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33:妨害②
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「ライアンの勘は鋭い。正に当主の素質があるな! はははっ!!!」
「男爵様……」
愉快そうに高笑いをする後ろには、ライアンが無表情で立っている。
マントを羽織って……
それを見たアリーナは、"カッ"となる。
冷静になろうと"ふうっ"とひとつ溜め息をついてから、口を開く。
「馬車を壊したのはあなたですか?」
「そうだが? 私と父上でありこの家紋の長への反逆を企てていることがわかったのだ。何か文句でもあるのか?」
ライアンの横柄な態度から、アリーナとティーナへの遠慮を全て取っ払ったことがわかる。
つまりアリーナとティーナは、2人の中で切り捨てることが決定しているようだ。
「なんのことですか?」
睨みつけながら言うティーナに、男爵は近づいて行く。
咄嗟にティーナの前に両手を広げて立ちはだかったアリーナだったが、男爵の目にアリーナは入っていない。
右腕を大きく振り上げると、振り下ろしてアリーナの身体を思いっきり払い避けた。
ただの障害物のように。
自分の娘だということは忘れているように……
適当に振り下ろされたその手は、アリーナの左頬に命中した。
更に倒れた時に机に額を打ち、机の装飾がアリーナの右額に5cmほど一直線に傷を作り、血が滲み出ている。
「アリーナ!!!」
ティーナが声を上げた瞬間、ティーナの左頬にも衝撃が走った。
一切加減のないビンタは、ティーナの白い肌を一瞬で真っ赤にした。
そして徐々に腫れ出しているその頬に手をやることもなく、ティーナは男爵を睨む。
「……私は今まで、あなたに代わって必死に働いて来ました。この家紋を、領民を守って来ました。その間にあなたがしていたことはなんですか? 愛人にのめり込み、本来の自分の役割を放棄するだけでは飽き足らず……」
男爵はニヤッと笑う。
「それで、わしの他国や他の地域との違法取り引きを国に報告して、俺を陥れようとしたのだな。昨日、ライアンが貴様らの様子が怪しいと言うから、夜お前に睡眠薬を飲ませて部屋を調べて正解だった」
使用人を使って飲ませたのだろう。
「ライアンやわしに無関心で、翌日に王都へ二人で行くと言うではないか。わし達が来てから、執務室の書類を自室へ運び込んでいると情報があったから、調べてみる事としたのだが……」
「……」
「情報を流してくれるわし派の使用人も、まだこの屋敷にはいるのだ。はははっ」
高笑いをした後で男爵は、アリーナとティーナの手を後ろできつく結び、部屋を出て行った。
「アリーナの婚約者がクラーク公爵家の三男なのがな……。下手なことがしにくい。取り敢えずはここで大人しくしていろ!」
そう吐き捨てて。
この後はきっと、アリーナの部屋を調べに行くのだだろう。
(どうしましょう……)
かなりの余裕を持って出発しようとしていたため、まだ時間には余裕がある。
しかし馬がないとなれば、行く手段がない。
(私が行かなくてもスカイ様が男爵を潰してはくれるわ。ただ……私たちは……)
アリーナは窓から空をみることしかできなかった……
「アリーナ、傷は大丈夫?」
そうティーナに言われて、アリーナは額の傷に気付いた。
そういえば左の頬も痛い。
「大丈夫です……」
ティーナの腫れた左頬を見て、アリーナは胸が痛む。
アリーナはスカイの顔が脳裏に浮かび、下腹部をさすると、思った。
(諦めるのはまだ早いわ。出来る限りのことをしましょう)
そう決めると、アリーナは立ち上がった。
「お母様、手紙の封を切るナイフはお持ちですか?」
「……ええ、机の1番上の引き出しよ」
キョトンとして言うティーナに頷き、アリーナはナイフを取りに行く。
後ろで手首を結ばれているため取りにくかったが、何とか取れた。
「お母様、私の腕の縄を切ってください」
同じく後ろで手を縛られているティーナだが、大きく頷く。
「やってみるわ」
20~30分後、ようやくアリーナの腕の縄を外すことが出来た。
すぐにアリーナもティーナの縄をナイフで切る。
「行きなさい。気をつけるのよ」
アリーナは頷き、ティーナをギュッと抱きしめる。
「私たちの資料は、私たちが助かるためのダメ押しの資料です。証拠自体はスカイ様が持っているものだけでも十分なはず。あとは私が直接国王陛下にお会いすることができれば、私たちの持参資料がなくても私たちが助かる道もあるかもしれません」
「……そうね」
「出来る限りのことをして来るので、待っていてください」
そう言うと、アリーナはそっと部屋を出た。
”馬車や馬も使えないし、書類もない、もう私たちにはどうしようもない”と思っているのだろう。
