1 / 7
01.幼馴染と魔具探し
しおりを挟むキラキラと輝く魔法具で埋め尽くされている室内で、自分自身に起きた出来事に理解出来ないまま、僕は両手を見つめた。
取り合えず、自分の手を確かめるように広げ、ぐーぱー、ぐーぱー、と拳を作ったり開いて見たりして、自在に動く手に、ぎょっとした。
――ち、小さい……?
どうして、小さくなってるの? と小さな手を見つめる。
間違いなく自分の手だということは分かっているけど、いきなり起きた不可解な現象を受け止めることが出来なくて、取りあえず、一緒にいた青年に向かって、〝助けて!〟の意味を込めて両手を広げて一歩踏み出した。
けれど、うっかり下服の裾を踏んでしまい、そのまま顔面を床に打ち付ける。
「痛いっー!」
「レジェ、落ち着け!」
煌びやかな衣装を身に着けた青年は、顔面を打ち付けて苦悶している僕を持ち上げると、訝し気な表情をして見せた。
ブカブカの服がずり落ち、下服どころか下着まで脱げてしまった自分に満遍なく視線を注ぎ、青年は小首を傾げた。
もちろん、僕も自分の体が不適切な大きさになっていることは分かってるけど、それを確認するのが怖くて、コクリと喉を鳴らしながら青年へ向かって口を開いた。
「ね、今、僕どうなってる?」
「……見た感じ、十歳くらいだな」
青年が十歳と言った言葉に驚いて反復した。
「十歳……?」
「ああ、そのくらいだ。俺の記憶が正しければ、な」
丸出しの下半身を見つめながら青年は口を緩めるが、その笑みが揶揄を含んでいることくらい僕にだって分かる。
しかもソコを見て年齢を測定したのなら、失礼極まりない。
青年の視線に釣られて自分でも下半身を確認すると、中心にあるアレがプランと揺れる。見た感じ成人男性の親指くらいだ。
――この年齢なら標準かなぁ?
比べたことがないので分からないけど、笑われるのは心外だ! と、そんな抗議の気持ちを込めて青年を見返した。
けれど、抗議の気持ちは届かず、涼しい顔をした青年は、「それで身体に痛みは?」と一応心配してくれている見たいだった。
「さっき、ぶつけたところが痛い……」
「ならいい」
え、全然よくないよ! と言いかけたが、青年が迫力のある顔をこちらに向けてきたので口を閉じた。
――この人、顔だけは良いんだよね……。
そうなのだ、性格はちょっとアレだが、顔だけはいいのだ。
シルバーグレーの髪がサラサラと踊り、長い睫毛が動けば、微量だが風が巻き起こり涼しくなる気がする。まあ、もちろん、そんな気がするだけ――。
中央には形の良い鼻と口が正しい位置に配置されていて、その唇が仕方なさそうに開くと。
「ふ……、元に戻る方法を探すか」
実に面倒臭そうな態度で、顎をしゃくり部屋の中を物色し始めた。
どれもこれも変わった魔具ばかりで、使い方も分からないのに、勝手に触るからこんな事になったのを忘れたの? と懲りない青年を見ながら、気が付いたことを言葉にした。
「ねえ、思ったんだけど、さっき触った魔具で元に戻れるんじゃないの? どこやったの?」
「コレか?」
ふふん、と何故か得意げに見せられた魔具は、青年の掌で見事に粉々になっていた――。
ことの始まりは数時間前――。
この時まで自分、レジェ・ダニエラ・アルカンタは、十七歳という年齢に相応しい風貌だった。
ロザリア宮殿で仮面舞踏会が開かれ、友人に誘われて仕方なく来たものの、やっぱりつまらなくて、来なければ良かったと後悔していた。
そもそも、僕だって来たくて来たわけじゃなかったし、いい歳して仮面舞踏会くらい体験してないと、馬鹿にされるかなって……、それだけのことで参加した。
――はあ、お酒も美味しくないし、ちょっと散歩でもしようかな?
