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異世界の環境改革
静かに動き出す一歩
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エミリは顎に手を置き、執務室の片隅を一心不乱に行ったり来たりしていた。
そんなことで良い案が浮かぶわけではないと分かっている。だがじっとしていることもできない。
「そのうちそこだけがすり減っちゃいそうだね」
魔王ゼアのからかいめいた声が耳をかすめるが、今はまったく届かない。
頭の中で単語が反芻するだけだ――魔石、魔術、魔素、魔獣。どう動くべきか、何を優先すべきか。
トリスタンの仮説に現実味が増すたび、エミリの胸はさらに重く沈んでいった。
魔素の循環は、人間たちによる魔石の過剰な消費で乱されている。かつて魔術師たちが異世界から人を呼び寄せたとき、その術がどれほど膨大な魔素を掻き消したのだろう。
恐怖に駆られた人間の行為は、形が見えない被害となって、魔族の世界へと降りかかっている。
「……いっそのこと、人間側の魔術師を全部捕らえてしまえばいいのかしら」
思わず出た過激な呟きに、エミリ自身がハッとした。言葉の重さが喉に刺さる。だが、
その瞬間、何かを思い出したように顔を上げた。
「あっ――忘れてた!」
声は城中に響き渡り、椅子に腰掛けていたトリスタンは驚きのあまりひっくり返り、床に尻もちをついた。
ぽかんとした空気の中、視線が一斉にエミリへと集まる。
「ど、どうした?」
いつも冷静なエネルまでもが眉をひそめ、戸惑いを隠せない。
「魔術師……! 魔術師を忘れてたのよ!」
そうだ。渓谷へ向かう前、ナフレア町の領主館で出くわした王宮の魔導師ディランを、あのまま領主館に軟禁したままだった。エミリは出発の慌ただしさに彼のことを後回しにしてしまっていたのだ。
「……ああ、あいつか。どうせ魔術も使えないし、今頃はエルヴィンたちがうまくやってるだろ」
エネルは肩をすくめ、さほど気に留める様子もなく言い放った。
魔素の循環を乱す原因がおおよそ見えてきた今、魔族領に留まっていても事態は好転しない。
いずれにせよ、人間側との対話か、あるいは直接の介入が避けられないだろう。
しかも魔石はすでに人間の手によって掘り出され、消費され続けている――放置すれば状況は確実に悪化していく。
エミリは一度深く息を吐き、決意を固めると周囲を見渡した。
「領主館には、まだ魔石がそのまま残っているはずです。まずはそれをすべて回収し、魔族側へ運び出しましょう。それから――」
言葉を切り、彼女の視線がエネルへと向けられる。
「確か、前に領主館の周りにいた騎士たちの魔石を止めてたわよね。……あれって、人間側の魔石を全部無効化できたりする?」
エミリが真剣な面持ちで問う。
エネルは首を横に振った。
「さすがに無理だな。せいぜい半径一メートルが限界だ」
――そうだ。あの時も、エミリには結界をはり、魔石が無効化されたのは、二人に迫ったその範囲だけ――結界の外にいる騎士たちの魔石は、なおも赤く脈打っていた。
一気に全てを封じることはできない。現実は厳しい。
エミリは唇を噛みしめたが、それでも心の中で答えを固める。地道に、積み上げるしかない。均衡を取り戻すためには――。
「よし。今からナフレア町へ向かいます。エネル、あなたも来てくれるわよね?
とりあえずナフレアにある魔石はすべて魔族側に運び出します。それから、人間側の騎士たちが持つ、魔道具に付いている魔石も全て回収します」
エミリたちは魔族側の魔素問題を正すべく、決意の一歩を踏み出した。
冷たい石畳の廊下に足音が響き、城内の空気が緊張に包まれる。
目指すのはナフレア町――魔族の循環を取り戻すための作戦が、今、静かに始まった。
そんなことで良い案が浮かぶわけではないと分かっている。だがじっとしていることもできない。
「そのうちそこだけがすり減っちゃいそうだね」
魔王ゼアのからかいめいた声が耳をかすめるが、今はまったく届かない。
頭の中で単語が反芻するだけだ――魔石、魔術、魔素、魔獣。どう動くべきか、何を優先すべきか。
トリスタンの仮説に現実味が増すたび、エミリの胸はさらに重く沈んでいった。
魔素の循環は、人間たちによる魔石の過剰な消費で乱されている。かつて魔術師たちが異世界から人を呼び寄せたとき、その術がどれほど膨大な魔素を掻き消したのだろう。
恐怖に駆られた人間の行為は、形が見えない被害となって、魔族の世界へと降りかかっている。
「……いっそのこと、人間側の魔術師を全部捕らえてしまえばいいのかしら」
思わず出た過激な呟きに、エミリ自身がハッとした。言葉の重さが喉に刺さる。だが、
その瞬間、何かを思い出したように顔を上げた。
「あっ――忘れてた!」
声は城中に響き渡り、椅子に腰掛けていたトリスタンは驚きのあまりひっくり返り、床に尻もちをついた。
ぽかんとした空気の中、視線が一斉にエミリへと集まる。
「ど、どうした?」
いつも冷静なエネルまでもが眉をひそめ、戸惑いを隠せない。
「魔術師……! 魔術師を忘れてたのよ!」
そうだ。渓谷へ向かう前、ナフレア町の領主館で出くわした王宮の魔導師ディランを、あのまま領主館に軟禁したままだった。エミリは出発の慌ただしさに彼のことを後回しにしてしまっていたのだ。
「……ああ、あいつか。どうせ魔術も使えないし、今頃はエルヴィンたちがうまくやってるだろ」
エネルは肩をすくめ、さほど気に留める様子もなく言い放った。
魔素の循環を乱す原因がおおよそ見えてきた今、魔族領に留まっていても事態は好転しない。
いずれにせよ、人間側との対話か、あるいは直接の介入が避けられないだろう。
しかも魔石はすでに人間の手によって掘り出され、消費され続けている――放置すれば状況は確実に悪化していく。
エミリは一度深く息を吐き、決意を固めると周囲を見渡した。
「領主館には、まだ魔石がそのまま残っているはずです。まずはそれをすべて回収し、魔族側へ運び出しましょう。それから――」
言葉を切り、彼女の視線がエネルへと向けられる。
「確か、前に領主館の周りにいた騎士たちの魔石を止めてたわよね。……あれって、人間側の魔石を全部無効化できたりする?」
エミリが真剣な面持ちで問う。
エネルは首を横に振った。
「さすがに無理だな。せいぜい半径一メートルが限界だ」
――そうだ。あの時も、エミリには結界をはり、魔石が無効化されたのは、二人に迫ったその範囲だけ――結界の外にいる騎士たちの魔石は、なおも赤く脈打っていた。
一気に全てを封じることはできない。現実は厳しい。
エミリは唇を噛みしめたが、それでも心の中で答えを固める。地道に、積み上げるしかない。均衡を取り戻すためには――。
「よし。今からナフレア町へ向かいます。エネル、あなたも来てくれるわよね?
とりあえずナフレアにある魔石はすべて魔族側に運び出します。それから、人間側の騎士たちが持つ、魔道具に付いている魔石も全て回収します」
エミリたちは魔族側の魔素問題を正すべく、決意の一歩を踏み出した。
冷たい石畳の廊下に足音が響き、城内の空気が緊張に包まれる。
目指すのはナフレア町――魔族の循環を取り戻すための作戦が、今、静かに始まった。
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