84 / 103
<最終章>お花屋さんと森の記憶
討伐会議と大切な場所の行方
しおりを挟む
「はい、あーん」
「おい」
「わぁ!これすっごくおいしい!!」
「おい……」
「ね?おいしいでしょ!今、帝都で人気で予約しないと買えないんだよ。皇帝陛下に献上された分を、持ってきちゃった!」
「……」
「さっすが宰相!やるねー」
「おい! そこの二人、少しは話を聞け!」
レオニダスの怒鳴り声に、部屋の空気が一瞬張り詰めた。
ここはラウエル帝国、城の一室。
テーブルを囲むのは、宰相アーベル、オルガ、レオニダス、そしてギルド長マッシモである。
「なんだよレオニダス。やきもちー?頭が固い上に心まで狭いんじゃ、オルガに嫌われちゃうよ?」
「……」
マッシモは吹き出しそうになるのをこらえ、わざとらしく咳払いした。
「まあまあ、いいじゃないか。お菓子くらい食わせてやれ。嫉妬は騎士らしくないぞ?」
「……僕とオルガは甘いもの食べてるから、討伐の話はそっちで決めといて~」
「おい、ふざけるな。あなたは宰相でしょう」
「えー、ルーカスも忙しくて全然遊んでくれないんだよ?せっかくオルガが来てくれたんだから癒されたいじゃないか」
「オルガが来たのは“遊ぶため”じゃない、話し合いのためです」
「おーおー、堅物だねぇ。」
「…………」
レオニダスは深いため息をつき、表情を引き締め直した。
「……今回、討伐遠征で向かうのはここです」
地図を広げ、指先で一点を示す。
「この一帯は、近年異常なほど強力な魔物の出現が報告されています。魔物の数も多く、スタンピード発生の危険が最も高い地域です」
「なるほどな。で、その周囲に人の住む村はあるのか?」
マッシモの問いに、レオニダスは頷いた。
「小さな村が一つあります」
「なら早めに避難させた方がいいね」
先ほどまでふざけていたアーベルも、真剣な声で地図を覗き込む。
「ここからの距離はどのくらい?」
オルガがレオニダスに問いかける。
「馬で一日。徒歩だと数日かかるだろう」
「冒険者たちは歩き慣れているが……」
マッシモは険しい表情でオルガを見やった。
「オルガ、お前は本当に討伐に参加するつもりなのか?」
「大丈夫だよ。歩くの好きだし!」
オルガが胸を張って答えると、レオニダスがすかさず口を挟んだ。
「心配無用です。オルガは私と馬に同乗させます」
「…………」
マッシモは露骨に眉間へしわを寄せ、レオニダスを睨みつけた。
****
話し合いを終え、アーベルとマッシモと別れたあと、
オルガとレオニダスは城の外れにそびえる石造りの塔へと足を運んでいた。
そこは、かつての側妃エメリナが幽閉されている場所だ。
「急だったけど……会えるようにしてくれたんだね。ありがとう」
オルガが小さく笑うと、レオニダスは淡々と答える。
「最近の彼女は人が変わったように大人しくしている。
アルデバラン殿下のご意向で、第二皇子イオナス殿下が臣下となる折には、彼の領地へ移されることが決まった」
冷えた石の階段を上り、重い鉄扉を開けると、
中ではエメリナが優雅な所作で本を閉じ、ゆるやかに首を傾げた。
「あら……また来たのね。この前話していた“お友達”の問題は解決したのかしら?」
「うん。……ありがとう」
オルガが微笑んだが、その声はどこか沈んでいた。
「……彼は、どうなったの?」
「……だめだった。罪を償ってほしかったけど」
「……そう」
短い返答。だが、彼女の瞳に一瞬だけ揺らぎが宿る。
オルガとレオニダスは、それを確かに見て取った。
オルガは小さく息を吸い込み、姿勢を正した。
「側妃さん。この前言っていた“特別な場所”のことを聞きにきたの。
そこにある木って、精霊樹のことだよね?母さまが絵を見せてくれたことがあるの。でも……その時私はまだ行けないって母さまに言われた。
どうしてセオドルはたどり着けたの?」
エメリナは一瞬だけ悲しげに笑い、やがて淡々とした調子に戻った。
「あの場所には決まった扉も、道も存在しない。だから“場所”として教えることはできないの」
