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34:脱出
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アリーナは屋敷の真裏からそっと庭へ出た。
途中で使用人数人にすれ違ったが、こっそり"二人は今アリーナの部屋にいる"と、皆が教えてくれた。
そしてこの裏口がアリーナの部屋の窓から見えず、厩舎にも行きやすいと教えてもくれた。
使用人が味方になってくれることは、今までの頑張りを認めて貰えるようで嬉しかった。
それと同時に、使用人の生活のためにも、『国王に会わなければならない』と改めて思った。
問題なく外に出られたアリーナは、一縷の望みをもって厩舎に寄った。
「走れる馬はいる?」
「お嬢様! お怪我をして!!!」
「しーーーっ!!!」
口の前で人差し指を立てるアリーナに、御者は口篭る。
「門の前でやられた馬は脚を怪我していて走れません。他は皆んな寝ています……。起きてくれると良いのですが……」
小声で心配そうに言う御者の手をアリーナは取った。
「目を覚ますと信じましょう」
御者は静かに頷く。
「お嬢様、王都へ向かわれるおつもりですか?」
「ええ。スカイ様と領地を出た所で待ち合わせをしているの。そこまで何とか辿り着きたいのだけれど……」
昨日男爵とライアンが屋敷へ来たことを念のためにスカイへ伝えておくと、心配したスカイが迎えに来ると申し出たのだ。
大丈夫だと言っても聞いてくれず、お互いに妥協して中間地点で落ち合うこととした。
(まさかこのようなことになるとは思っていなかったわ。こんなことなら、スカイ様に迎えに来て貰えばよかったわ……)
アリーナは悔やんでも悔やみきれなかったが、後悔先に立たずだ。
こうなってしまったものは仕方がない。
「だれか従者を呼んで来ましょう」
「いいえ、目立ちたくないから一人で行くわ。私が抜け出したことにもすぐに気づくでしょうし、追って来るかもしれないから」
御者は心から心配そうな顔をしている。
「でしたら、屋敷を出て30分ほど歩いた所にあるダイスの家に寄ってみたら良いかもしれません。牛で荷物を引いているので……スピードは遅いですが、お嬢様一人引いて歩くのなら、歩行よりは断然早いかと……」
「そうなの? 考えてみるわ、ありがとう」
アリーナは屋敷の敷地から出て目立たないところまで行くと、一気に走り出した。
「ああ、もう! ヒールじゃ走りにくいわ!!!」
アリーナはヒールを岩にたたきつけて靴から取り除いた。
「そこが変な形をしているから、これでも走りにくいわね……」
しかしヒールがあるよりは転倒リスクは低そうだ。
アリーナは出来る限り走った。
(体力がなさすぎる……)
御者の言っていたダイスの家に、15分ほどで着いた。
(どうか居てちょうだい!)
「ダイス! ダイス! いる!?」
「はーい」
奥から青年が駆け出て来た。
「お嬢様!!!」
「私を運んでくれない? 急いでいるの! 出来るだけ速く!!!」
怪我をしてボロボロのアリーナを見て、”ただ事ではない”とすぐに察知したダイスは、速やかに牛を連れて来てくれた。
牛のひく荷台の上でアリーナはほっと一息つき、ダイスのくれた水を飲んだ。
ダイスは牛に乗って操縦している。
荷物はアリーナだけで、出来る限り急がせてくれているのがよく分かる。
(遅いけれど、私の早歩きくらいはあるわね)
運動など全くしていないアリーナは体力がなく、到底スカイと待ち合わせの場所まで走り切ることは不可能だった。
広い静かな畑の中の道をしばらく牛に揺られていると、馬の足音が遠くですることに気付いた。
「ダイス! 止めて! 私を下ろして先に行ってちょうだい。誰かに私のことを聞かれても知らないと言って!」
アリーナは降りるとすぐに畑の中に身を顰めた。
(この領地で馬を持っているのは男爵家だけよ。我が家の馬は全滅しているから、男爵かライアンの馬の可能性があるわ……)
途中で使用人数人にすれ違ったが、こっそり"二人は今アリーナの部屋にいる"と、皆が教えてくれた。
そしてこの裏口がアリーナの部屋の窓から見えず、厩舎にも行きやすいと教えてもくれた。
使用人が味方になってくれることは、今までの頑張りを認めて貰えるようで嬉しかった。
それと同時に、使用人の生活のためにも、『国王に会わなければならない』と改めて思った。
問題なく外に出られたアリーナは、一縷の望みをもって厩舎に寄った。
「走れる馬はいる?」
「お嬢様! お怪我をして!!!」
「しーーーっ!!!」
口の前で人差し指を立てるアリーナに、御者は口篭る。
「門の前でやられた馬は脚を怪我していて走れません。他は皆んな寝ています……。起きてくれると良いのですが……」
小声で心配そうに言う御者の手をアリーナは取った。
「目を覚ますと信じましょう」
御者は静かに頷く。
「お嬢様、王都へ向かわれるおつもりですか?」
「ええ。スカイ様と領地を出た所で待ち合わせをしているの。そこまで何とか辿り着きたいのだけれど……」
昨日男爵とライアンが屋敷へ来たことを念のためにスカイへ伝えておくと、心配したスカイが迎えに来ると申し出たのだ。
大丈夫だと言っても聞いてくれず、お互いに妥協して中間地点で落ち合うこととした。
(まさかこのようなことになるとは思っていなかったわ。こんなことなら、スカイ様に迎えに来て貰えばよかったわ……)
アリーナは悔やんでも悔やみきれなかったが、後悔先に立たずだ。
こうなってしまったものは仕方がない。
「だれか従者を呼んで来ましょう」
「いいえ、目立ちたくないから一人で行くわ。私が抜け出したことにもすぐに気づくでしょうし、追って来るかもしれないから」
御者は心から心配そうな顔をしている。
「でしたら、屋敷を出て30分ほど歩いた所にあるダイスの家に寄ってみたら良いかもしれません。牛で荷物を引いているので……スピードは遅いですが、お嬢様一人引いて歩くのなら、歩行よりは断然早いかと……」
「そうなの? 考えてみるわ、ありがとう」
アリーナは屋敷の敷地から出て目立たないところまで行くと、一気に走り出した。
「ああ、もう! ヒールじゃ走りにくいわ!!!」
アリーナはヒールを岩にたたきつけて靴から取り除いた。
「そこが変な形をしているから、これでも走りにくいわね……」
しかしヒールがあるよりは転倒リスクは低そうだ。
アリーナは出来る限り走った。
(体力がなさすぎる……)
御者の言っていたダイスの家に、15分ほどで着いた。
(どうか居てちょうだい!)
「ダイス! ダイス! いる!?」
「はーい」
奥から青年が駆け出て来た。
「お嬢様!!!」
「私を運んでくれない? 急いでいるの! 出来るだけ速く!!!」
怪我をしてボロボロのアリーナを見て、”ただ事ではない”とすぐに察知したダイスは、速やかに牛を連れて来てくれた。
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ダイスは牛に乗って操縦している。
荷物はアリーナだけで、出来る限り急がせてくれているのがよく分かる。
(遅いけれど、私の早歩きくらいはあるわね)
運動など全くしていないアリーナは体力がなく、到底スカイと待ち合わせの場所まで走り切ることは不可能だった。
広い静かな畑の中の道をしばらく牛に揺られていると、馬の足音が遠くですることに気付いた。
「ダイス! 止めて! 私を下ろして先に行ってちょうだい。誰かに私のことを聞かれても知らないと言って!」
アリーナは降りるとすぐに畑の中に身を顰めた。
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