6 / 183
第一章
6
しおりを挟む
暖という青年が言っていたことは本当のように聞こえたが、期待して裏切られるかもしれないという思いもあった。どちらにせよ、自分にできることは待つことだけだと結論づけた。暖が来たことを知った那は、見張りの人に怒って、給料を減らしたらしい。そうすると行き場のない見張りの人の怒りの矛先は当然のように僕に向き、僕のご飯は一日に一回になってしまった。空腹でもう動くことが出来なくて、僕はぼんやりと小さな窓から見える空を見上げた。そこから、僕がこの国に来た時には美しく色づいていた木々も葉を落とし、冬支度をし終えたことが予想できる、冷たい風が吹いてきた。ひとりぼっちで過ごす部屋では寒さが身に染みて、僕は気を紛らわすために、自分の国にいた時の温かい記憶を思い出した。
僕は五歳の頃に、母を亡くした。そのため、従兄弟である凱が僕を育ててくれた。彼はとても明るく、賢い人だった。出会って最初の頃は、母を亡くしたショックで落ち込んでいる僕を、初めは何も言わずにただ見守ってくれた。たぶん、悲しみを乗り越えるためには、時間が必要だと思ってのことだろう。そのあと、僕の気持ちが少しずつ落ち着いてくると、彼は狼に獣化した自分の背に僕を乗せ、いろいろなところへ連れて行ってくれた。自然豊かな山、静かな川、賑やかな市場にも行った。そうやって旅をする間に彼は、僕に生きるために必要なことを教えてくれた。一年ほど旅をした後に彼は、
「薫、俺と一緒に住まないか?」
と提案してくれた。
「うん!」
と勢いよく頷いた僕の頭を凱はその大きくて温かい手で撫でて、嬉しそうに笑った。そうして僕と凱は僕が人間国にくるまで一緒に過ごした。
僕と凱が最初に出会った時、彼はまだ十五歳、ちょうど獣人にとっての成人がその頃だ。あとから聞いたことだけど、彼は誰かに頼まれたわけではなくて、自分で僕の世話をすることを申し出たそうだ。五歳の子供を一人で育てることは、僕が想像している以上に大変だったと思う。しかし、嫌な顔一つせずに優しく時には厳しく育ててくれた凱。僕が人間国に来る前に彼が見せた心配そうな顔が心に浮かんだ。
「会いたい…」
声に出すと、その思いが強くなると同時に、部屋に自分の声が響き、僕は余計に寂しくなった。自分で意図してないのに、涙が頬を伝って流れた。
「凱, 凱, 会いたいっ」
止めどなく流れる涙を拭いながら空を見上げると、雪がふわりふわりと空を舞っていた。
僕は耐えられなくなって、意識の糸を手放した。
僕は五歳の頃に、母を亡くした。そのため、従兄弟である凱が僕を育ててくれた。彼はとても明るく、賢い人だった。出会って最初の頃は、母を亡くしたショックで落ち込んでいる僕を、初めは何も言わずにただ見守ってくれた。たぶん、悲しみを乗り越えるためには、時間が必要だと思ってのことだろう。そのあと、僕の気持ちが少しずつ落ち着いてくると、彼は狼に獣化した自分の背に僕を乗せ、いろいろなところへ連れて行ってくれた。自然豊かな山、静かな川、賑やかな市場にも行った。そうやって旅をする間に彼は、僕に生きるために必要なことを教えてくれた。一年ほど旅をした後に彼は、
「薫、俺と一緒に住まないか?」
と提案してくれた。
「うん!」
と勢いよく頷いた僕の頭を凱はその大きくて温かい手で撫でて、嬉しそうに笑った。そうして僕と凱は僕が人間国にくるまで一緒に過ごした。
僕と凱が最初に出会った時、彼はまだ十五歳、ちょうど獣人にとっての成人がその頃だ。あとから聞いたことだけど、彼は誰かに頼まれたわけではなくて、自分で僕の世話をすることを申し出たそうだ。五歳の子供を一人で育てることは、僕が想像している以上に大変だったと思う。しかし、嫌な顔一つせずに優しく時には厳しく育ててくれた凱。僕が人間国に来る前に彼が見せた心配そうな顔が心に浮かんだ。
「会いたい…」
声に出すと、その思いが強くなると同時に、部屋に自分の声が響き、僕は余計に寂しくなった。自分で意図してないのに、涙が頬を伝って流れた。
「凱, 凱, 会いたいっ」
止めどなく流れる涙を拭いながら空を見上げると、雪がふわりふわりと空を舞っていた。
僕は耐えられなくなって、意識の糸を手放した。
23
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる