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異世界の環境改革
雨降って地固まる
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「せっかく魔王様に謁見できるというのに、お前と同行だと思うと気が滅入る」
「それはこっちの台詞だ。俺ひとりで十分だ、わざわざお前が出しゃばる必要はない」
祭りから数日後。
両部族の共通の聖地にて、ゼル族の族長プーラと、アラン族の族長グラズがまたもや火花を散らしていた。
和解を果たしたはずの二人だったが、長年積み重ねた癖はそう簡単には抜けない。
まるで呼吸をするように、互いを罵り合ってしまうのだ。
その横で荷物の最終確認をしていたエミリは、たまらず顔を上げる。
「私の国では、“嫌よ嫌よも好きのうち”って言葉があるんですよ」
「「はぁ!?」」
二人が同時に声を上げると、エミリはぱっと笑顔になった。
「ほら!声までぴったり揃ってます!
本当に嫌いなら無視すればいいのに、わざわざ言い争うってことは……つまり仲良しなんですよ。ね?」
プーラとグラズは同時にむっとした顔を向けたが、反論が出てこない。
代わりに「仲良しなどではない!」と声を重ねて言い張った。
「……くくっ」
そんな二人の様子を見て、エネルがついに堪えきれず肩を揺らして笑い出す。
「なんだかんだで、案外いい相棒になれるんじゃないか?」
エミリも満足げにうなずく。
確執が一朝一夕で消えるわけではない。
それでも祭りをきっかけに両部族は互いに話し合う場を持ち、若者たちの交流も始まった。
あとは、柔軟な世代が時間をかけて頑固な長老たちを導いていけばいい。
エミリは「自分にできることはここまで」と判断し、次なる目的地――魔王城へ戻ると告げた。
すると、プーラとグラズが、息を合わせたように代表としての同行を申し出たのだ。
「……やっぱり仲良いんじゃ」
「「黙れ!」」
エミリの茶化しに、二人の怒号が再び重なり、周囲に失笑が広がった。
***
「各地に散らばった調査隊の報告も、そろそろ城に集まっている頃ですよね?」
「そうだな。一番遠方に派遣した組も、じきに帰還するはずだ」
エネルが真面目に答える。
「じゃあのんびりしてられませんね。早く戻らないと……」
エミリは小さく息を吐き、自分の手のひらを見つめた。
やがて目を閉じ、ゆっくりと口を開く。
「ルー〇……」
「……おい、何をしてる」
呆れ声で問いかけるエネル。
「世界一有名な移動呪文です!……やっぱりまだ発動しませんけど」
「……そろそろ懲りろ」
「いやいや!異世界転移者って、普通は隠された力に目覚めるんですよ!
もしかしたら私、遅咲きタイプかもしれないし。習慣づけって大事じゃないですか!」
「馬鹿言うな。お前には魔力が――」
エネルの言葉がふと途切れる。
エミリを見つめた瞬間、胸の奥をかすめるような微かな“揺らぎ”を感じたのだ。
風が通り抜けたような、光が一瞬きらめいたような……確かにそこに何かがあった。
「……ん?」
「え?どうかしました?」
エミリがきょとんと首をかしげる。
エネルは目を細め、再び彼女をじっと見た。
だが、先ほどの感覚はもうどこにもない。
「……いや。気のせいだ」
そう言って視線を逸らしたが、エネルの心にわずかな違和感だけが残った。
「それはこっちの台詞だ。俺ひとりで十分だ、わざわざお前が出しゃばる必要はない」
祭りから数日後。
両部族の共通の聖地にて、ゼル族の族長プーラと、アラン族の族長グラズがまたもや火花を散らしていた。
和解を果たしたはずの二人だったが、長年積み重ねた癖はそう簡単には抜けない。
まるで呼吸をするように、互いを罵り合ってしまうのだ。
その横で荷物の最終確認をしていたエミリは、たまらず顔を上げる。
「私の国では、“嫌よ嫌よも好きのうち”って言葉があるんですよ」
「「はぁ!?」」
二人が同時に声を上げると、エミリはぱっと笑顔になった。
「ほら!声までぴったり揃ってます!
本当に嫌いなら無視すればいいのに、わざわざ言い争うってことは……つまり仲良しなんですよ。ね?」
プーラとグラズは同時にむっとした顔を向けたが、反論が出てこない。
代わりに「仲良しなどではない!」と声を重ねて言い張った。
「……くくっ」
そんな二人の様子を見て、エネルがついに堪えきれず肩を揺らして笑い出す。
「なんだかんだで、案外いい相棒になれるんじゃないか?」
エミリも満足げにうなずく。
確執が一朝一夕で消えるわけではない。
それでも祭りをきっかけに両部族は互いに話し合う場を持ち、若者たちの交流も始まった。
あとは、柔軟な世代が時間をかけて頑固な長老たちを導いていけばいい。
エミリは「自分にできることはここまで」と判断し、次なる目的地――魔王城へ戻ると告げた。
すると、プーラとグラズが、息を合わせたように代表としての同行を申し出たのだ。
「……やっぱり仲良いんじゃ」
「「黙れ!」」
エミリの茶化しに、二人の怒号が再び重なり、周囲に失笑が広がった。
***
「各地に散らばった調査隊の報告も、そろそろ城に集まっている頃ですよね?」
「そうだな。一番遠方に派遣した組も、じきに帰還するはずだ」
エネルが真面目に答える。
「じゃあのんびりしてられませんね。早く戻らないと……」
エミリは小さく息を吐き、自分の手のひらを見つめた。
やがて目を閉じ、ゆっくりと口を開く。
「ルー〇……」
「……おい、何をしてる」
呆れ声で問いかけるエネル。
「世界一有名な移動呪文です!……やっぱりまだ発動しませんけど」
「……そろそろ懲りろ」
「いやいや!異世界転移者って、普通は隠された力に目覚めるんですよ!
もしかしたら私、遅咲きタイプかもしれないし。習慣づけって大事じゃないですか!」
「馬鹿言うな。お前には魔力が――」
エネルの言葉がふと途切れる。
エミリを見つめた瞬間、胸の奥をかすめるような微かな“揺らぎ”を感じたのだ。
風が通り抜けたような、光が一瞬きらめいたような……確かにそこに何かがあった。
「……ん?」
「え?どうかしました?」
エミリがきょとんと首をかしげる。
エネルは目を細め、再び彼女をじっと見た。
だが、先ほどの感覚はもうどこにもない。
「……いや。気のせいだ」
そう言って視線を逸らしたが、エネルの心にわずかな違和感だけが残った。
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