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第13章 2度目の学園生活
89 隠された内容
しおりを挟む「何か仕掛けでも……そういうことか」
解析魔術を行使すると魔力が込められた透明なインクで文字が書かれていることが分かった。
これは魔力を込めると仄かに光る性質があるインクで、エスペルト王国の紙幣などにも利用されている仕組みだ。
とはいえ、王国で使われている物のように純度が高かったり偽造防止用の魔術が込められていたりするわけではない。高価ではあるが貴族でなくても手に入れられる物だ。
灯りを全て消して窓のカーテンを閉めれば部屋全体を暗くする。その状態で魔力を流せば、手紙全体に薄らと文字群が浮かび上がった。一見すると繋げても単語として成立しないただの文字の羅列だ。
けれど、私がかつて使用していたコードブックの当てはまれば意味のある言葉へと置き換わる。
これは、いわゆるヴィジュネル暗号と呼ばれるものでラティアーナ専属の近衛騎士団だけで使っていた暗号だ。
今の私の正体を知っていて近衛騎士団に所属していた騎士はカレナ一人だけ。そしてカレナからはカード状の通信用魔術具を受け取っていた。
カレナから送られたであろう手紙には、会って話をしたいから返事が欲しいと書かれている。魔術通信どころか手紙にも詳細を書かれていないことを考えると余程の話なのだろう。
「問題はどこで会うか……かな」
返事自体は冒険者ギルドを経由すれば良いとして、問題は私に付けられている王の影の部隊だ。撒くことは難しくないが、変な動きを見せればリーファスへ報告されかねない。
自然な形でカレナと会って話をする必要がある。
「……ちょうど良いから協力してもらおうかな」
Sランク冒険者であるカレナとの接点は公にはしていないが秘匿しているわけでもない。セルスト王国での雷龍からの防衛戦は公式の記録として残っており王女であるサングレアも知っていること。仮に問合せされたとしても事実であると証明されるだけだ。
私用に付き合わせるのは申し訳なくも感じるが、惑いの森の中であれば王の影による監視も難しくなる。依頼の協力という形で会って話せば怪しまれることもないだろう。
私は学園都市に戻る前にもう一度王都の冒険者ギルド支部に立ち寄り、カレナ宛にメッセージを送ることにした。
休暇が明けて数日経つと平和な日々が訪れるようになった。
王立学園ではアスカルテとクラウディアが流した噂で持ちきりになっていて、私やアスカルテに関する不穏な噂は息を潜めている。
元々、誰が流したのかも分からない根も葉もない噂だ。
こうして私とアスカルテが和気藹々とお茶をしているだけで、当初の噂は否定され新しい噂の確実性が増すことになる。
「相変わらず注目は浴びているけど……下手に干渉されないっていいよね」
王立学園の庭園にあるガセポは少し離れた場所からでも見える位置にある。こうして紅茶を飲んでいると生徒たちの視線が向けられていることをよく感じるものだ。
「想像以上に効果がありましたからね」
紅茶を飲みながら呟くとアスカルテも苦笑しながら頷いてくれた。
アスカルテとしても短時間でここまで落ち着いたことは驚きだったらしい。いくらクラウディアの助力も得て噂が広まったとしても周りからの反発が大きいと考えていたそうだ。
「アスカルテを慕っている令嬢が多くて助かったよ。コルネリアスの人気を考えると嫉妬が凄そうだからね」
噂が浸透するまでの二日間くらいは、他の令嬢たちから呼び出されることが何度かあった。そのほとんどは私を利用しようとしていた令息たちの婚約者かアスカルテを慕っていた令嬢たちだ。
声をかけてきていた令息たちが私から離れれば彼らの婚約者は何もしてこない。
アスカルテを慕っていた彼女たちも、アスカルテが望んでいることなら応援するというスタンスらしく思いの外、敵意を向けられることは減っていた。
未だに敵意を向けてくるのは、コルネリアスを狙っている令嬢たちくらいだ。
「嫉妬で済めば良いのですけどね……」
「手を出してくれるなら、むしろありがたいかな。貸しを作る良い機会になる」
嫌がらせが露見しても罪にはならないだろうが醜聞にはなる。貴族を糾弾するためには確たる証拠が必要だが、上手く利用すれば貴族家自体を味方に引き込むこともできるはずだ。
「婚約のための味方づくりですか」
「嫉妬を利用して王立学園の敵対勢力を取り込む。あとは……」
「夏の社交で大貴族を味方につける……ですか」
「うん。もうそろそろ覚悟を決めないとね」
私はアスカルテの言葉に大きく頷く。
これはコルネリアスとアスカルテと三人で話して考えていたことだった。
二人が王太子とその婚約者として王立学園の夏季休暇の間に公務で王国内の領地を巡ることになっている。
マギルス公爵家やノーティア公爵家、スエンティア公爵家をはじめとした国境沿いの大領地との社交は、今の私たちにとっては何としても味方にしたいところだった。
名目上は二人の友人として、実質はコルネリアスの恋人兼アスカルテの親友として新しい縁を紡ぐ。
リスクはかなり高いが今の私たちにとって目的を達成するために必要なことだ。
解析魔術を行使すると魔力が込められた透明なインクで文字が書かれていることが分かった。
これは魔力を込めると仄かに光る性質があるインクで、エスペルト王国の紙幣などにも利用されている仕組みだ。
とはいえ、王国で使われている物のように純度が高かったり偽造防止用の魔術が込められていたりするわけではない。高価ではあるが貴族でなくても手に入れられる物だ。
灯りを全て消して窓のカーテンを閉めれば部屋全体を暗くする。その状態で魔力を流せば、手紙全体に薄らと文字群が浮かび上がった。一見すると繋げても単語として成立しないただの文字の羅列だ。
けれど、私がかつて使用していたコードブックの当てはまれば意味のある言葉へと置き換わる。
これは、いわゆるヴィジュネル暗号と呼ばれるものでラティアーナ専属の近衛騎士団だけで使っていた暗号だ。
今の私の正体を知っていて近衛騎士団に所属していた騎士はカレナ一人だけ。そしてカレナからはカード状の通信用魔術具を受け取っていた。
カレナから送られたであろう手紙には、会って話をしたいから返事が欲しいと書かれている。魔術通信どころか手紙にも詳細を書かれていないことを考えると余程の話なのだろう。
「問題はどこで会うか……かな」
返事自体は冒険者ギルドを経由すれば良いとして、問題は私に付けられている王の影の部隊だ。撒くことは難しくないが、変な動きを見せればリーファスへ報告されかねない。
自然な形でカレナと会って話をする必要がある。
「……ちょうど良いから協力してもらおうかな」
Sランク冒険者であるカレナとの接点は公にはしていないが秘匿しているわけでもない。セルスト王国での雷龍からの防衛戦は公式の記録として残っており王女であるサングレアも知っていること。仮に問合せされたとしても事実であると証明されるだけだ。
私用に付き合わせるのは申し訳なくも感じるが、惑いの森の中であれば王の影による監視も難しくなる。依頼の協力という形で会って話せば怪しまれることもないだろう。
私は学園都市に戻る前にもう一度王都の冒険者ギルド支部に立ち寄り、カレナ宛にメッセージを送ることにした。
休暇が明けて数日経つと平和な日々が訪れるようになった。
王立学園ではアスカルテとクラウディアが流した噂で持ちきりになっていて、私やアスカルテに関する不穏な噂は息を潜めている。
元々、誰が流したのかも分からない根も葉もない噂だ。
こうして私とアスカルテが和気藹々とお茶をしているだけで、当初の噂は否定され新しい噂の確実性が増すことになる。
「相変わらず注目は浴びているけど……下手に干渉されないっていいよね」
王立学園の庭園にあるガセポは少し離れた場所からでも見える位置にある。こうして紅茶を飲んでいると生徒たちの視線が向けられていることをよく感じるものだ。
「想像以上に効果がありましたからね」
紅茶を飲みながら呟くとアスカルテも苦笑しながら頷いてくれた。
アスカルテとしても短時間でここまで落ち着いたことは驚きだったらしい。いくらクラウディアの助力も得て噂が広まったとしても周りからの反発が大きいと考えていたそうだ。
「アスカルテを慕っている令嬢が多くて助かったよ。コルネリアスの人気を考えると嫉妬が凄そうだからね」
噂が浸透するまでの二日間くらいは、他の令嬢たちから呼び出されることが何度かあった。そのほとんどは私を利用しようとしていた令息たちの婚約者かアスカルテを慕っていた令嬢たちだ。
声をかけてきていた令息たちが私から離れれば彼らの婚約者は何もしてこない。
アスカルテを慕っていた彼女たちも、アスカルテが望んでいることなら応援するというスタンスらしく思いの外、敵意を向けられることは減っていた。
未だに敵意を向けてくるのは、コルネリアスを狙っている令嬢たちくらいだ。
「嫉妬で済めば良いのですけどね……」
「手を出してくれるなら、むしろありがたいかな。貸しを作る良い機会になる」
嫌がらせが露見しても罪にはならないだろうが醜聞にはなる。貴族を糾弾するためには確たる証拠が必要だが、上手く利用すれば貴族家自体を味方に引き込むこともできるはずだ。
「婚約のための味方づくりですか」
「嫉妬を利用して王立学園の敵対勢力を取り込む。あとは……」
「夏の社交で大貴族を味方につける……ですか」
「うん。もうそろそろ覚悟を決めないとね」
私はアスカルテの言葉に大きく頷く。
これはコルネリアスとアスカルテと三人で話して考えていたことだった。
二人が王太子とその婚約者として王立学園の夏季休暇の間に公務で王国内の領地を巡ることになっている。
マギルス公爵家やノーティア公爵家、スエンティア公爵家をはじめとした国境沿いの大領地との社交は、今の私たちにとっては何としても味方にしたいところだった。
名目上は二人の友人として、実質はコルネリアスの恋人兼アスカルテの親友として新しい縁を紡ぐ。
リスクはかなり高いが今の私たちにとって目的を達成するために必要なことだ。
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