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39:何があったの?
しおりを挟む外出から戻ると、ローラはそそくさと自分の部屋へ戻った。
「旦那様、ケーキ屋で一体何があったのですか?」
「彼女の質問に正直に答えただけだ」
「どのような質問ですか?」
「……もう良いだろう。子ども達のことは頼んだ」
マリーは恨めしい顔でマストをじっと見る。
それに気付いたからなのかは定かではないが、マストは部屋を出る前に一言付け足した。
「マリー、君は薄着過ぎる。風邪をひかないように気をつけるんだぞ」
マリーと目を合わせてそう言ったマストは、マリーの返事を待たずに部屋を後にする。
(何で、ドキッとさせるのよ……)
マリーはマストに優しい言葉をかけてもらうことに、いまだに慣れていない。
(あれほど優しい言葉がなくてキツい物言いだったのに……。優しい言葉を言うことができ出すと段々と使うことに抵抗がなくなっていって、自然に口をついて出るようになるのね……。……本質は優しいってことよね……)
マリーは頬を赤らめ、フリージアとリリーの着替えをしながら考えていた。
(結婚していた頃は、お互いに意地を張り合っていただけなのかもしれないわね……。相手を変えたいだなんておこがましかったわ。まずは自分が変わらなければならなかったのよね……)
「よしっ! ただ成り行きに身を任せるのはもうやめましょう!」
外出に疲れたのか、着替えが終わって少し遊ぶと、二人はスヤスヤと昼寝を始めた。
マリーは使用人に二人を見ていて貰うように頼んで、ローラを訪ねた。
(ただの侍女が突然ローラ様を訪ねるなんて失礼かしら……。けれど今しか時間はないし、きっとローラ様なら許してくださるはず……)
そう言い訳を心の中でしていると、ローラの部屋の前に辿り着く。
"コンコン"
マリーはここまで来た勢いのまま、ドアをノックする。
「はい、どうぞ」
とうやら一人のようだ。
「失礼いたします」
マリーが入室すると、ローラは外出着のまま椅子に座って窓の外を眺めている。
「あら、マリー。今日は誘ってくれてありがとうね。きちんとお礼も言わずに、さっさと部屋にひき下がってしまってごめんなさいね」
ローラは泣いたのか、目が少し赤い。
「いいえ、問題はありません。……あのっ、ケーキ屋で一体何があったのですか?」
「……なぜ、あなたに言わないといけないの?」
心配そうな顔のマリーを見て、ローラは言う。
珍しく無表情だ。
綺麗な人の無表情は迫力がある。
マリーは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「……私がお誘いしたので、責任を感じているのです。何か嫌な想いをされましたか?」
マリーはとにかく何があったのか知りたかった。
マリーをジッと見ていたローラは、マリーの真剣さが伝わったのか重たい口を開いた。
「……3ヶ月待って欲しいと言われたことについて、途中経過を尋ねたの。すると、"今も方法を探っている"と返事があったわ」
窓の外を見ながら、ポツポツとローラは話す。
「……方法?」
「そう、方法……。私はてっきり、3ヶ月で私を受け入れる心の準備をして下さるのだとばかり思っていたの。前の奥様とは死別だとローレル様に聞いていたし、小さいお子様もいるし、とにかく3ヶ月は待とうと思ったわ」
ローレルは苦笑いを浮かべてマリーを見た。
「けれど、違ったの。伯爵様は私とのことを前向きに考えて下さっている訳ではなかったの。どうするのが一番平穏に事を片付けられるか、それを考えていたのよ」
マリーは驚きに固まる。
(どういうこと!? 旦那様はローラ様とのことに前向きなはずよ……!?)
「マリー……、あなたと伯爵様はどういう関係なの?」
戸惑っているマリーに、ローラは真面目な顔で更に戸惑うことを問う。
「えっ!? ……どうって……」
「今日思ったけれど、二人の雰囲気がただの雇用主と使用人には思えないわ。……ひょっとして、あなたと伯爵様は良い仲なのではないの?」
まるで獲物を捉えたような眼差しでジッと見るローラに、マリーは怯む。
「……その様なことは決してありません!!!」
マリーはハッキリとそう言うが、明らかにローラの瞳は疑いの眼差しだ。
(どうしよう……。私の口から真実を話す訳にはいかないわ。嘘を信じてもらうには、真実を混ぜる……真実……)
マリーはふうっと一息吐き、姿勢をただしてローラを真っ直ぐに見つめた。
「……私は、旦那様とその様な関係では決してありません。……ただ、私が旦那様をお慕いしているだけです……」
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