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07.ちゅぱぁ……
しおりを挟む咄嗟に目を瞑り、重なって来るカルジーニの唇を「ちゅぱぁ……」と受け止めた所までいいけど、何だか、ねばぁーとする口づけをされて放心状態になった。
ようやく離れた唇にほっと胸を撫で下ろし、瞑っていた目を開けると、カルジーニの息が荒く、どうしたの? と不思議に思っていると、またしても彼の顔面が迫って来る。
しかも、僕は元に戻ってないし! やっぱり呪いじゃないし! と慌てて迫ってくるカルジーニの顔面を足で制御した。
「……ぅ、お、まえ、俺の顔を足蹴にするとは……、覚悟は出来てるんだろうな?」
「だ、だってぇ、どうして何度もしようとするの? もう呪いじゃないって分かったでしょう?」
「ちっ……」
――なんで舌打ちっ!
取りあえず、冷静に戻ったカルジーニは、すくっと立ち上がり、上着から二つの魔具を取り出した。
ひとつは丸い円形の魔具で、もうひとつは四角形だった。
「その四角の魔具で僕は元に戻るの?」
「多分な……」
「じゃあ、貸してくれる?」
そう言った途端、カルジーニは目をきゅぅっと細めた。
――あ、意地悪な顔してる。
長年の付き合いで分かるけど、こういう時、カルジーニは絶対に条件を出してくる。
どうせ十日間の奴隷契約とか、そんなことを言って来るんだろうな、と予測していると、途惑い気味に彼は口を開き、「一緒に旅行に行くなら貸す」と言う。
「……この間から、そればかり言うけど、僕と旅行に行っても楽しくないよ?」
「別に楽しくなくてもいい……」
楽しくないのに旅行に行きたいとか、一体、何を企んでいるのかと、彼の性格を考えて僕は首から耳にかけて悪寒が走る。
旅行へ連れて行くだけ連れて行って置き去りにする気かも……? とカルジーニがやりそうな嫌がらせを考えていると、こちらへと顔を向けた彼は寂しそうな表情を見せ、ふいと横を向く。
「もうすぐ、正式な婚約式があるし、そうなったら、お前と一緒に過ごす時間もなくなるしな……」
しみじみ言う彼の言葉を聞いて、単純に幼馴染として最後にのんびり一緒に過ごしたいだけなのかと納得した。
「うーん、そっか、分かった。そんなに行きたいならいいよ……」
「旅行に行くって話は、アレには言うなよ?」
アレ? と僕が考え込んでいるとカルジーニが、「執事見習い」と言うので、ああ、ロバートのことね、と頷いた。
でも、幼馴染と過ごしたいなら一緒に行ってもいい気がしたが、二人の啀み合う姿を想像して、ただでさえ楽しくない旅行が輪をかけて楽しくなくなりそうで、僕もロバートには言うのはやめようと思う。
「よし、じゃあこれを……」
そう言って、せっかく差し出した四角形の魔具をカルジーニが、また引っ込める。
「あー……、昔、お前がその姿だった頃に、言いたかったことがあったんだ」
「うん?」
「意地悪して悪かった」
僕は耳を疑う。
あのカルジーニが謝っていることにも驚愕だが、幼い頃に謝りたかったと言う彼の発言にびっくりした。
「カルジーニ……、悪いと思ってたんだ?」
「まあ、多少はな」
「あの頃の僕は、夜な夜な枕をカルジーニだと思って殴ってたんだ。それをいつもロバートに愚痴っていたら、カルジーニ人形を作ってくれて、二人で色々意地悪し返してたから、もういいよ」
「……」
子供の頃の些細ないざこざだし、だから、あの頃の嫌なことは、もう水に流して忘れようと思っていると、カルジーニが不貞腐れた顔で口を開く。
「別に俺だって意地悪をしたかったわけじゃない……」
「うん?」
彼の言い分を聞き、どういう意味かと頭を傾げる。
「お前だって悪い部分はあっただろ?」
「えー? そうかな……」
全然、身に覚えはないけど……、と過去の自分の行動と行いを探ってみる。
どれだけ思い返しても、自分がカルジーニに悪いことをしたと思える出来事がなくて、頭を悩ませていると、彼から、「俺より兄上を優先していただろう」と言われて、それは仕方ないことだと頷く。
「だって、マクシム王子は、いつも僕に優しいから……、それに恰好いいし……」
「それだ、それが苛っとする」
