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42:決意
しおりを挟む「……これは、預かった手紙です……」
マリーは大男から持たされた手紙を叔母に渡す。
その場ですぐに開封して内容に目を通した叔母は、一つ大きな溜め息をつく。
「あなたを最低半年は屋敷から出すなと書いてあるわ。その後も三年は町から出すなと……。あなたは子供を産めないの? ローレルは男児に拘っているから、あなたがマストとの間に男児をもうければ全て解決するのではないの? それも許されないほど、身分が低いの? それなら最初から雇うはずがないわね……」
叔母は明らかに"面倒ごとに巻き込まれた"そのような顔をしている。
(男児をもうければ全て解決する……ですって? やはり大奥様のお姉様ね。簡単に言って! 人の命をなんだと思っているのよ。子どもは親の道具じゃないわよ! 授かって当たり前ではないのよ! 元気に産まれることが当たり前ではないのよ! 男児でなければ家を継げないなんて決まりがある訳でもないのに! ただ大奥様が男尊女卑の思考を周りに押し付けているだけじゃない!)
情緒不安定のマリーは、今度は猛烈に怒りが込み上げて来た。
(旦那様は男児に拘っていないとも言っていたわ……。きっと大奥様は、旦那様の言葉なんて聞く耳を持たないのでしょうけれど……。そもそも旦那様は、私やフリージア、リリーに対しての大奥様の悪態も知らなかったのよね……)
マリーは今度は急に落ち込んだ。
(……結婚している時に、旦那様に相談するべきだったわ……)
マリーの涙は、気付くと止まっていた。
マリーは何故だか突然、冷静になっていくのを感じる。
「……取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。私はこちらで働くことは出来ません。ご迷惑をお掛けしました。これで失礼いたします」
マリーはまっすぐに叔母を見てそう言うと、深く頭を下げた。
急に様子の変わったマリーに叔母は少し驚いた顔をした後、すぐに真顔になって言った。
「……わかったわ。私は使用人を雇っただけのつもりだったの。これほどまで訳ありだとは思わなかったわ。あなたの好きにしなさい。ローレルには出て行ったと言っておくわ」
何故か叔母は、マリーを玄関まで送ってくれた。
「……私は遠くに住んでいる上に身体が悪くて、暫く本家へは行けていないの。マストの2回目の結婚式にも行けなかったし。暫く会っていないけれど、父親を早くに無くした上に母親はあの頑固なローレルでしょ? ずっと気になってはいたのよ……」
マリーの背中に向けてボソッと呟かれるその言葉達は、マリーの耳にしっかりと届く。
「私は、マストには幸せになって欲しいと思っているのよ……」
その切実な言葉を聞いて、マリーは振り返らずにはいられなかった。
そして、叔母へ精一杯の笑顔を向ける。
「……はい、私もそう思っています。今は……」
叔母はマリーの笑顔に一瞬驚いた顔をした後、笑って言った。
「意地悪な妹なんかに負けないで! 自分の幸せのために自分の意志を貫きなさい!」
思わぬエールに、今度はマリーが驚いた顔をする番だった。
しかし、すぐに破顔してマリーは言う。
「……はい!」
「あなが幸せになって、マストのことも幸せにしてやってちょうだい」
「……はい……」
マリーは少し戸惑いながらも返事をする。
(そうしたい)
そう心から思ったのだ。
(旦那様とフリージア様、リリー様、みんなで一緒に幸せになりたい……)
現在地と馬車乗り場、質屋を教えて貰い、マリーは礼を言って叔母の屋敷をあとにした。
「……あなたのことは、ローレルから訊ねてくるまでは私からは何も言わないでおくわ」
「……ありがとうございます」
マリーは少し微笑んで言った。
(今更でもなんでも、私の今の気持ちを旦那様に伝えに行くわよ!)
マリーはそう決意したのだった。
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