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王宮の毒花と森の片隅のお花屋さん
森の訪問者
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オルガは遅めの朝食を終えると、ここ数日おざなりになっていた畑に出て、花の収穫を始めていた。
最近では、普通の花はあまり売れない。それでも、花に囲まれて過ごす毎日は悪くない。
そんなことをのんびり考えていたところ、家に続く道のずっと向こうに見覚えのある人影が三つ。
人が二人に、馬が一頭。
「……ええ、また来たの?」
がっくりと肩を落としながら、オルガは来訪者――ギルド長マッシモと騎士団副団長レオニダスを迎えるべく、腰を上げた。
「おーい、オルガ! 魔物の調査で森に入ったらな、途中でこいつとばったり出くわしてよ。お前んちに行くっつうから、挨拶がてら俺もついてきた!」
片手に魔物の肉の塊をぶらさげながら、マッシモは相変わらずの調子で手を振ってくる。
だがその姿は――全身、魔物の返り血でぐっしょりだった。
(これは……ぜっったい家に入れない)
オルガが固く心に誓ったそのとき、隣で馬を引いていたレオニダスが無言のまま手を動かし、水と風の魔法を重ねてマッシモを一瞬で洗い上げた。
「うわーすごい!マッシモが、いつもよりピカピカになってる!!」
「こんな状態で人の家に上がろうとするなど、倫理に反する」
レオニダスの真顔の一言に、マッシモは「悪かった悪かった」と苦笑いしながらも、捌いた肉を掲げて見せた。
「途中で、活きがいいフエザリオンに出くわしてな。すぐに絞めて、美味いとこだけ取ってきたぞ。土産だ!」
「うわー!やったー!お昼に食べる!」
オルガは、鶏に似た巨大な魔物の姿を思い浮かべ、口元からじゅるりとよだれを拭った。
貴族の令嬢なら卒倒しかねない会話を交わしていると、
近くの茂みの奥から枝を押し分ける音が響き、
それに重なるように――低く、濁った魔物の鳴き声が森に満ちた。
そのときだった。
ばきり、ばきりと枝を裂く音に続いて、茂みの奥から姿を現したのは――
筋肉の塊のような上級レベルの魔物、サーベルタイガー。しかも三匹。
鋭く伸びた牙、地を踏みしめるたびに伝わる振動。
その金色の瞳がじっとこちらを見ている。
「……うわ。あれはまずいな」
マッシモが、めずらしく低い声で言った。
レオニダスもすかさず剣の柄に手をかける。
サーベルタイガーは、王都近くの森では滅多に姿を見せない魔物だ。
それが三体。
単体でも手強い相手が、並んでこちらを睨んでいる。
鋭い爪が地面を叩き、じり、と間合いを詰めてきた。
ピリピリとした空気のなか、ただ一人、オルガだけがきょとんとしていた。
「あー……この魔物サーベルタイガーだったっけ?あったあった、たしかこれ」
彼女は近くの木陰に生えていた白くて丸いキノコを摘み上げる。
傘には小さな斑点、甘ったるい匂いがふわりと漂った。
「ほら、おやつ。食べたら帰ってね?」
ぽいっとキノコを投げると、最前列のサーベルタイガーが鼻をひくひくさせ、ぺろんと舌を出してそれを食べた。
……すると。
三匹の魔物はぺたんと座り込み、喉を鳴らしながらオルガの足元に近づいてきた。
その様子はまるで、気まぐれな猫が「もっと撫でて」とすり寄ってくるような態度。
「……またキノコもらえたら、森の奥まで戻るって。」
「……何が起こったのかまったくわからん……」
レオニダスが剣を収めたまま、真剣な顔でつぶやいた。
マッシモはといえば、口をぽかんと開けたまま、肉の包みを落としそうになっている。
オルガはというと、サーベルタイガーの一匹の頭を撫でながら、いつも通りの調子で言った。
「魔物によって、こんな風に弱点?があるのよ。母さまに教えてもらったの」
まるで近所の野良にエサをやるようなその態度に、
レオニダスとマッシモはただ無言で見守るしかなかった。
最近では、普通の花はあまり売れない。それでも、花に囲まれて過ごす毎日は悪くない。
そんなことをのんびり考えていたところ、家に続く道のずっと向こうに見覚えのある人影が三つ。
人が二人に、馬が一頭。
「……ええ、また来たの?」
がっくりと肩を落としながら、オルガは来訪者――ギルド長マッシモと騎士団副団長レオニダスを迎えるべく、腰を上げた。
「おーい、オルガ! 魔物の調査で森に入ったらな、途中でこいつとばったり出くわしてよ。お前んちに行くっつうから、挨拶がてら俺もついてきた!」
片手に魔物の肉の塊をぶらさげながら、マッシモは相変わらずの調子で手を振ってくる。
だがその姿は――全身、魔物の返り血でぐっしょりだった。
(これは……ぜっったい家に入れない)
オルガが固く心に誓ったそのとき、隣で馬を引いていたレオニダスが無言のまま手を動かし、水と風の魔法を重ねてマッシモを一瞬で洗い上げた。
「うわーすごい!マッシモが、いつもよりピカピカになってる!!」
「こんな状態で人の家に上がろうとするなど、倫理に反する」
レオニダスの真顔の一言に、マッシモは「悪かった悪かった」と苦笑いしながらも、捌いた肉を掲げて見せた。
「途中で、活きがいいフエザリオンに出くわしてな。すぐに絞めて、美味いとこだけ取ってきたぞ。土産だ!」
「うわー!やったー!お昼に食べる!」
オルガは、鶏に似た巨大な魔物の姿を思い浮かべ、口元からじゅるりとよだれを拭った。
貴族の令嬢なら卒倒しかねない会話を交わしていると、
近くの茂みの奥から枝を押し分ける音が響き、
それに重なるように――低く、濁った魔物の鳴き声が森に満ちた。
そのときだった。
ばきり、ばきりと枝を裂く音に続いて、茂みの奥から姿を現したのは――
筋肉の塊のような上級レベルの魔物、サーベルタイガー。しかも三匹。
鋭く伸びた牙、地を踏みしめるたびに伝わる振動。
その金色の瞳がじっとこちらを見ている。
「……うわ。あれはまずいな」
マッシモが、めずらしく低い声で言った。
レオニダスもすかさず剣の柄に手をかける。
サーベルタイガーは、王都近くの森では滅多に姿を見せない魔物だ。
それが三体。
単体でも手強い相手が、並んでこちらを睨んでいる。
鋭い爪が地面を叩き、じり、と間合いを詰めてきた。
ピリピリとした空気のなか、ただ一人、オルガだけがきょとんとしていた。
「あー……この魔物サーベルタイガーだったっけ?あったあった、たしかこれ」
彼女は近くの木陰に生えていた白くて丸いキノコを摘み上げる。
傘には小さな斑点、甘ったるい匂いがふわりと漂った。
「ほら、おやつ。食べたら帰ってね?」
ぽいっとキノコを投げると、最前列のサーベルタイガーが鼻をひくひくさせ、ぺろんと舌を出してそれを食べた。
……すると。
三匹の魔物はぺたんと座り込み、喉を鳴らしながらオルガの足元に近づいてきた。
その様子はまるで、気まぐれな猫が「もっと撫でて」とすり寄ってくるような態度。
「……またキノコもらえたら、森の奥まで戻るって。」
「……何が起こったのかまったくわからん……」
レオニダスが剣を収めたまま、真剣な顔でつぶやいた。
マッシモはといえば、口をぽかんと開けたまま、肉の包みを落としそうになっている。
オルガはというと、サーベルタイガーの一匹の頭を撫でながら、いつも通りの調子で言った。
「魔物によって、こんな風に弱点?があるのよ。母さまに教えてもらったの」
まるで近所の野良にエサをやるようなその態度に、
レオニダスとマッシモはただ無言で見守るしかなかった。
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