そう思った僕は、会場を出て中庭へ向かうことにした。
中庭に通じるテラスの硝子扉に手を掛けると、反射する自分の姿が映る。
ちゃんと整えたはずなのに、毛先があっちこっちから飛び出しているのが見えて、思わず、「頑固な癖毛め――」と、自分の癖毛に悪態をついた。
外へと足を向ければ、中庭では数人の令嬢と令息が仮面越しに会話を繰り広げており、自分とは違ってとても楽しそうにしている。
まあ、僕は最初から楽しめないと分かっていたし、だいたい、好きな人がいるし、と心の中で相手を思いを浮かべていると、何処かの令嬢とぶつかった。
「きゃっ」
彼女の持っていたグラスから、パシャリとシャンパンの水滴が弾け、僕の顔にかかる。
令嬢から、「ごめんあそばせ」と水滴よりも冷たい謝罪の言葉を受けて、「いいえ」と短く返事を返した。
――シャンパンって染みになるのかなぁ……。
顔を拭いながら、汚れた箇所を見て、洗い物をする召使い達の苦労を思い浮かべている人間なんて、きっと僕ぐらいだ。
くるりと振り返り、華やかな広間で優雅に踊る友人を恨めし気に見つめ、こんな華やかな舞台、自分には向いてないと、分かっていたのに、どうして来たのだろう? 「あー、やっぱり来なければ良かった」と本音を吐いた。
「それなら帰ればいいだろ?」
自分がボソっと吐き出した言葉に合わせるように、帰れ、と幻聴が聞えた気がした。
幻聴にしては聞いたことのある声だと思いながら、辺りを見渡せば、噴水の向こう側から豪華な仮面をつけた一人の男が現れた。
仮面を付けていても、素性がバレてしまうと言うのは如何がなものだろうか? と思いながらも挨拶した。
「カルジーニ……様、こんばんは」
胸に手を添えて頭を下げ、深々と腰を折り、煌びやかな男に向かってお辞儀をした。
「レジェが、こんな所に顔出すなんて珍しいな」
豪華な仮面を剥ぎながら、「目当ての令嬢でもいたのか?」と彼は見目麗しい姿で尋ねて来くる。
そんなわけない、だって僕は君の兄さん、つまり第一王子のことが好きなんだから、と決して告げることが出来ない恋の相手を思い浮かべる。
「僕よりも、カルジーニ様の方が珍しいですよね」
「普通でいい、今まで通りカルジーニと呼べ、周知の仲だし不敬にはしないから安心しろ」
どの口が? と思った。
幼い頃から、事あるごとに、「不敬罪に処す」と言われて来た身としては、その言葉を聞いても安心出来ないけど、まあ、本人がいいと言うならいいかなと、いつも通り話しかけた。
「ところで、カルジーニはどうしてここに?」
「別に、暇だったから?」
第二王子がこんな所でハメを外していいのだろうか? 既に婚約者もいると言うのに、後で絶対怒られると思うんだけど……、とカルジーニの婚約者を思い浮かべ僕の身体が震えあがる。
彼の婚約者はとても美しい令嬢だが、第二王子の婚約者候補に選ばれるだけのことはあって、かなり気位が高い女性だった。
美しい薔薇には棘があると言うが、あの令嬢は花びらにも棘が生えていそうだと思う。
「こんな所にいたら婚約者に怒られるんじゃ……」
その言葉を聞いたカルジーニは、不快な顔を見せた。
多分、僕の言った言葉は余計なお世話だったのだろう。とにかく人に指図されるのが死ぬほど嫌いな人で、彼の子供の頃の口癖は、早く王国一番の権力者になりたい! だったことを思い出した。
――この人に権力なんて与えちゃだめだよね…… 。
うんうん、と頷いていると、カルジーニから、「お前、暇か?」と聞かれ、「暇と言えば暇です」と答えた。
「それなら、ちょっと付き合え」と言われて、嫌な予感が脳裏を過る。
一体どこへ行こうと言うのだろうか、スタスタと自分の前を歩くカルジーニの後を、仕方なく付いて行く。
「どこに付き合うの……?」
「いいから」
乗り気じゃないせいか、数十歩ほど彼との間が開き、カルジーニに、「早く来い」と催促される。
一人で行けばいいのに……、と文句が出そうになるのを何とか飲み込むと、僕は小走りで追いかけた。
宮殿の東に位置する部屋の前に立つと、カルジーニは顎に手を置き、親指と人差し指でスッスッと摘まむ。一頻り考えた後、目の前にある立ち入り禁止の意味で垂れ下がっている鎖をヒョイと跨いだ。
「え、駄目だよ」
「いいから、お前も来い」
見つかったら絶対に怒られるし、それどころか牢屋行きだ、と身体中の毛穴から冷や汗が流れて来る。
立ち入り禁止の鎖を見つめながら、誰にも見られませんように……、と気休めの呪文を唱えながら、僕も鎖を跨いだ。
目の前にそびえる重厚な扉を見れば、少し開いており、カルジーニは既に中に入っているようだった。
仕方なく部屋の中に入れば、見た事のない品々で溢れていた。
「ここは?」
「ん、魔法具の保管庫だ」
「へえ…、見たこと無い道具が一杯あるね」
立ち入り禁止になっているくらいだから、きっと使用が禁止されている魔具ばかりに違いない。僕は周辺を見渡し、目に付いた魔具を観察した。
