【完結】花咲く手には、秘密がある 〜エルバの手と森の記憶〜

ソニエッタ

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<最終章>お花屋さんと森の記憶

討伐会議と大切な場所の行方

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「はい、あーん」

「おい」

「わぁ!これすっごくおいしい!!」

「おい……」

「ね?おいしいでしょ!今、帝都で人気で予約しないと買えないんだよ。皇帝陛下に献上された分を、持ってきちゃった!」

「……」

「さっすが宰相!やるねー」



「おい! そこの二人、少しは話を聞け!」



レオニダスの怒鳴り声に、部屋の空気が一瞬張り詰めた。




ここはラウエル帝国、城の一室。

テーブルを囲むのは、宰相アーベル、オルガ、レオニダス、そしてギルド長マッシモである。



「なんだよレオニダス。やきもちー?頭が固い上に心まで狭いんじゃ、オルガに嫌われちゃうよ?」

「……」



マッシモは吹き出しそうになるのをこらえ、わざとらしく咳払いした。

「まあまあ、いいじゃないか。お菓子くらい食わせてやれ。嫉妬は騎士らしくないぞ?」



「……僕とオルガは甘いもの食べてるから、討伐の話はそっちで決めといて~」

「おい、ふざけるな。あなたは宰相でしょう」

「えー、ルーカスも忙しくて全然遊んでくれないんだよ?せっかくオルガが来てくれたんだから癒されたいじゃないか」

「オルガが来たのは“遊ぶため”じゃない、話し合いのためです」

「おーおー、堅物だねぇ。」



「…………」

レオニダスは深いため息をつき、表情を引き締め直した。



「……今回、討伐遠征で向かうのはここです」

地図を広げ、指先で一点を示す。



「この一帯は、近年異常なほど強力な魔物の出現が報告されています。魔物の数も多く、スタンピード発生の危険が最も高い地域です」



「なるほどな。で、その周囲に人の住む村はあるのか?」

マッシモの問いに、レオニダスは頷いた。



「小さな村が一つあります」



「なら早めに避難させた方がいいね」

先ほどまでふざけていたアーベルも、真剣な声で地図を覗き込む。



「ここからの距離はどのくらい?」

オルガがレオニダスに問いかける。



「馬で一日。徒歩だと数日かかるだろう」


「冒険者たちは歩き慣れているが……」

マッシモは険しい表情でオルガを見やった。


「オルガ、お前は本当に討伐に参加するつもりなのか?」



「大丈夫だよ。歩くの好きだし!」

オルガが胸を張って答えると、レオニダスがすかさず口を挟んだ。



「心配無用です。オルガは私と馬に同乗させます」


「…………」

マッシモは露骨に眉間へしわを寄せ、レオニダスを睨みつけた。



****



話し合いを終え、アーベルとマッシモと別れたあと、

オルガとレオニダスは城の外れにそびえる石造りの塔へと足を運んでいた。

そこは、かつての側妃エメリナが幽閉されている場所だ。



「急だったけど……会えるようにしてくれたんだね。ありがとう」

オルガが小さく笑うと、レオニダスは淡々と答える。



「最近の彼女は人が変わったように大人しくしている。
アルデバラン殿下のご意向で、第二皇子イオナス殿下が臣下となる折には、彼の領地へ移されることが決まった」



冷えた石の階段を上り、重い鉄扉を開けると、

中ではエメリナが優雅な所作で本を閉じ、ゆるやかに首を傾げた。



「あら……また来たのね。この前話していた“お友達”の問題は解決したのかしら?」


「うん。……ありがとう」


オルガが微笑んだが、その声はどこか沈んでいた。


「……彼は、どうなったの?」

「……だめだった。罪を償ってほしかったけど」



「……そう」

短い返答。だが、彼女の瞳に一瞬だけ揺らぎが宿る。

オルガとレオニダスは、それを確かに見て取った。



オルガは小さく息を吸い込み、姿勢を正した。

「側妃さん。この前言っていた“特別な場所”のことを聞きにきたの。
そこにある木って、精霊樹のことだよね?母さまが絵を見せてくれたことがあるの。でも……その時私はまだ行けないって母さまに言われた。

どうしてセオドルはたどり着けたの?」



エメリナは一瞬だけ悲しげに笑い、やがて淡々とした調子に戻った。

「あの場所には決まった扉も、道も存在しない。だから“場所”として教えることはできないの」



「それなら……どうやって?」



「普通はね、血を継ぐ者の準備が整った時、各家に仕える精霊のつかいが導いてくれるの。セオドルは、うちの子に案内させて精霊樹に辿り着いたわ。……なぜか、あの子は彼によく懐いていたの」



「精霊のつかい……?私、一度も会ったことないよ。側妃さんのつかいに、私も案内してもらえないかな?」



エメリナは静かに首を振った。

「それは無理。セオドルが精霊樹を傷つけた時、あの子は命を落としたの」



彼女の瞳が今度は隠しきれず潤み、オルガを真っ直ぐに見つめる。

「けれど……あなたの子は、きっともう傍にいると思うわ。あなたが気づいていないだけ。よく周りを見てごらんなさい」



――



塔を出ると、オルガは眉間に皺を寄せたまま考え込んでいた。

「母さまも父さまも、そんなこと一度も言わなかった……。精霊のつかい……。本当に、私のすぐ近くにいるのかな」



「オルガ、前を見ろ。階段だ、足を踏み外すぞ」

隣でレオニダスの低い声が響く。



レオニダスの低い声にハッと顔を上げる。無理に笑みを作ってみせるが、その瞳の奥にはまだ消えない悩みが残っていた。



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