王女の夢見た世界への旅路

ライ

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第13章 2度目の学園生活

88 真っ白な手紙

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 貴族街を離れた私は王都で馴染みのある場所を巡ることにした。
 まず最初に向かったのは、貴族街からそれほど遠くない王都中央にあるドルマク工房だ。
 工房の中に入り店番をしていた女性に声を掛けるとドルマがやってきた。

「ティア待たせたな」

「こんにちは。用事があって王都に来たので様子を見に来ました」

「今のところは順調に進んでいるな。このままいけば年内にはギリギリ間に合いそうだ」

「思ったよりも早くて助かります」

 当初の予定だと冬に完成すると言っていたことから年明けくらいにはなるかと思っていた。やはり相棒の二振りが揃っている時の安心感は桁違いなため、早く戻ってきてくれることは素直に嬉しいものだ。

 ドルマと世間話をしてからは冒険者ギルド支部へ向かった。
 ギルドに掲示されている情報を確認するのはいつものことだが、今回からは依頼の確認も行うつもりだった。
 これには単純な理由があって、コルネリアスと結婚するためには、嫁入りする時の持参金が必要になるからだ。
 私の隠れ家には、ラティアーナの頃に集めていたお金や宝石類がそれなりにある。これらを全て合わせれば裕福な貴族がすぐに動かすことができるくらいの資金にはなるだろう。
 けれど、ただの孤児である今の私が用意したとなれば不自然すぎて疑いの目を向けられるはずだ。

「ようこそ。冒険者ギルド支部へ」

「こんにちは。報酬が高い依頼を見せてもらえませんか?」

「ティアさんですね……少々お待ちください」

 受付嬢は私のギルドプレートを確認するとカウンターの奥の部屋から手紙のような物を持ってきてカウンターに置いた。

「ティアさん宛に手紙をお預かりしています」

 渡された手紙は封蝋で厳重に閉じてある手紙だった。
 送り主は書かれていないが封蝋がされているところを見るに位が高い人からの手紙らしい。

「珍しいですね。これって誰からの手紙ですか?

「……このギルドで受け付けられていますが差出人は書かれていないですね」

 冒険者ギルドでは簡単な個包の受け渡しも行っている。アイラとのやり取りに使用しているメッセージと違って現物のやり取りをするため小金貨1枚からと高い相場となっているが、冒険者登録していなくても送ることができるため人によっては重宝されているらしい。

「そうですか……ありがとうございました」

「どういたしまして。それで依頼でしたね。ティアさんが受注できる依頼はこちらになります」

 受付嬢が見せてくれた一覧の中から良い条件の依頼があるか確認をする。
 Dランクが単独で受注できる依頼は少し驚異度の高い魔物の討伐までだが、納品系の依頼はランクに関係なく全て受注することができる。その中で狙い目となるのは地理的に複雑な場所にあったり採取そのものが難しい依頼だ。

「あれ……この依頼って」

 一覧を流し見していると報酬が金貨30枚という破格の依頼を目に入った。
 内容は希少な薬の原料となる薬草の納品で、納期が今から二月までと余裕がある点も有難い。これであれば今依頼を受けて次の休日に採取に向かうこともできそうだ。

「その依頼は危険なのでやめておいたほうが良いと思いますよ。納品依頼なのでランク制限がありませんが、薬草の主な生息地が惑いの森となっています。あの場所は古代種を始めとした強大な魔物が蔓延る魔境です。さらには森そのものが魔力を持っていて、五感が狂わされます。支援系の魔術が使えるAランクパーティー以上でなければ、まともに探索できない地ですね」

 納品系の依頼は現物さえあれば採取以外の方法でも構わない。例えば自分で栽培したり持っていたりした物を納品しても問題ないわけだ。そうした理由から依頼の受注にはランク制限が存在しなくなっている。
 ギルドの職員としては受注条件を満たしているため見せるしかないが、冒険者を見殺しにしないためにも善意で教えてくれているのだろう。
 けれど、私にとっては願ってもない依頼だ。

「この依頼を受けさせてください。惑いの森に入ったことはあるので危険は重々承知していますから」

「……わかりました。くれぐれも魔物との戦闘は避けて無事に帰ってきてくださいね。手付金は戻らなくても命あってのお金なんですから」

 冒険者ギルドの規則に沿っている以上は、受付嬢の独断で受注を拒否することはできない。
 小金貨3枚を受け取った受付嬢は、心配そうな表情を浮かべて何度も念押ししながらも、依頼の受注を受け付けてくれた。

「ありがとうございました」

「お気をつけて」

 冒険者ギルド支部を後にした私は、そのまま宿の部屋へ向かった。
 惑いの森での採取は、移動や現地での探索に時間がかかる。今からだと明後日の王立学園の授業に間に合わないため、次の週末に王立学園から直行するつもりだ。
 それよりも今は先ほどの受け取った手紙を確認したい。

「さて、誰から……ん?」

 封蝋を外して折りたたまれていた紙を開くが、その中には何も書かれていない真っ白な手紙しか入っていなかった。
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