部屋の前には見張りすらいない。
「舐められたものね……」
アリーナはそっと部屋を抜け出したのだった……
「男爵様……」
愉快そうに高笑いをする後ろには、ライアンが無表情で立っている。
マントを羽織って……
それを見たアリーナは、"カッ"となる。
冷静になろうと"ふうっ"とひとつ溜め息をついてから、口を開く。
「馬車を壊したのはあなたですか?」
「そうだが? 私と父上でありこの家紋の長への反逆を企てていることがわかったのだ。何か文句でもあるのか?」
ライアンの横柄な態度から、アリーナとティーナへの遠慮を全て取っ払ったことがわかる。
つまりアリーナとティーナは、2人の中で切り捨てることが決定しているようだ。
「なんのことですか?」
睨みつけながら言うティーナに、男爵は近づいて行く。
咄嗟にティーナの前に両手を広げて立ちはだかったアリーナだったが、男爵の目にアリーナは入っていない。
右腕を大きく振り上げると、振り下ろしてアリーナの身体を思いっきり払い避けた。
ただの障害物のように。
自分の娘だということは忘れているように……
適当に振り下ろされたその手は、アリーナの左頬に命中した。
更に倒れた時に机に額を打ち、机の装飾がアリーナの右額に5cmほど一直線に傷を作り、血が滲み出ている。
「アリーナ!!!」
ティーナが声を上げた瞬間、ティーナの左頬にも衝撃が走った。
一切加減のないビンタは、ティーナの白い肌を一瞬で真っ赤にした。
そして徐々に腫れ出しているその頬に手をやることもなく、ティーナは男爵を睨む。
「……私は今まで、あなたに代わって必死に働いて来ました。この家紋を、領民を守って来ました。その間にあなたがしていたことはなんですか? 愛人にのめり込み、本来の自分の役割を放棄するだけでは飽き足らず……」
男爵はニヤッと笑う。
「それで、わしの他国や他の地域との違法取り引きを国に報告して、俺を陥れようとしたのだな。昨日、ライアンが貴様らの様子が怪しいと言うから、夜お前に睡眠薬を飲ませて部屋を調べて正解だった」
使用人を使って飲ませたのだろう。
「ライアンやわしに無関心で、翌日に王都へ二人で行くと言うではないか。わし達が来てから、執務室の書類を自室へ運び込んでいると情報があったから、調べてみる事としたのだが……」
「……」
「情報を流してくれるわし派の使用人も、まだこの屋敷にはいるのだ。はははっ」
高笑いをした後で男爵は、アリーナとティーナの手を後ろできつく結び、部屋を出て行った。
「アリーナの婚約者がクラーク公爵家の三男なのがな……。下手なことがしにくい。取り敢えずはここで大人しくしていろ!」
そう吐き捨てて。
この後はきっと、アリーナの部屋を調べに行くのだだろう。
(どうしましょう……)
かなりの余裕を持って出発しようとしていたため、まだ時間には余裕がある。
しかし馬がないとなれば、行く手段がない。
(私が行かなくてもスカイ様が男爵を潰してはくれるわ。ただ……私たちは……)
アリーナは窓から空をみることしかできなかった……
「アリーナ、傷は大丈夫?」
そうティーナに言われて、アリーナは額の傷に気付いた。
そういえば左の頬も痛い。
「大丈夫です……」
ティーナの腫れた左頬を見て、アリーナは胸が痛む。
アリーナはスカイの顔が脳裏に浮かび、下腹部をさすると、思った。
(諦めるのはまだ早いわ。出来る限りのことをしましょう)
そう決めると、アリーナは立ち上がった。
「お母様、手紙の封を切るナイフはお持ちですか?」
「……ええ、机の1番上の引き出しよ」
キョトンとして言うティーナに頷き、アリーナはナイフを取りに行く。
後ろで手首を結ばれているため取りにくかったが、何とか取れた。
「お母様、私の腕の縄を切ってください」
同じく後ろで手を縛られているティーナだが、大きく頷く。
「やってみるわ」
20~30分後、ようやくアリーナの腕の縄を外すことが出来た。
すぐにアリーナもティーナの縄をナイフで切る。
「行きなさい。気をつけるのよ」
アリーナは頷き、ティーナをギュッと抱きしめる。
「私たちの資料は、私たちが助かるためのダメ押しの資料です。証拠自体はスカイ様が持っているものだけでも十分なはず。あとは私が直接国王陛下にお会いすることができれば、私たちの持参資料がなくても私たちが助かる道もあるかもしれません」
「……そうね」
「出来る限りのことをして来るので、待っていてください」
そう言うと、アリーナはそっと部屋を出た。
”馬車や馬も使えないし、書類もない、もう私たちにはどうしようもない”と思っているのだろう。
部屋の前には見張りすらいない。
「舐められたものね……」
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