【完結】旦那様、離縁後は侍女として雇って下さい!

ひかり芽衣

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7:結婚ニ年目:タングール伯爵家

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結婚して一年が経ったが、マリーはマリーが思い描く夫婦像からは遠くかけ離れた日々を送っていた。

「旦那様、今日はバナナのケーキを焼こうと思っているのですが、食べられますか? 食べられませんか?」

この質問をしたマリーは(しまった!)と思った。

「ああ」

この返事が返って来る事が分かっていたからだ。

「……食べられますか?」

「ああ」

「……もう、二度手間です! 食べるか食べないか答えて下さればすぐに済む会話なのに!」

「君が質問を重ねるからではないか」

そう、いつもマリーがつい質問を重ねてしまうと、マストは絶対に『ああ』としか答えないのである。
なのでどちらに対して肯定の返事をしたのかがわからずに、マリーは繰り返し質問をすることとなるのだ。

(あー、面倒くさい!!!)

マリーは心の中でそう叫びながら、顔には笑顔を貼り付けて答えた。

「では、旦那様は今日の午後は屋敷にいらっしゃるということなので、午後のお茶と一緒にお持ちいたしますね」

「ああ」

いつもの無表情で素っ気ない返事に、マリーはイライラしてしまう。

(今も一度も私の方を見なかったわ)






午後のお茶の時、マリーはマストにお伺いを立てた。

「来客用のベッドシーツを買い替えようと思うのですが、私が選ばせて頂いても宜しいでしょうか?」

「ああ。決まったら、購入する前に見せてくれ」

分かり切っていたマストの返答に、マリーは顔を引き攣らせた。

(ああ、面倒くさい!)

そう心の中で思いながら、いつもの笑顔を貼り付けて答えた。

「はい、わかりました。旦那様はセンスが良いですものねー」

少し嫌味を交えてみても、マストにダメージを与えることに成功したことはなかった。


マストは拘りが強かった。
屋敷の物は全て、購入前にマストに物を確認してから購入許可を得る必要がある。
その他にも家具の配置を変える時なども、いちいち許可を取る必要があるのだ。

何をするにも自分の一存では行動が出来ずに、いちいちマストの許可を得なければならないことに、マリーは面倒臭い気持ちと共に、息苦しさも感じていた。

以前、一度マリーは勝手にカーテンを購入したことがあった。
購入したこと自体は怒られはしなかったが、『デザインが部屋に合わない』と、すぐに買い替えられてしまったのだ。
それ以降、勝手に買うことの方が面倒だと考え、大人しくいちいち許可を取るようにしているのだった。



そして子どもが出来ないこともまた、マリーを居心地悪くさせていた。

「若いのに、まだできないの!?」

ローレルはマリーに会う度に、そう言って来た。
子どもは授かり物であるし、まだ結婚して一年なので、マリーはさほど焦る気持ちはなかった。
実際、マストが多忙で機会が少ないのもある。
しかしローレルに会う度に言われるのが鬱陶しくて、避けることの出来ない夕食時以外は、ローレルを避けるようになってしまった。

(旦那様を産んで下さった方ですもの、本当は避けたりしたくないのだけれど……)

マリーは罪悪感を抱きつつも、責められ続け疲弊していく自分の心を守ることにした。



そんな居心地の悪い生活を送っているマリーだったが、唯一人、心を開くことが出来る人物が出来ていた。
これがこの一年間で唯一の朗報である。
その人物は、マリー付きの侍女となったアリスだ。

アリスはマストの前妻にも仕えていたと知り、仲良くなった頃にマリーは尋ねてみた。

「マリー、旦那様は何故前の奥様と離縁なさったのか知っているかしら?」

「……はい、奥様。ご本人に伺った訳ではありませんが、使用人の間では"中々妊娠しないため大奥様が虐めて、それに耐えきれずに自ら出て行った"そう言われれております」

「そうなの……」

悲しそうな顔で言うアリスに、マリーも複雑な想いになる。
今のマリーは小言を言われるだけだが、もっと酷い仕打ちを受けていたのかもしれない。

(私の未来になるかもしれないわね……)

難しい顔をしているマリーに、アリスは続ける。

「ただ、それだけではないと思います。旦那様への不満をよく私に仰っていたので……」

これもまた、今のマリーとマストが決してうまくいっているとは言えない状況で、重なる部分がありマリーは思わず苦笑いをした。

(私は、旦那様の悪口を他人に言うようにはなりたくないわね……)

父からは母の、母からは父の愚痴を聞いて育ったマリーは、自分は絶対に配偶者の悪口を他人に言うようなことはしたくないと考えているのだ。
もし今後子供が産まれたら尚更だ。

マリーは改めてその想いを強くしたのだった。

(つまり、旦那様とお義母様のどちらもが原因のようね……)



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