はあ、とカルジーニが溜息を吐くと、手をヒラヒラ振り、もういいと制御した。
僕の掌に四角い魔具を乗せて、「ほら、その突起を押して覗き込め」と使い方を教えてくれる。
言われた通りに突起を押し込むと、丸い円状の物と同じように色が次々へと変わり、最後にピカーっと光った。
もしかして元に戻る魔具じゃなくて、お爺ちゃんになる魔具だったらどうしよう? と思っていると、するするっと体が大きくなり服が破ける。
――あ、ロバートのお宝二号が……。
まあ、破けてしまった物は仕方ないか、と元の身体に戻ったことを確認していると、カルジーニが僕の中心で揺れるアレを見て、ふぅん? と小首を傾げた。
「あ、見ないでよ!」
「大丈夫だ、この間見た時と大差ない」
なんて失礼な人なんだ! と睨んでいると、カルジーニが服を貸してくれた。
それに着替えて、鏡で久しぶりに十七歳に戻った自分と対面していると、彼が背後から僕の耳元へ唇を寄せ……、
「明日の朝、中央広場の噴水近くで待ってる」
そう言って耳元で囁かれ、ぞわぁと色々な意味で背筋に寒気が走る。
カルジーニから勝手に明日の約束をさせられて、こちらの都合は配慮されてない時点で、これは王子からの命令じゃないか、と納得出来ない部分はあるけれど、無事に十七歳に戻ったことだし、まあ、いいかと屋敷に戻った――。
玄関でロバートが出迎えてくれたが、元の姿に戻ったことよりも、お宝二号が無残に破けてしまったことに動揺していた。
混乱状態に陥った彼から、「死ぬ前に一度だけ、これを着て下さい……」と差し出してきた服に目をぱちくりさせた。
「ロバート……、いくらロバートのお願いでも、これは着ないよ?」
彼が手に持っているのは最近出来たという、有名な洋菓子店の店員が着る制服だった。
「そんな、酷いです。私は宝物を失ったのですよ?」
「あ、うん、そうなんだけど、元々は僕の物だったわけだし……」
「うっ……ぅ……」
なんだろう、すごく複雑だ。
自分の物をどうしようが勝手なのに、そんなに悲しまれると、僕が悪いような気がしてくる。
何だか納得が出来ないけど、大事にしていた物を壊されたら誰だって悲しいし、仕方がないと譲歩した。
「それ着ればいいの?」
「レジェ様……っ……、ついでに、これもお願いします……」
――じょ、女性下着も?
どうして下着まで着なきゃ駄目なのかと思ったが、まあ、完璧主義なロバートのことだから、内面も完璧にしたいのかも知れないな、と仕方なく納得して、ロバートの要望通りに僕は、彼の収集癖を満たしてあげた。
今日は色々なことがあったせいで凄く疲れてしまい、とにかく体を休めたくて、普段より早く就寝した――。
翌日、起きて直ぐカルジーニとの約束を思い出し、げんなりする。
噴水広場に行くことをロバートに言うと絶対に付いて来ると言いそうだと思った僕は、ちょっと買い物に出掛けて来ると執事のトムに伝えて、中央広場へ向かった。
噴水が見える通りまで出ると、既にカルジーニが待っている姿が見えて、慌てて近付いた。
「ちゃんと来たんだな……」
「うん? もしかして来なくても良かったの?」
「いや、来なかったら攫いに行ってるところだ」
なるほど、結果的に僕は逃れられなかったってことだ。
まあ、でも最初で最後の幼馴染との旅行だし、少しは楽しめるといいな、と僕はこの時まで、本当にそう思っていた――。
まさか、旅行先の避暑地でカルジーニが暴走して、そのせいで隣国の王子と揉めることになるなんて……、しかも、何故か分からないけど、僕はその揉め事を丸く収めるために悪戦苦闘することになるなんて……。
――ああ、もう、やだやだ……。
カルジーニと一緒にいると、ろくなことが無い、誰でもいいから早く僕を家に帰して!
王子様と魔法は取り扱いが難しい~END.
イイネやエール、それからお気に入り登録などなど、とにかく、微妙なお話にお付き合い頂き、ありがとうございました💕
追記*2024/07/07*短い話だったので、おまけです。
03.もぅ、いつも勝手なんだから……からカルジーニの旅行宣言、スマホだと文字が読め無さそうですね
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