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異世界の環境改革
忘れたれた存在
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部族の争いが収まり、エミリたちが魔王城へ向かったちょうどその頃。
魔族領との境界線近くにあるナフレア町の外れの領主館では、王都からの一通の手紙と、町全体を包囲するほどの騎士団が到着していた。
「……国王は、なんと?」
手紙を手にして目を通していたエルヴィンに、領主デラルドが険しい顔で問いかける。
「『独立など認めぬ。魔石を献上せよ。魔族に操られているのではないか?一日だけ待つが、それ以上は斬り伏せる。処罰は覚悟せよ』――要約すると、そんなところだ」
エルヴィンは肩をすくめ、呆れ半分に手紙を差し出した。
「予想通りとはいえ……これほどの兵を動かして、王都は大丈夫なのでしょうかね」
優雅な所作で茶を淹れていたアレイスが、微笑を浮かべつつも冗談めかした声でそう呟く。
「この状況を逆に利用して、魔王様に王都を攻めさせたくなるな。そうでもしないと、あの国は変わらん……。都合の良いことを捏造し、都合の悪いものは力で押し潰す。そんなやり方でしか威厳を保てぬ父上の気がしれん」
「国王もまた、それを正義と信じるよう育てられたのでしょう。積み重ねられた何百年もの常識は、そう簡単には崩せません」
デラルドは溜息をつき、静かに続ける。
「だが川の水も流れを失えば澱むように、人も国も時代に合わせて変わらねば、いずれ滅びます。……エミリ殿が異世界から現れたのも、神が与えた転機かもしれませんな」
エルヴィンは苦笑し、首を横に振った。
「神、ね。偶然を“必然”に言い換えたい人間が作った便利な物だ。……俺は形のないものは信じん。ただ、エミリ殿がいなければ、人間である俺たちが魔族と交流し、真実を知ることはなかったのは確かだ。その意味じゃ、エミリ殿を神として拝んでもいいかもな」
「ふふ……帰ってきたら、一度拝んでみましょうか」
魔族の村で拝まれていたエミリの姿を思い浮かべ、エルヴィンとアレイスは思わず吹き出した。
そんな和やかな空気の中、デラルドがふと真顔に戻る。
「……そういえば。エミリ殿は、魔術師ディラン殿をこの館に軟禁していること、覚えてくれているでしょうか」
「旅立つとき、後回しと言っていたが……正直、忘れているだろうな」
「……なら、我々で対処せねばならんということですな」
同じ頃――。
領主館の一室では、カリア王国魔術師ディランが窓辺から町を眺めていた。
魔石を封じられ、自由を奪われて久しい。
彼に残された日課といえば、こうして外を眺めることくらいだった。
「今日は……食料運搬の日だったな」
そう呟いた矢先、館を取り囲む騎士を軽々と吹き飛ばしながら、魔族の搬送役がこちらへと歩いてくるのが見えた。
数分後。
扉を叩く音が響く。
「入れ」
返事をすると、先ほどの魔族の青年が大きな包みを抱えて入ってきた。
「これ、頼まれてた本です!」
無邪気な笑顔で差し出された本を受け取り、ディランは思わず口元をほころばせる。
「助かる。魔族の書物は実に興味深い」
「そうですか?俺なんか二秒で眠くなりますけど!」
自信満々に言う青年に、ディランは鼻を鳴らして小さく笑った。
「……人間に魔族の知識を渡すことに、抵抗はないのか?その知識で魔族を害するかもしれんぞ」
青年はきょとんと首を傾げ、すぐに笑顔を取り戻す。
「え?その時はもっと強い魔法で叩きのめすだけですから、大丈夫です!」
そう言い残し、軽やかに去っていく。
――軟禁されたばかりの頃なら、魔族と談笑したり、本を借りたりするなどあり得なかった。
魔族は獣にも劣る存在。殺戮と暴虐を好む怪物。そう信じて疑わなかったのだから。
だが、接してみれば違った。
彼らは人間とさほど変わらない。むしろ単純で裏表がなく、腹の探り合いも必要としない。
「王宮にいるよりよほど過ごしやすいとはな……皮肉なものだ」
忙しすぎるエミリが「後で」と放置した結果が、こんな形で実を結ぶとは――。
誰が予想できただろうか。
魔族領との境界線近くにあるナフレア町の外れの領主館では、王都からの一通の手紙と、町全体を包囲するほどの騎士団が到着していた。
「……国王は、なんと?」
手紙を手にして目を通していたエルヴィンに、領主デラルドが険しい顔で問いかける。
「『独立など認めぬ。魔石を献上せよ。魔族に操られているのではないか?一日だけ待つが、それ以上は斬り伏せる。処罰は覚悟せよ』――要約すると、そんなところだ」
エルヴィンは肩をすくめ、呆れ半分に手紙を差し出した。
「予想通りとはいえ……これほどの兵を動かして、王都は大丈夫なのでしょうかね」
優雅な所作で茶を淹れていたアレイスが、微笑を浮かべつつも冗談めかした声でそう呟く。
「この状況を逆に利用して、魔王様に王都を攻めさせたくなるな。そうでもしないと、あの国は変わらん……。都合の良いことを捏造し、都合の悪いものは力で押し潰す。そんなやり方でしか威厳を保てぬ父上の気がしれん」
「国王もまた、それを正義と信じるよう育てられたのでしょう。積み重ねられた何百年もの常識は、そう簡単には崩せません」
デラルドは溜息をつき、静かに続ける。
「だが川の水も流れを失えば澱むように、人も国も時代に合わせて変わらねば、いずれ滅びます。……エミリ殿が異世界から現れたのも、神が与えた転機かもしれませんな」
エルヴィンは苦笑し、首を横に振った。
「神、ね。偶然を“必然”に言い換えたい人間が作った便利な物だ。……俺は形のないものは信じん。ただ、エミリ殿がいなければ、人間である俺たちが魔族と交流し、真実を知ることはなかったのは確かだ。その意味じゃ、エミリ殿を神として拝んでもいいかもな」
「ふふ……帰ってきたら、一度拝んでみましょうか」
魔族の村で拝まれていたエミリの姿を思い浮かべ、エルヴィンとアレイスは思わず吹き出した。
そんな和やかな空気の中、デラルドがふと真顔に戻る。
「……そういえば。エミリ殿は、魔術師ディラン殿をこの館に軟禁していること、覚えてくれているでしょうか」
「旅立つとき、後回しと言っていたが……正直、忘れているだろうな」
「……なら、我々で対処せねばならんということですな」
同じ頃――。
領主館の一室では、カリア王国魔術師ディランが窓辺から町を眺めていた。
魔石を封じられ、自由を奪われて久しい。
彼に残された日課といえば、こうして外を眺めることくらいだった。
「今日は……食料運搬の日だったな」
そう呟いた矢先、館を取り囲む騎士を軽々と吹き飛ばしながら、魔族の搬送役がこちらへと歩いてくるのが見えた。
数分後。
扉を叩く音が響く。
「入れ」
返事をすると、先ほどの魔族の青年が大きな包みを抱えて入ってきた。
「これ、頼まれてた本です!」
無邪気な笑顔で差し出された本を受け取り、ディランは思わず口元をほころばせる。
「助かる。魔族の書物は実に興味深い」
「そうですか?俺なんか二秒で眠くなりますけど!」
自信満々に言う青年に、ディランは鼻を鳴らして小さく笑った。
「……人間に魔族の知識を渡すことに、抵抗はないのか?その知識で魔族を害するかもしれんぞ」
青年はきょとんと首を傾げ、すぐに笑顔を取り戻す。
「え?その時はもっと強い魔法で叩きのめすだけですから、大丈夫です!」
そう言い残し、軽やかに去っていく。
――軟禁されたばかりの頃なら、魔族と談笑したり、本を借りたりするなどあり得なかった。
魔族は獣にも劣る存在。殺戮と暴虐を好む怪物。そう信じて疑わなかったのだから。
だが、接してみれば違った。
彼らは人間とさほど変わらない。むしろ単純で裏表がなく、腹の探り合いも必要としない。
「王宮にいるよりよほど過ごしやすいとはな……皮肉なものだ」
忙しすぎるエミリが「後で」と放置した結果が、こんな形で実を結ぶとは――。
誰が予想できただろうか。
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