「それなら……どうやって?」
「普通はね、血を継ぐ者の準備が整った時、各家に仕える精霊のつかいが導いてくれるの。セオドルは、うちの子に案内させて精霊樹に辿り着いたわ。……なぜか、あの子は彼によく懐いていたの」
「精霊のつかい……?私、一度も会ったことないよ。側妃さんのつかいに、私も案内してもらえないかな?」
エメリナは静かに首を振った。
「それは無理。セオドルが精霊樹を傷つけた時、あの子は命を落としたの」
彼女の瞳が今度は隠しきれず潤み、オルガを真っ直ぐに見つめる。
「けれど……あなたの子は、きっともう傍にいると思うわ。あなたが気づいていないだけ。よく周りを見てごらんなさい」
――
塔を出ると、オルガは眉間に皺を寄せたまま考え込んでいた。
「母さまも父さまも、そんなこと一度も言わなかった……。精霊のつかい……。本当に、私のすぐ近くにいるのかな」
「オルガ、前を見ろ。階段だ、足を踏み外すぞ」
隣でレオニダスの低い声が響く。
レオニダスの低い声にハッと顔を上げる。無理に笑みを作ってみせるが、その瞳の奥にはまだ消えない悩みが残っていた。
「おい」
「わぁ!これすっごくおいしい!!」
「おい……」
「ね?おいしいでしょ!今、帝都で人気で予約しないと買えないんだよ。皇帝陛下に献上された分を、持ってきちゃった!」
「……」
「さっすが宰相!やるねー」
「おい! そこの二人、少しは話を聞け!」
レオニダスの怒鳴り声に、部屋の空気が一瞬張り詰めた。
ここはラウエル帝国、城の一室。
テーブルを囲むのは、宰相アーベル、オルガ、レオニダス、そしてギルド長マッシモである。
「なんだよレオニダス。やきもちー?頭が固い上に心まで狭いんじゃ、オルガに嫌われちゃうよ?」
「……」
マッシモは吹き出しそうになるのをこらえ、わざとらしく咳払いした。
「まあまあ、いいじゃないか。お菓子くらい食わせてやれ。嫉妬は騎士らしくないぞ?」
「……僕とオルガは甘いもの食べてるから、討伐の話はそっちで決めといて~」
「おい、ふざけるな。あなたは宰相でしょう」
「えー、ルーカスも忙しくて全然遊んでくれないんだよ?せっかくオルガが来てくれたんだから癒されたいじゃないか」
「オルガが来たのは“遊ぶため”じゃない、話し合いのためです」
「おーおー、堅物だねぇ。」
「…………」
レオニダスは深いため息をつき、表情を引き締め直した。
「……今回、討伐遠征で向かうのはここです」
地図を広げ、指先で一点を示す。
「この一帯は、近年異常なほど強力な魔物の出現が報告されています。魔物の数も多く、スタンピード発生の危険が最も高い地域です」
「なるほどな。で、その周囲に人の住む村はあるのか?」
マッシモの問いに、レオニダスは頷いた。
「小さな村が一つあります」
「なら早めに避難させた方がいいね」
先ほどまでふざけていたアーベルも、真剣な声で地図を覗き込む。
「ここからの距離はどのくらい?」
オルガがレオニダスに問いかける。
「馬で一日。徒歩だと数日かかるだろう」
「冒険者たちは歩き慣れているが……」
マッシモは険しい表情でオルガを見やった。
「オルガ、お前は本当に討伐に参加するつもりなのか?」
「大丈夫だよ。歩くの好きだし!」
オルガが胸を張って答えると、レオニダスがすかさず口を挟んだ。
「心配無用です。オルガは私と馬に同乗させます」
「…………」
マッシモは露骨に眉間へしわを寄せ、レオニダスを睨みつけた。
****
話し合いを終え、アーベルとマッシモと別れたあと、
オルガとレオニダスは城の外れにそびえる石造りの塔へと足を運んでいた。
そこは、かつての側妃エメリナが幽閉されている場所だ。
「急だったけど……会えるようにしてくれたんだね。ありがとう」
オルガが小さく笑うと、レオニダスは淡々と答える。
「最近の彼女は人が変わったように大人しくしている。
アルデバラン殿下のご意向で、第二皇子イオナス殿下が臣下となる折には、彼の領地へ移されることが決まった」