一体どう使うのか分からない丸い円盤を手に取ると、そこには様々な形をした穴が開いており、何かを填め込むようになっている。
――何に使うのかサッパリだ……。
とにかく、自分は早く用事を済ませてここから出たかった。
カルジーニに、早く用事を済ませて帰ろうよ、と伝えようとした時、辺りをくるくる見渡していた彼が残念そうに言葉を発した。
「無いな」
「何探してるの?」
「あ、いや……」
ふう、と長い溜息を吐くと、カルジーニは用心深く魔具をひとつ、ひとつ、確認するように見つめ、また歩き出した。
「ねえ、僕も探してあげるよ」
「想い人の名前を聞き出すことが出来る魔具があると聞いたんだが……」
「へぇ、そんな便利なものがあるんだ」
「ああ、筒状の笛の形をした物らしい……」
カルジーニは整った眉を少し動かすと、近くに置いてある装飾品が美しい円形の鏡らしき物を手に取った。
手の平にすっぽりと収まる大きさで、鏡の役割を全うするには、聊か頼りない。
それをクルクルと回しながら表裏を確かめていると、チカチカと光りはじめた。
白、赤、青、緑と虹色に順番に色を変える魔具が不思議で、どうして光っているのか気になり、僕はカルジーニが持っている手鏡を覗き込んだ。
そばかすのある自分の顔が鏡に映った瞬間、ピカーっと輝きが増した。
「ねえ、カルジーニ、これ光ってっ? えぇ? え―?」
不思議な感覚に落ちた。自分の視線がどんどん下へ下へと沈んでいく、そして見上げるようにカルジーニを見つめて、僕は立ち尽くした――。
72
あなたにおすすめの小説
2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。
ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。
異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。
二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。
しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。
再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた
さ
BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。
断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。
ーーそれなのに。
婚約者に婚約は破棄され、
気づけば断罪寸前の立場に。
しかも理由もわからないまま、
何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。
※最終的にハッピーエンド
※愛され悪役令息
死に戻り騎士は愛のために願う 〜10回だけの奇跡〜
湯川岳
BL
「一生苦しむがいい。その呪いは俺からのプレゼントだ」
幼い頃に出会った友から呪いを貰ってしまったユーリ。
時は流れ、シューベルト家次男のアルトを追って騎士団に入隊をし、副団長まで上り詰めたユーリ。
毎日アルトの世話をしていく内に心惹かれていく。
「キスしてみろよ。それでオレが嫌じゃなければ……考えてやってもいい」
ユーリはアルトに口付けをする。そして呪いがこの時を待っていたかのように発動してしまった。
意識が乗っ取られ、目を覚ませばそこにあったはずの幸せは鮮やかな赤で染まっていた。
その日を境に始まったのは、暗くて長い道のりだった。
※アルト編、ユーリ編。どちらから先に読まれても大丈夫です。
エンディング異なります。それもお楽しみ頂けたら幸いです。
※最後はハッピーエンド確定。4話までだいぶ暗めの話なので苦手な方はお気をつけ下さい。
※タイトル変えてみました。
旧:死に戻り騎士の願い
表紙素材:ぱくたそ
どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。
孤独な王子は影に恋をする
結衣可
BL
王国の第一王子リオネル・ヴァルハイトは、
「光」と称えられるほど完璧な存在だった。
民からも廷臣からも賞賛され、非の打ち所がない理想の王子。
しかしその仮面の裏には、孤独と重圧に押し潰されそうな本音が隠されていた。
弱音を吐きたい。誰かに甘えたい。
だが、その願いを叶えてくれる相手はいない。
――ただ一人、いつも傍に気配を寄せていた“影”に恋をするまでは。
影、王族直属の密偵として顔も名も隠し、感情を持たぬよう育てられた存在。
常に平等であれと叩き込まれ、ただ「王子を守る影」として仕えてきた。
完璧を求められる王子と、感情を禁じられてきた影。
光と影が惹かれ合い、やがて互いの鎖を断ち切ってゆく。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる