海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ

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異世界の環境改革

久しぶりの癒しと現実逃避

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エミリがエネルと共に応接室を出ると、ちょうどタイミングを見計らったように、ピリカが廊下を歩いてきた。

「エミリ様ーっ!お久しぶりですー!」

ピリカは嬉しそうに駆け寄り、手をぱたぱた振りながら満面の笑みを浮かべる。

「すぐ戻ってくると思っていたのに、魔王様のところでお仕事されてたんですね…寂しかったです~!」

「ピリカさん……」

その柔らかい声と包み込むような笑顔に、魔王城で積もったエミリのストレスが、少しずつ溶けていく。

「おい」

不機嫌そうな低い声が間を割った。

「もういいだろ。行くぞ。こっちには、まだやることがある」

エネルが腕を組んで二人の間にずかずかと割り込む。すると、ピリカがぱっと顔を輝かせた。

「はっ……!エネル様、もしかしてそれって……噂に聞く“嫉妬”ってやつでは!?わあ~、そういうキュン技が使えるなんて、やっぱり只者じゃないですねっ!」

「なにぃ!?」

エネルのこめかみにピクリと青筋が浮かぶ。



エミリはそのやり取りを聞き流しながら、内心でこっそり笑っていた。

(ああ~……これこれ。このピリカさんの、ちょっとズレた感じ。恋しかったのよね)

ほっとした表情で微笑むと、エミリはピリカの方へ向き直った。

「ピリカさん、よかったら手伝ってくださいませんか? これからデラルドさんにも協力をお願いしようと思っていて」

「はいっ!もちろんです、任せてください~!」



***



──デラルド伯爵の執務室

「なるほど……魔獣に異変か……」

報告を聞き終えたデラルド伯爵は、眉間に深く皺を寄せて唸る。そして何かを思い出したように、棚から一冊の本を取り出した。

「確か……トランベルの町に、魔素について研究している者がいたはずだ。この本は、その理論をまとめた記録だ。何かの手がかりになるかもしれん」

そう言って、伯爵はその分厚い本をエミリに手渡す。

「ありがとうございます。必ず糸口を見つけてきます」

エミリは本を両手で受け取り、静かに頷いた。目に宿る決意の光が、ささやかな使命感から確かな責任へと変わっていく。



部屋を出た途端、エミリはピリカが壁にもたれて頬を赤らめているのに気づいた。

「はぁ~……素敵です。あの、落ち着いた声音といい、無駄のない所作といい……知性と責任感が見事に融合していて……」

「えぇ……ピリカさん、まさかとは思いますが、デラルド伯爵のことですか? あの人だいぶ年上じゃないですか?年齢的に親子どころか下手したら祖父レベルですよ?」

ピリカはキラキラした目で振り返ると、無邪気に答える。

「え?年齢ですか?私は今ひゃく——」

「………愚問でしたね。ピリカさんの歳は言わなくて結構です、まだ夢を見ていたいので」

エミリはぎこちない笑みを浮かべながらそっぽを向いた。

ピリカはどう見ても十代そこそこの少女にしか見えない。なのに微かに聞こえたのは桁違いの年数。

——自分より遥かに年上なのだろう。

その事実を受け止めるのが嫌で、エミリはそっと思考の扉を閉じた。

「まあ、とにかく!次はトランベルですね!」

「はい。魔素の異変について何かわかるといいんですが……」



現実から逃避したまま、エミリはそのまま会話を切り替えた。

現実逃避は、時に前向きに進むための立派なスキルだ…と、自分に言い聞かせながら。





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