冷えた石の階段を上り、重い鉄扉を開けると、
中ではエメリナが優雅な所作で本を閉じ、ゆるやかに首を傾げた。
「あら……また来たのね。この前話していた“お友達”の問題は解決したのかしら?」
「うん。……ありがとう」
オルガが微笑んだが、その声はどこか沈んでいた。
「……彼は、どうなったの?」
「……だめだった。罪を償ってほしかったけど」
「……そう」
短い返答。だが、彼女の瞳に一瞬だけ揺らぎが宿る。
オルガとレオニダスは、それを確かに見て取った。
オルガは小さく息を吸い込み、姿勢を正した。
「側妃さん。この前言っていた“特別な場所”のことを聞きにきたの。
そこにある木って、精霊樹のことだよね?母さまが絵を見せてくれたことがあるの。でも……その時私はまだ行けないって母さまに言われた。
どうしてセオドルはたどり着けたの?」
エメリナは一瞬だけ悲しげに笑い、やがて淡々とした調子に戻った。
「あの場所には決まった扉も、道も存在しない。だから“場所”として教えることはできないの」
「それなら……どうやって?」
「普通はね、血を継ぐ者の準備が整った時、各家に仕える精霊のつかいが導いてくれるの。セオドルは、うちの子に案内させて精霊樹に辿り着いたわ。……なぜか、あの子は彼によく懐いていたの」
「精霊のつかい……?私、一度も会ったことないよ。側妃さんのつかいに、私も案内してもらえないかな?」
エメリナは静かに首を振った。
「それは無理。セオドルが精霊樹を傷つけた時、あの子は命を落としたの」
彼女の瞳が今度は隠しきれず潤み、オルガを真っ直ぐに見つめる。
「けれど……あなたの子は、きっともう傍にいると思うわ。あなたが気づいていないだけ。よく周りを見てごらんなさい」
――
塔を出ると、オルガは眉間に皺を寄せたまま考え込んでいた。
「母さまも父さまも、そんなこと一度も言わなかった……。精霊のつかい……。本当に、私のすぐ近くにいるのかな」
「オルガ、前を見ろ。階段だ、足を踏み外すぞ」
隣でレオニダスの低い声が響く。
レオニダスの低い声にハッと顔を上げる。無理に笑みを作ってみせるが、その瞳の奥にはまだ消えない悩みが残っていた。
7
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
魔法使いとして頑張りますわ!
まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。
そこからは家族ごっこの毎日。
私が継ぐはずだった伯爵家。
花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね?
これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。
2025年に改編しました。
いつも通り、ふんわり設定です。
ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m
Copyright©︎2020-まるねこ
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
「ときめかない」ものなど捨てておしまいなさい
megane-san
ファンタジー
私、クリスティーナは、前世で国税調査官として残業漬けの日々を送っていましたが、どうやら過労でぶっ倒れそのまま今の世界に転生してきたようです。
転生先のグリモード伯爵家は表向きは普通の商会を営んでおりますが裏では何やら諜報や暗部の仕事をしているらしく…。そんな表と裏の家業を手伝いながら、前世で汚部屋生活をしていた私は、今世で断捨離に挑戦することにしたのですが、なんと断捨離中に光魔法が使えることが発覚!
魔力があることを国にバレないようにしながら、魔術師の最高峰である特級魔術師を目指します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる