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【最終章】異世界改革
発見
しおりを挟むエネルはシャンデリアにしがみつきながら、城内を見渡す。
開けられる扉や窓を確認しつつ移動しているが、どこからともなく発生する赤黒い霧は依然として消えず、広がり続けている。
「王はいないみたいね」
「ぞんび?になって徘徊してるんじゃないか?」
騎士たちが死なずにゾンビ化していることを思えば、王も同じ運命をたどっていてもおかしくはない。
だが、目に入る範囲には、それらしき怪物の姿はまだ見えなかった。
そのままシャンデリアや梁を伝って城内を移動していると、奥の広間の隅に、何かがうずくまっているのが見えた。
「エネル! なんかいる!!」
エネルもすぐに視認し、軌道を変えて慎重に近づく。
そこには、しつらえの良い服を身にまとった男性が床に倒れていた。
まだゾンビ化はしていない。
部屋の隅でうずくまっていたせいか、霧の影響を最小限に抑えられたのだろう。
エネルは周囲の気配を確認し、エミリをおぶったまま軽く床へ降り立つと、男性の腕を掴み持ち上げる。
しかし――次の瞬間、わずかに顔をしかめた。
「……長くはもたねぇな」
「えっ!? この人そんなに危ないの!?」
「いや、お前とこいつ、二人まとめて運ぶのがだ」
エミリは、エネルの背中の上で固まった。
「え、体力の問題……?」
「当たり前だ」
言っていることはもっともだ。
高所移動でエミリを背負っているだけでもエネルの負担は大きい。
そこに成人男性をもう一人抱えての跳躍は、どれだけ魔族の身体能力が優れていても危険だ。
エネルは判断を下し、男性の服をしっかり掴むと再び跳躍した。
視界が上へと急上昇する。
シャンデリアの鎖をつかみ、体を振って梁へと戻ったエネルは短く言う。
「中庭までいくぞ。あそこなら安全だ。二人抱えて移動できる距離は限界がある」
エミリは揺れる視界の中、気を失っている男性の横顔を見つめた。
(この人、誰かに似ている気がする、もしかして……)
中庭にたどり着くと、エネルはまずエミリをそっと地面へ下ろした。
次の瞬間、抱えていた男性は、まるで重い荷物でも扱うように地面へ ドサッ と放り置かれた。
扱いの差がひどい。
「……っう……」
衝撃に耐えきれず、男性が低くうめいて眉をひそめる。
「だ、大丈夫ですか!?」
エミリが駆け寄ると、エネルはまるで当然のように肩を回しながら言った。
「悪い、もう腕が限界だった」
「限界でももうちょっと優しく置いてあげてよ!」
男性は荒く息をしながら、ゆっくり瞼を震わせた。薄く目が開き、焦点が合うまでに数秒を要する。
「……ここは……外か……?」
「はい、中庭です。あなた、霧は吸ってませんか?気分悪くないですか?」
エミリが覗き込むと、男性はかすかに首を振った。
「……わからぬ。気づけば……あの赤黒い霧が、部屋中に……私は咄嗟に隅へ……」
まだ混乱が抜けていないようだが、正気はある。ゾンビ化は免れている。
エネルは男の顔をじっと見つめ、低く呟いた。
「お前、エルヴィンとにてるな」
「私も思ってたの、もしかしてご兄弟の方?」
エネルが視線を落とし、地面に座り込む男性と目線を合わせた。
「おまえ、名前は?」
「……カリア王国、皇太子ミルコ。エルヴィンの……兄だ」
エミリの目が大きく見開かれる。
「皇太子様でしたか」
ミルコはわずかにうなずいた。
「気づけば……兵も侍従も皆、化け物のように……私は……逃げることしか……」
肩を震わせながら悔しげに拳を握る。
エネルはその様子を、どこか冷静な目で見ていた。
「詳しい話はあとだ。おまえが正気なら助かる。……王と、大魔石はどこだ?」
ミルコは唇を噛み、しかし強固にうなずいた。
「王の間だ、きっとそこにある」
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