王女の夢見た世界への旅路

ライ

文字の大きさ
458 / 494
第13章 2度目の学園生活

68 帰城命令

しおりを挟む
 私とコルネリアスの想いが通じ合った翌日。
 王立学園の休日である闇の日ということでコルネリアスと2人で出掛ける約束をしていた。
 初めてのデートということで持っている服の中でも一番可愛らしいワンピースを着て寮の前にあるベンチで待ち合わせをする。
 まるで恋愛物語に出てくるような状況に心が踊っているなかで、少しでも落ち着こうと本を読んで時間まで待つことにした。

「ティア!すまない!」

 しばらくすると走ってきた彼は申し訳なさそうに謝ると私の前で頭を下げる。
 けれど、長い間待っていたのは私が約束の半刻近く前にいたのが理由でコルネリアスが遅れたわけではない。そもそも、現在の時刻でも約束した時間よりは早いくらいだ。

「そ、そんなに慌ててどうしたの?」

 あまりに慌てた様子に心配になった。心当たりがなかったため、とりあえず理由を聞いてみるとコルネリアスは顔色を悪くしながらも口を開いた。

「今日のデートに行けなくなった……父上から帰城命令が下されたのだ」

 どうやら、ついさっき影からの伝達で帰城命令が届けられたらしい。それも王立学園にある転移陣の使用が認められるほどの緊急の帰城命令だそうだ。

「このタイミングとなると……」

「ああ。十中八九は私とティアのことだろうと思うが……ここまで急ぎの理由がわからない」

 コルネリアスのことを陰ながら見守っている王の影は、護衛をすると同時に国王への報告も兼ねている。リーファスは王立学園で起きたほぼ全てを把握しているわけで、正式に関係を進めようとしている私たちに対して何かしらの干渉をしてきてもおかしくはないだろう。
 けれど、いつも通りに馬車を使ってではなく転移陣を使ってとなるとよほどの事態ということになる。

「何があったのか分からないけれど、緊急事態なのだろうし私のことは気にしなくていいよ。行ってきて」

「ありがとう……父上が何をしようとしているのか不安だが、ある意味で好機でもある。父上に認めさせることが第一歩だからな」

「そうだね……私たちのためにも頑張って」

「ありがとう。この埋め合わせはいつか必ず」

 コルネリアスはそう言うと本校舎の方へ去っていった。本校舎の地下には王鍵と繋がっている基幹の魔術具が存在する。その近くには結界の制御装置なども存在しており転移用魔術具が置かれている部屋もあった。
 そこから王城にある転移の間へと空間転移をするのだろう。

「さて……どうしようかな」

 コルネリアスのことを見送った私は予定がなくなった今日と明日の休日をどう過ごそうかと悩む。
 コルネリアスへの帰城命令に関係しているのか、少し離れた場所から王の影の一部が私の様子を探っているのだ。
 ブラッドのように気配を完全に消すことはできていないが王の影に所属している時点で隠密部隊としては相当な実力を持っているということになる。やりようにやっては街中でも監視を撒くことも可能だが、下手なことをして相手の警戒を強めてしまうことは避けたい。

「ん?」

「あれ?ティアじゃない!これからお出かけ?」

 見知った気配を感じて振り返るとマリアがいた。
 マリアは見慣れた制服と腰には短剣と短い杖という、どこかに戦いにでも行くかの格好だった。

「コルネリアスと出掛けるつもりだったんだけど急用みたいでね。マリアは街の外にでも行くの?」

「うん。この前の演習で力不足を感じだからね。少し前に冒険者登録したんだ」

 マリアは2週間ほど前に冒険者登録したらしく休日など時間があるときに依頼を受けているそうだ。今はEランクでゴブリンのような下位の魔物の相手がほとんどだが一人でも戦えるように特訓しているらしい。
 魔力が高いとはいえマリアは防御や治癒など支援に特化した魔術使いに分類されるタイプだ。単独での戦闘となれば一筋縄ではいかないはずで少し心配に思えた。

「私も付いていっていい?」

「むしろありがたいくらいだけど……良いの?」

「マリアと依頼を受けるのも楽しそうだから。それに、たまにはギルドにも顔を出しておきたいからね」

 そう言って私たちは、そのまま学園都市にある冒険者ギルド支部に向かった。
 マリアは既に何回も通っているようだが、私は王立学園に入学してから冒険者ギルドを訪れていなかったため初めて入る場所だ。
 ラティアーナの頃にも使ったことがなく本当の意味で初めて利用することになる。

「マリアちゃんいらっしゃい!」

 ギルド支部に入ってカウンターに向かうと受付嬢の一人が声を掛けてきた。
 どうやらマリアとは親しい間柄のようで「久しぶり!」と嬉しそうに話している。

「お隣のお嬢さんはマリアのお友達ですか?」

「そう。私と同じで王立学園に通っていてクラスメイトなの」

「どうもティアです。はじめまして」

 私は挨拶をしながら魔法袋の中からプレートを取り出してカウンターの上に置く。

「はじめまして。冒険者の方だったのですね。私は受付担当のリリィです……っと、ティアさん宛てにお手紙が来てますね。少々、お待ちください!」

 冒険者ギルドには各支部ごとにギルドプレートを管理するための魔術具が設置されている。私の詳しい仕組みまでは知らないが支部ごとに通信を可能にしていて冒険者ギルド全体のネットワークのようなものを構築しているらしい。
 そして、その機能を利用してギルドでは冒険者に対してギルド間でのメッセージのやり取りを提供していた。イメージとしては電報のようなもので紙一枚くらいであれば銅貨一枚くらいで利用できるものだ。

「お待たせしました。こちらをどうぞ」

「ありがとうございます」

 リリィから一枚の紙を受け取って中身を確認すると、思わず笑みが溢れた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

処理中です...