53 / 140
幼少期
53 アンナ、現実を知る
しおりを挟む
「いや~、良い商談でした」
「いやいや、俺はさ、アンナの課外授業についてきたんだけど、トーマス叔父さんのせいですっかり見逃したよ」
「これも領主の役目ですな」
「次期……だけどね」
確かに領主ともなれば自分の興味よりも、領全体を優先しなきゃだけどさ、まだ次期であって領主ではないはずなんだけどなぁ。
「……お兄様」
「おぉっ!? アンナ……どうした?」
やべえ、トーマス叔父さんとのじゃれあいで完全にアンナが傍にいることに気づかなかったよ。
っていうか、なんか落ち込んでるんだが……どうしたんだ?
「お兄様、平民ってみんなこうなのですの?」
「? よくわからんが、なにかされたのか? 邪魔するなって怒鳴られたとか、頭をポカリとやられたとか」
「マックス、ウチの従業員がそんな無作法するわけないでしょ!」
「ですよね。わかってますよ、ユリア姉さん」
「違うんですの。……お兄様、ここの従業員はお兄様くらいの年齢の方が立派にお客様に対応して、私と同じくらいの年齢の子が商品の名前や数の数え方をお勉強していましたの」
うん、アンナの言うことはそれはそうだろう。
この世界には労働基準法なんてものはないし、子供も立派な労働力だ。
なにより、商人という特殊な職業に着こうと思えばそれ相応の努力をしなければならない。
「アンナ、それは当たり前のことだろう? 商品の名前も知らない、お釣りの計算もできない、そんな人間は商人として生きていくことは出来ない」
「でも、こんな小さなころから……」
「……アンナ。わかっているだろう? 自分の我を通すためには力が必要だ。……ユリア姉さん、ここの子供たちは?」
「裏にいる子たちは農民の子供たちだね。畑を継げないから商人になりたいって子たちだよ」
「農民の子なのに畑を継げないんですの?」
「アンナもそうだろう? 俺がいるからゲルハルディ領の領主を継ぐことは出来ない……貴族として生きることは出来るけどね」
そう、これは平民だろうと貴族だろうと変わりはない。
家を継げるのは限られた人間で、それ以外の人間は家を継ぐ以外の生き方を考えなければならない。
ま、俺から言わせてもらえれば、継ぐことが決まってるからって努力を怠る理由にはならないし、努力を怠れば跡継ぎから外されるから苦労は一緒だけどね。
「……でも、平民の子供は遊んで暮らしてるって……」
「それも真実だよ。貴族にはそれ相応の教育が課され、生活そのものが勉強と言っても過言ではない。俺もレナも苦労をして今日まで生きてきた」
「では、やっぱり貴族の方が大変ですの?」
「それはアンナが最後まで課外授業を受けて、それから考えることだよ」
「……わかりましたわ」
まあ、自分でもひどいことをしている自覚はある。
相手のことを考えれば、問答無用で勉強させて、なにがなんでも貴族として生きさせるのが簡単だろう。
でもそうして育てられて人間は往々にして他人の苦労を知らず、自分ばかりが大変だと思いがちだ。
アンナにはそんな人間に育ってほしくないし、それは父上も母上も、レナも教師も、ユリア叔母さんもトーマス叔父さんも同じ思いだ。
「じゃあ、課外授業を続けようか。今日はまだまだ行くところがいっぱいだからな」
「そうそう、ウチはまだまだ序の口。ここで働いているのは平民の中でも上流階級だからね」
「……これより大変な人が?」
「そりゃあそうだよ。ウチで働いている人やアンドレ商会で働いている人は、身なりに気が使えて将来のためにお金を使える人たちだからね」
アンナの世界はゲルハルディ家の屋敷で完結しているから、貴族であり主でもある家族と、それに仕える使用人しかいない。
だから、平民と言えば使用人で、それよりもひどい生活をしている人など見たこともないだろう。
「……少し怖いですわ」
「ま、大変と言ってもそれも人それぞれ。お金がなくても自由がある方が良い人もいれば、自由なんていらないから明日の食料の心配をしない方が良い人もいる」
この辺は前世と全く変わりないな。前世でもフリーターで良いから趣味や遊びの時間が欲しいって人もいれば、老後に遊んで暮らすために若いうちは体力の続く限り無理するって人もいたし。
俺としては、ほどほどが良いけどね。ほどほどに頑張って、ほどほどに趣味の時間を持って、それで親しい人たちと笑って暮らせればそれが良い。
「いやいや、俺はさ、アンナの課外授業についてきたんだけど、トーマス叔父さんのせいですっかり見逃したよ」
「これも領主の役目ですな」
「次期……だけどね」
確かに領主ともなれば自分の興味よりも、領全体を優先しなきゃだけどさ、まだ次期であって領主ではないはずなんだけどなぁ。
「……お兄様」
「おぉっ!? アンナ……どうした?」
やべえ、トーマス叔父さんとのじゃれあいで完全にアンナが傍にいることに気づかなかったよ。
っていうか、なんか落ち込んでるんだが……どうしたんだ?
「お兄様、平民ってみんなこうなのですの?」
「? よくわからんが、なにかされたのか? 邪魔するなって怒鳴られたとか、頭をポカリとやられたとか」
「マックス、ウチの従業員がそんな無作法するわけないでしょ!」
「ですよね。わかってますよ、ユリア姉さん」
「違うんですの。……お兄様、ここの従業員はお兄様くらいの年齢の方が立派にお客様に対応して、私と同じくらいの年齢の子が商品の名前や数の数え方をお勉強していましたの」
うん、アンナの言うことはそれはそうだろう。
この世界には労働基準法なんてものはないし、子供も立派な労働力だ。
なにより、商人という特殊な職業に着こうと思えばそれ相応の努力をしなければならない。
「アンナ、それは当たり前のことだろう? 商品の名前も知らない、お釣りの計算もできない、そんな人間は商人として生きていくことは出来ない」
「でも、こんな小さなころから……」
「……アンナ。わかっているだろう? 自分の我を通すためには力が必要だ。……ユリア姉さん、ここの子供たちは?」
「裏にいる子たちは農民の子供たちだね。畑を継げないから商人になりたいって子たちだよ」
「農民の子なのに畑を継げないんですの?」
「アンナもそうだろう? 俺がいるからゲルハルディ領の領主を継ぐことは出来ない……貴族として生きることは出来るけどね」
そう、これは平民だろうと貴族だろうと変わりはない。
家を継げるのは限られた人間で、それ以外の人間は家を継ぐ以外の生き方を考えなければならない。
ま、俺から言わせてもらえれば、継ぐことが決まってるからって努力を怠る理由にはならないし、努力を怠れば跡継ぎから外されるから苦労は一緒だけどね。
「……でも、平民の子供は遊んで暮らしてるって……」
「それも真実だよ。貴族にはそれ相応の教育が課され、生活そのものが勉強と言っても過言ではない。俺もレナも苦労をして今日まで生きてきた」
「では、やっぱり貴族の方が大変ですの?」
「それはアンナが最後まで課外授業を受けて、それから考えることだよ」
「……わかりましたわ」
まあ、自分でもひどいことをしている自覚はある。
相手のことを考えれば、問答無用で勉強させて、なにがなんでも貴族として生きさせるのが簡単だろう。
でもそうして育てられて人間は往々にして他人の苦労を知らず、自分ばかりが大変だと思いがちだ。
アンナにはそんな人間に育ってほしくないし、それは父上も母上も、レナも教師も、ユリア叔母さんもトーマス叔父さんも同じ思いだ。
「じゃあ、課外授業を続けようか。今日はまだまだ行くところがいっぱいだからな」
「そうそう、ウチはまだまだ序の口。ここで働いているのは平民の中でも上流階級だからね」
「……これより大変な人が?」
「そりゃあそうだよ。ウチで働いている人やアンドレ商会で働いている人は、身なりに気が使えて将来のためにお金を使える人たちだからね」
アンナの世界はゲルハルディ家の屋敷で完結しているから、貴族であり主でもある家族と、それに仕える使用人しかいない。
だから、平民と言えば使用人で、それよりもひどい生活をしている人など見たこともないだろう。
「……少し怖いですわ」
「ま、大変と言ってもそれも人それぞれ。お金がなくても自由がある方が良い人もいれば、自由なんていらないから明日の食料の心配をしない方が良い人もいる」
この辺は前世と全く変わりないな。前世でもフリーターで良いから趣味や遊びの時間が欲しいって人もいれば、老後に遊んで暮らすために若いうちは体力の続く限り無理するって人もいたし。
俺としては、ほどほどが良いけどね。ほどほどに頑張って、ほどほどに趣味の時間を持って、それで親しい人たちと笑って暮らせればそれが良い。
178
あなたにおすすめの小説
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
魅了魔法? なんだそれは?
その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。
R15は死のシーンがあるための保険です。
独自の異世界の物語です。
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
悪役令息の継母に転生したからには、息子を悪役になんてさせません!
水都(みなと)
ファンタジー
伯爵夫人であるロゼッタ・シルヴァリーは夫の死後、ここが前世で読んでいたラノベの世界だと気づく。
ロゼッタはラノベで悪役令息だったリゼルの継母だ。金と地位が目当てで結婚したロゼッタは、夫の連れ子であるリゼルに無関心だった。
しかし、前世ではリゼルは推しキャラ。リゼルが断罪されると思い出したロゼッタは、リゼルが悪役令息にならないよう母として奮闘していく。
★ファンタジー小説大賞エントリー中です。
※完結しました!
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
悪徳領主の息子に転生しました
アルト
ファンタジー
悪徳領主。その息子として現代っ子であった一人の青年が転生を果たす。
領民からは嫌われ、私腹を肥やす為にと過分過ぎる税を搾り取った結果、家の外に出た瞬間にその息子である『ナガレ』が領民にデカイ石を投げつけられ、意識不明の重体に。
そんな折に転生を果たすという不遇っぷり。
「ちょ、ま、死亡フラグ立ち過ぎだろおおおおお?!」
こんな状態ではいつ死ぬか分かったもんじゃない。
一刻も早い改善を……!と四苦八苦するも、転生前の人格からは末期過ぎる口調だけは受け継いでる始末。
これなんて無理ゲー??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる