気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ

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幼少期

54 串焼き屋のおばちゃんと平民の生活

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「おー坊ちゃん、それにお嬢様も。よく来ましたね」

「おばちゃん、今日は妹のためにありがとね」

「良いんだよ。こっちはいつも旦那様たちにはお世話になってるんだからねぇ」

「ありがとうございます、おば様」

「あら~、やだよ~、おば様だなんて~」

 アンドレ商会を出て、次の目的地は屋台の商店。
 ゲルハルディ領では出店税も屋台か、店舗かで違うから意外にも美味しい店が屋台ってこともある。
 ここもそんな美味しい店の一つで、父上たちや騎士団の連中も買い食いというか、見回りの帰り道に利用しているらしい。

「お、今日はちびちゃんが手伝ってるのか?」

「そうだよ、マックス兄ちゃん」

 この店は俺も何度か利用したことがあるが、成人間近の子供から俺よりも年下の子供まで、おばちゃんの子供たちが手伝いに駆り出されている。
 おばちゃんは食材の切り分けなんかを担当して、串に刺したり、焼いたりといった工程や呼び込みは子供たちの担当というわけだ。

「こんな子供も働いているんですの?」

「子供って、そっちの方が年下だろ?」

「バカ息子! お姫様になんて口の聞き方するんだい!」

「いってぇな~! …………って、お姫様ってマックス兄ちゃんの!?」

「妹だけど、そこまでかしこまらなくていいよ。お披露目もまだだし」

「そうはいかないよっ! こっちはご領主様の慈悲で生きていけてるんだからねっ!」

「……ご、ごめんなさい」

「だから、良いって。こっちは今はただの客なんだからさ。マックス兄ちゃんにアンナでいいよ。……で、アンナ。この子はおばちゃんの子供で1年前、つまりアンナの年から働いてるよ」

「……私と同じ年から!?」

「……うん、最初は失敗ばっかりだったけどね」

「そりゃあ、そうさ。子供が大人と同等の働きをみせられたらビックリしちまうよ。ま、失敗した分も近所の子供に割引価格で売ってるから大丈夫だしね」

「そうなんですのね」

「ま、ここは特別に美味いからね。少々の失敗で安くなるなら、むしろご褒美って感じでしょ」

「いやいや~、流石に騎士様たちに差し上げるわけにはいかない失敗作だから、家に帰ったら失敗した分だけ小言だよ」

「も~、かあちゃんの小言がホントに長くて」

「愛があるんだから、心して聞きゃあいいのさ」

「クックッ、その話……上の兄ちゃんたちからも同じ話を聞いたな」

「そうなの!?」

「まあ、ウチの伝統だからね。かく言うアタシだってアンタくらいの年のころには父ちゃんや母ちゃんから同じように叱られたもんさ」

「うそっ!? かあちゃんがっ!?」

「そりゃあそうさ。……おっと、坊ちゃんたちを待たせるのも悪いね。昔話は家に帰ってから」

「はーい……で、マックス兄ちゃん。ご注文は?」

「とりあえず護衛の分は良いから、串焼きを5人分で」

「あいよ」

 流石に俺よりも年下だから、手つきが鮮やかってわけにはいかないが、それでも毎日手伝っているからか迷いのない手つきで串焼きを焼いていく。
 アンナも食い入るように見つめているし、平民だからと遊んで暮らしているわけではないことを少しは分かってくれているだろうか。

「あいよ、マックス兄ちゃん。串焼き5人分おまち」

「サンキュ。じゃあ、少し歩きながら、食べようか。……おばちゃん、今日はありがとね」

「坊ちゃんとお姫様の役に立てたなら本望さ。また、ごひいきにね」

「ああ、父上や騎士団連中にも言っとくよ」

 俺やレナ、ユリア叔母さんは買い食いなんて慣れたものだけど、アンナはもちろん、貴族であるアンナの先生も串焼きをそのまま食べるなんて初めてだからおっかなびっくりだ。
 まあ、流石に歩きながらというのは難しいようだから、広場にあるベンチを使わせてもらっておばちゃんの串焼きを食べることにした。

「美味しいか、アンナ?」

「はいっ、お兄様! ……お兄様、あの子、私と同じくらいの年なのに立派に働いていましたわ」

「ああそうだな。それに気づいたか? あの子は俺たちと違って教育なんて受けていない。母親や兄たちから少しずつ教わりながら文字や数字を勉強してるんだ」

「平民は教育を受けられませんの?」

「アンドレ商会に勤められるような家系なら入れる学園もある。だが、ほとんどの領民は文字も数字も自分にかかわりのある範囲しかわからないだろうな」

 ゲルハルディ領には平民が通える教会学校があるが、入学費用、授業料、その他もろもろを考えれば誰でも気軽に入れるというわけではない。
 だからこそ、ほとんどの領民は親が子供に文字や数字を教えるのだが、教育用の物品が気軽に手に入るわけではないから、自分に必要な部分だけになる。

「そう……なんですのね」
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