよ口にあったなら良かった。さて、桜月についてだったな……まず、嬢ちゃんはどこまで知っているんだ?」

「億年桜の枝から作られた霊刀で桜陽と対になる刀だということくらいです」

「ふむ……桜陽のことは能力も知っているんだよな?」

「はい。紫陽や黒羽たちと一緒にいて何度か戦っているところを見ましたし、桜陽を借りたこともあります」

 桜陽の能力は持ち主の魔力を蓄え続けて一気に解放するというもの。
 使い慣れた紫陽や黒羽であれば、満開の桜が散華するように溜めた魔力を花弁として展開することもできる。魔力が圧縮された花弁は、燃料にも刃にも盾ともなる攻防一体の力だ。

「ほう?桜陽を扱ったのか。あれは並みの人間が握ると無条件に力を吸い取るんだが……よほど力の制御が上手いらしいな」

「元々、夜月を使ってましたから。握った瞬間に力を吸い取る刀は慣れていますので」

「ちょっと待て!?夜月……つまり桜月を使っていただと!?」

 斑は驚いたように声を荒げるが、私は昔の話で今は持っていないと伝えた。
 前世のことを話さずに説明するのは難しく、このように説明するしかないからだ。

「夜月はどうも今までの持ち主の怨念と言うか負の感情に染まっていて、邪気を放つ刀になっています。触れたもの全てを喰らおうとする妖刀です」

「全てを喰らうのは桜月の力だろうな。桜陽が億年桜の花を咲かせるという面が強く出ているのに対し、桜月は周囲から栄養を収集するという部分が強いと言われている。嬢ちゃんは伝承を知っているか?」

「伝承……ですか?」

「ああ。桜の木の下には死体が埋まっているってものだな」
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