18 / 51
18:マストの配慮
しおりを挟む
マリーの願いに、マストは驚いた顔をした。
(これほど驚いた顔を見るのは初めてね)
マリーはマストを見つめながら、そう思った。
「本気か?」
「はい。子ども達と離れたくないのです。離縁はしますから、どうかそれで私をこの屋敷へ置く事をお義母様に許して頂ける様、旦那様から頼んでは頂けないでしょうか?」
マリーは目に涙を浮かべながら言った。
「……」
マストは"ジッ"とマリーを見た。
「宜しくお願い致します……」
マリーは縋るようにマストのシャツを右手で掴み、"クシャッ"と思い切り握った。
「……この屋敷の主人は俺だ。離縁をするかどうかも俺が決める事だ。……それでも、それがお前にとって最善の案か?」
マリーは驚いてマストを見上げた。
遠回しに、『離婚をしたくない』と言っている様に聞こえたのだ。
見上げたマストの眉間には、僅かに皺が刻まれていた。
「……この様な事があり、流石にお義母様に逆らってまで妻として居座る事は出来ません・・・。ギスギスした環境の中で子ども達を育てる事も極力したくはありません」
マリーはマストを見上げたまま言う。
マストは眉間の皺を一瞬更に深くしたが、すぐに顔を逸らした。
「……わかった。お前の良い様にすると良い。母上には私から言っておく。反対をしても、私の決定がこの屋敷の決定だ。お前を侍女として雇う」
マストはそう言って、夫婦の寝室から出て行った。
そしてその夜はもう、戻っては来なかった。
その翌日以降も、マリーがいる間はマストがその寝室で眠る事はもうなかった。
マリーがマストに侍女として雇って欲しいと頼んだ翌々日、タンブール伯爵邸へブルースが来訪した。
ローレルに会っているとのことで、マリーは応接間近くの廊下で話が終わるのをソワソワしながら身を潜めて待っていた。
「お兄様!」
応接間からローレルが退室し、その後出て来たブルースに、身を潜めていたマリーは駆け寄って声を掛けた。
「マリー……」
マリーを見て、ブルースは優しく微笑んだ。
「マリー、少し二人で話せるかい?」
マリーはブルースを自室へ案内した。
「マリー、ローレル婦人へ全額返金したよ」
「えっ!?」
マリーは驚きに目を見開いた。
そして"ゴクッ"と唾を飲み込んでから、尋ねた。
「……あの様な大金をどのように準備されたのですか??」
ローレルに全額返金をしたと聞き、ブルースが悪事に手を染めたのではないかとマリーは心配になる。
そんなマリーの心配そうな表情を見ながら、ブルースは苦笑いをした。
「やはり知らないのだな。……実は、タンブール伯爵が立て替えて下さったのだ」
「えっ……」
マリーはあまりにも意外な名前が出て来て驚いた。
「ローレル婦人にはその事は言わずに、自ら用立てた事として返済をして欲しいと言われたのだ。伯爵が立て替えた事を知れば、ローレル婦人の怒りは収まらないだろうからと」
「……」
「……離縁の事を聞いたよ。伯爵が直々に訪ねて来て下さり、金を貸してくれた。マリーを侍女として雇うに当たり屋敷の中で居づらくない様に、ローレル婦人の怒りを出来るだけ収めたいと」
マリーは驚きの感情しか湧かず、何も声が出なかった。
「更に、我がプルドー男爵家を立て直す為の金まで貸して下さった。全て無利息、無期限で良いと……」
「旦那様……何故、そんな……。離婚をするのに……そこまで……」
「伯爵はただ、迷いはなく俺のことを信用している……とだけ仰ったよ」
ブルースはそこで穏やかな微笑みを浮かべ、明るい声で言った。
「伯爵は、お前と子ども達の事を大切に想っているのだな」
マリーはブルースの発言を聞き、一気に冷静さを取り戻した。
(そうか、だからか。私のためではなく、子供たちの為ね……。全額返済されたからといって、お義母様はもうプル度ー男爵家を許さないわ。私のことも許さない。離縁は免れないわ。だから、私の希望を叶えて下さるために、考えて下さったのね……。)
「母上の事も心配は不要だ。以前の貧乏生活に戻るだけだ。お前も新しい生活を頑張るんだぞ。俺は伯爵に必ず完済するからな!」
そう明るく断言をしてから、ブルースは帰って行った。
(これほど驚いた顔を見るのは初めてね)
マリーはマストを見つめながら、そう思った。
「本気か?」
「はい。子ども達と離れたくないのです。離縁はしますから、どうかそれで私をこの屋敷へ置く事をお義母様に許して頂ける様、旦那様から頼んでは頂けないでしょうか?」
マリーは目に涙を浮かべながら言った。
「……」
マストは"ジッ"とマリーを見た。
「宜しくお願い致します……」
マリーは縋るようにマストのシャツを右手で掴み、"クシャッ"と思い切り握った。
「……この屋敷の主人は俺だ。離縁をするかどうかも俺が決める事だ。……それでも、それがお前にとって最善の案か?」
マリーは驚いてマストを見上げた。
遠回しに、『離婚をしたくない』と言っている様に聞こえたのだ。
見上げたマストの眉間には、僅かに皺が刻まれていた。
「……この様な事があり、流石にお義母様に逆らってまで妻として居座る事は出来ません・・・。ギスギスした環境の中で子ども達を育てる事も極力したくはありません」
マリーはマストを見上げたまま言う。
マストは眉間の皺を一瞬更に深くしたが、すぐに顔を逸らした。
「……わかった。お前の良い様にすると良い。母上には私から言っておく。反対をしても、私の決定がこの屋敷の決定だ。お前を侍女として雇う」
マストはそう言って、夫婦の寝室から出て行った。
そしてその夜はもう、戻っては来なかった。
その翌日以降も、マリーがいる間はマストがその寝室で眠る事はもうなかった。
マリーがマストに侍女として雇って欲しいと頼んだ翌々日、タンブール伯爵邸へブルースが来訪した。
ローレルに会っているとのことで、マリーは応接間近くの廊下で話が終わるのをソワソワしながら身を潜めて待っていた。
「お兄様!」
応接間からローレルが退室し、その後出て来たブルースに、身を潜めていたマリーは駆け寄って声を掛けた。
「マリー……」
マリーを見て、ブルースは優しく微笑んだ。
「マリー、少し二人で話せるかい?」
マリーはブルースを自室へ案内した。
「マリー、ローレル婦人へ全額返金したよ」
「えっ!?」
マリーは驚きに目を見開いた。
そして"ゴクッ"と唾を飲み込んでから、尋ねた。
「……あの様な大金をどのように準備されたのですか??」
ローレルに全額返金をしたと聞き、ブルースが悪事に手を染めたのではないかとマリーは心配になる。
そんなマリーの心配そうな表情を見ながら、ブルースは苦笑いをした。
「やはり知らないのだな。……実は、タンブール伯爵が立て替えて下さったのだ」
「えっ……」
マリーはあまりにも意外な名前が出て来て驚いた。
「ローレル婦人にはその事は言わずに、自ら用立てた事として返済をして欲しいと言われたのだ。伯爵が立て替えた事を知れば、ローレル婦人の怒りは収まらないだろうからと」
「……」
「……離縁の事を聞いたよ。伯爵が直々に訪ねて来て下さり、金を貸してくれた。マリーを侍女として雇うに当たり屋敷の中で居づらくない様に、ローレル婦人の怒りを出来るだけ収めたいと」
マリーは驚きの感情しか湧かず、何も声が出なかった。
「更に、我がプルドー男爵家を立て直す為の金まで貸して下さった。全て無利息、無期限で良いと……」
「旦那様……何故、そんな……。離婚をするのに……そこまで……」
「伯爵はただ、迷いはなく俺のことを信用している……とだけ仰ったよ」
ブルースはそこで穏やかな微笑みを浮かべ、明るい声で言った。
「伯爵は、お前と子ども達の事を大切に想っているのだな」
マリーはブルースの発言を聞き、一気に冷静さを取り戻した。
(そうか、だからか。私のためではなく、子供たちの為ね……。全額返済されたからといって、お義母様はもうプル度ー男爵家を許さないわ。私のことも許さない。離縁は免れないわ。だから、私の希望を叶えて下さるために、考えて下さったのね……。)
「母上の事も心配は不要だ。以前の貧乏生活に戻るだけだ。お前も新しい生活を頑張るんだぞ。俺は伯爵に必ず完済するからな!」
そう明るく断言をしてから、ブルースは帰って行った。
22
あなたにおすすめの小説
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
婚約者から悪役令嬢と呼ばれた公爵令嬢は、初恋相手を手に入れるために完璧な淑女を目指した。
石河 翠
恋愛
アンジェラは、公爵家のご令嬢であり、王太子の婚約者だ。ところがアンジェラと王太子の仲は非常に悪い。王太子には、運命の相手であるという聖女が隣にいるからだ。
その上、自分を敬うことができないのなら婚約破棄をすると言ってきた。ところがアンジェラは王太子の態度を気にした様子がない。むしろ王太子の言葉を喜んで受け入れた。なぜならアンジェラには心に秘めた初恋の相手がいるからだ。
実はアンジェラには未来に行った記憶があって……。
初恋の相手を射止めるために淑女もとい悪役令嬢として奮闘するヒロインと、いつの間にかヒロインの心を射止めてしまっていた巻き込まれヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:22451675)をお借りしています。
こちらは、『婚約者から悪役令嬢と呼ばれた自称天使に、いつの間にか外堀を埋められた。』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/891918330)のヒロイン視点の物語です。
白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。
健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。
父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。
白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる